編集長が語る!講義の見どころ
プーチンの「核恫喝」の日本への深刻な影響/山内昌之先生【テンミニッツTV】

2022/05/24

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

プーチン大統領は、「核兵器の使用も辞さず」と明確に打ち出して、ウクライナを侵略しました。実はこのことは、これまでの国際政治の常識を大きく覆すものであり、日本にも深刻な影響を与えると山内昌之先生(東京大学名誉教授)はおっしゃいます。

本日はその山内先生の講座を紹介いたします。本講座は、先週金曜日からスタートした特集「日本の防衛は大丈夫か」にも入れさせていただきましたが、ここで山内先生が指摘する、プーチンの核恫喝の意味と、それに対するアメリカの姿勢の問題、さらに台湾有事を含む日本の課題の問題提起は、まさに必見といえましょう。

◆山内昌之:ウクライナ戦争に揺らぐ国際秩序(全4話)
(1)ウクライナの悲劇と祖国防衛戦争
「ウクライナの悲劇」について考えるための3つの観点
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4467&referer=push_mm_rcm1

山内先生がまず指摘するのは、プーチンによるウクライナ侵略で、国内外に避難したウクライナの人々の数が1000万人をさらに超える事態になっていることです。

最近のデータでは、ウクライナ国民の4分の1が難民生活を余儀なくされているといわれ、その数は東京都の全人口に匹敵します。この事態を、日本人としてどう考えるか。ここはまさに、人間としての想像力と共感力が問われるところでしょう。

山内先生はこの講座で、三つの視点から論を進めます。

第一は、一般の市民の生命を無差別かつ無慈悲に奪うロシアのプーチン大統領の非常に非人道的な、残酷といってもいい政治手法。

第二は、核兵器の使用をプーチンが示唆したことの重大な意味。

第三は、日本はこの戦争の悲劇から、何を教訓とすべきなのかということ。

とりわけ、重要なのは、第二の「プーチンの核恫喝」の深い意味です(講座第2話)。山内先生は次のようにおっしゃいます。

《核の保有国が、非保有国、つまり格下の国力しか持たない、あるいは格下の防衛力しか持たない国に対して、政治的な目的や個人的な野心を達成するために、核をもって、政治的、軍事的に恫喝しました。その結果、現代の世界は、大戦に発展するからという理由で、その自由行動を許してしまっています。つまり、ロシアの行為について、それを止めるすべがないというのが、現在のウクライナ問題を通して日本が、そして世界中が直面している現実です》

プーチンの核恫喝に対抗したら、エスカレーションして大戦になってしまうかもしれない。これは「恐喝の極致」だと山内先生は指摘します。

つまり、たとえばプーチンが一方的に核恫喝をしかけた場合、それに対して同じように核恫喝をもって反発したら、プーチンは核の使用をもっと高いレベルに上げていくだけで、恐喝がエスカレーションしていくだけになってしまう。山内先生はこれを「エスカレーションのジレンマ」だとおっしゃいます。

これまで核戦略は「相互確証破壊(MAD理論)をベースとしていました。核を使ったら全面核戦争になって世界に破滅するので、実際には使えない。核は保有しているが、それはお互いを牽制し、平和的な秩序を維持するための使えないものとして核だということです。そして実際に、「核兵器を使用する」と語るリーダーはいませんでした。

その一線をプーチンが越えたとき、どうなるか。具体的に、それをはねのけるための手段や目的について、ほとんどの国が思考停止になってしまっている。それはバイデン大統領もそうだと、山内先生はおっしゃいます。

山内先生は、中東においてオバマ大統領やトランプ大統領が積み重ねてきた行為の問題点を指摘します。オバマはシリアにおいて「化学兵器を使ったらレッドラインで、アメリカは介入する」と語りながら、実際には介入しなかった。トランプは「中東問題からアメリカは基本的に撤退する」といって中東をレッセフェール(なすがまま)の状態に置いてしまった。

