編集長が語る!講義の見どころ
「正しさ」の本質を西洋哲学、東洋哲学から考える(テンミニッツTVメルマガ)
2020/06/03
皆さまこんにちは。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
「テラスハウス」(Netflix/フジテレビ)という人気リアリティー番組に出演されていた女子プロレスラーの木村花さんがお亡くなりになるという悲しいニュースが報じられました。原因として、その番組での木村さんの行動をきっかけにSNSで誹謗中傷が多数寄せられたことが挙げられています。また、新型コロナウイルスでの緊急事態宣言中には「自粛警察」という言葉も話題になりました。自粛していない人や店などをSNSなどで告発・追及したり、貼り紙で攻撃したりすることを指す言葉です。
SNSで「誹謗中傷」を繰り返す人、あるいは「自粛警察」のような行動にいそしむ人は、心のどこかで、自分自身は「正しい」と思っている部分があるのかもしれません。しかし、そこにこそ恐ろしさがないでしょうか。
そもそも、「正しさ」の本質とは何なのでしょうか。本日ご紹介するのは、テンミニッツTV講演会の場で、中島隆博先生(東京大学東洋文化研究所教授)と納富信留先生(東京大学大学院人文社会系研究科教授)に、東洋哲学と西洋哲学から見た「正しさ」というテーマを主軸にご対談いただいた講義です。
◆中島隆博×納富信留:哲学から考える日本の課題(全11話)
(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3199&referer=push_mm_rcm1
両先生はこの講義のなかで、とても興味深い指摘をしてくださいました。古代西洋においても、また古代中国においても、「正しい」という形容詞は「行為」に関わるものではなく、「人」に関わるものだったというのです。
つまり、現代人は、「これをやったら正しい」「これをやったら正しくない」というように、ある行為を評価するものとして「正しい」という言葉を使いますが、古代の西洋でも東洋でも、「人」が正しいか正しくないかを判断したということです。
納富先生は、古代ギリシャでは、「正しいことをやる人が正しい人」ではなく、「正しい人がやることが正しいこと」だと考えられていたと指摘されます。また中島先生は、古代中国でも「正しさ」が人に関わるものだった例として、中国古典に出てくる「君子」という言葉を挙げられます。どうやったら「正しい人=君子」になれるかが最大の問題だったのです。
「正しさ」を「行為」につけるか「人」につけるかで、考え方は大きく変わります。たとえば、政治家でもビジネスマンでも、相手の国の要路に賄賂を贈ってでも、国益に資する情報や資源を得なければならないことがあるかもしれません。ブラフをかけてでも、自分たちに有利に事を運ばなければならないかもしれません。そのようなことと,「正しさ」について、どう考えればいいのでしょうか。
この点について、中島先生は、2つの逸話をご紹介くださいます。1つは、父親がヒツジを盗んだことを密告して逮捕させた息子を「正直者」だといった人に対して、孔子が「それは逆で、子は父のために隠すべきだ」と語った話。もう1つは、それとは逆にイマニュエル・カントが、「誰かに追われている友人が逃れてきて、追っ手が『お前はあいつを匿っただろう』と問うてきた場合でも、嘘をついてはいけない」と指摘した話です。果たして、どう考えればいいのでしょうか……。一方、納富先生は、このカントの話を別の角度からご言及くださいます。
たしかに、「正しさ」を行為に結びつけると、ややもすれば人を糾弾してつるし上げるような雰囲気になってしまうかもしれません。一方、古代ギリシャや古代中国の知恵のように「正しさ」を人に結びつけると、「正しさ」の伸びしろや、より良い方向に進んでいくような「正しさ」、あるいは「許し」についても考えることができるように思えてきます。
非常に示唆に富む講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆中島隆博×納富信留(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3199&referer=push_mm_rcm2
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編集後記
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編集部の加藤です。
今週の月曜日(6月1日)から6月特集「進化するヒトの身体と脳の不思議」が始まりました。
「ヒトの臓器は、脳でも皮膚でも目でも、動物としてのヒトが進化してきた環境に適応してつくられている」と長谷川眞理子先生(総合研究大学院大学長)はおっしゃっていますが、そうして進化を遂げた身体、脳がいろいろな環境のなかでどう適応してきたのか、あるいは適応するために何が必要なのか。今回の特集では、その疑問に多角的に迫っていくための講義をラインナップしました。
中でも注目は、医学博士である河原英雄先生(日本顎咬合学会元会長)の「歯科の健康づくり」シリーズです。
2話目で、河原先生が「口腔ケアと肺炎」の重要な関係性についてお話されていますが、それに加えて注目してほしいと思ったのは以下の話です。
「口腔ケアを徹底していくことは、感染症の予防にもなりますが、口腔機能を再建することにもつながります。また、その延長上には、心のケアや脳と体が健康になるということが示唆されます」
これは、河原先生が紹介した症例を上濱正先生(日本顎咬合学会 元理事長)が音声による補足解説をされているところのお話ですが、口腔ケア、つまり口を清潔にすると、心や脳も健康になるということです。口(歯)と脳の関係が学べる、とても貴重なシリーズ講義です。ぜひご視聴ください。
<河原英雄先生の「歯科の健康づくり(2)口腔機能の再建と健康」はこちらからご視聴いただけます>
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3410&referer=push_mm_edt
<6月特集「進化するヒトの身体と脳の不思議」はこちらからご視聴いただけます>
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=97&referer=push_mm_edt
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