これらを見てきたプーチンは、「アメリカはベタ下りする」と考えてしまったというのです。

このことが、今回のウクライナ戦争の要因となってしまっている。しかも、ウクライナ戦争が実際に起きたときに、アメリカやNATO諸国は、「第三次世界大戦への道を歩まないために、自らの手では軍事行動を起こさない」とはっきりと言い切った。

これをアジアに置き換えて考えるとどうか。日本にとっては、きわめて悲劇的な未来図しか見えてきません。

山内先生は次のように指摘します。

《核を保有し、国連安保理の常任理事国であるロシアが、その周辺国、あるいは隣国に侵攻、侵略したという事実が生じると、そのことが高い確率で別の機会に同じような事態が生じることを示唆している》

《アメリカやイギリスをはじめNATOの国々がエスカレーションのジレンマに陥った場合、加盟国への攻撃を自らのものと見なして、集団的に防衛権を行使するというNATOの第五条が発動されるのかどうかに関して、疑問あるいは懐疑心が浮かんでこざるをえないような面が、現在の状況にある》

NATO諸国からすれば、ウクライナ侵略は、目と鼻の先の危機で、自分たちの安全に死活的に関わる問題です。そうであってなお、上記のような懸念があるとすれば、極東アジアの危機についてはどうなのか。さらにいえば、日米安保の集団的自衛権が本当に発動されるのか否か……。

「日本は、膨張主義を抑止する努力から、身を遠ざけているばかりでいいのか」。その山内先生の問題提起が、深刻に胸に響く講座です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆山内昌之:ウクライナ戦争に揺らぐ国際秩序(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4467&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《ヨーロッパを理解するのに、キリスト教を理解しないでそれはできない》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4218&referer=push_mm_hitokoto

古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一(チェロ奏者)

「ヨーロッパを理解するのに、キリスト教を理解しないでそれはできない」というのが、下巻の結論といえば結論なわけです。そのあたりはいろいろのことを紹介しながら面白く書かれています。
私たちの国・日本は、近代ヨーロッパに非常に大きな影響を受けています。表面的な理解ではどうしても分からないことが、キリスト教を理解することによって氷解してきます。


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今週の人気講義
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“南無阿弥陀仏”と唱えて極楽浄土へ――法然の革命とは
橋爪大三郎(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4445&referer=push_mm_rank

ジョブズが考える「永遠に続く会社」、大事なのは価値観
桑原晃弥(経済・経営ジャーナリスト)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4450&referer=push_mm_rank

世界が抱える「3つの危機」と気候変動の深刻な関係
小原雅博(東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4433&referer=push_mm_rank

『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史(東洋思想研究者)
神藏孝之(松下幸之助記念志財団専務理事/松下政経塾副塾長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4471&referer=push_mm_rank

「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理(法政大学文学部心理学科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2848&referer=push_mm_rank


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて今回は、先週木曜日(5月19日)より配信開始となりました新講師・田中研之輔先生(法政大学キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事)の講義を紹介いたします。

◆田中研之輔:プロティアン~最先端の自律的キャリア形成 (全7話予定)
(1)変幻自在のキャリア論
10分でわかる「プロティアン・キャリア」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4473&referer=push_mm_edt

この講義は、田中先生の著書『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP)のエッセンスを分かりやすくお伝えするものです。
講義タイトルにある「プロティアン」ですが、その語源はギリシャ神話のプロテウスの神で、変幻自在に姿を変えていける神のこと。そのプロテウスとキャリアを掛け合わせたものがプロティアン・キャリアで、田中先生はこう話しています。

《表面的に姿を変えるだけではなく、内省的な意味でもしっかりと、例えば働き方への向き合い方や仕事に対するコミットメントについて、自分でちゃんと考えながら働くというのが、キャリア自律型のプロティアン・キャリアであるということになります》

ということで、ただ働き続けるためだけでなく、より本人の可能性を開いていくためのキャリア論ということです。
2話目も毎週木曜日配信予定です。ぜひ続けてご視聴ください。