編集長が語る!講義の見どころ
気候変動問題~世界の取り組みと日本の課題/島田晴雄先生【テンミニッツTV】
2022/06/14
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
いうまでもないことですが、「問題」には目前に迫った緊急のものと、長期を見据えてしっかり取り組むべきものとがあります。このバランスをいかにとるかは、まことに難しいものです。
昨今であれば、たとえばウクライナ侵略に伴うエネルギー事情の逼迫は「目前に迫った緊急の問題」、気候変動対策は「長期を見据えてしっかり取り組むべき問題」といえるでしょう。
最近では、「ウクライナ侵略で資源の行方がどうなるかわからない非常時に、カーボンニュートラルなどと呑気なことをいっている場合ではない」などという言説を目にすることもあります。しかし、長期的な問題が深刻なものであるならば、むしろ目前の危機を長期的な課題解決のためのテコとして考える胆力も必要もあるのではないか。
本日は、そのようなことを考えさせてくれる島田晴雄先生(慶應義塾大学名誉教授)の講座を紹介いたします。島田先生は、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)の歴史をひもときつつ、この問題の本質をわかりやすくお話しくださいます。
◆島田晴雄:COP26と気候変動問題の行方~世界の取り組みと日本の課題(全1話)
脱炭素は可能か?気候変動問題の現状と日本の問題点
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4392&referer=push_mm_rcm1
この講座は、島田先生の次の言葉から始まります。
《気候変動問題が大変なことになると最初に言った人は、どうやら2021年にノーベル賞を取られた真鍋淑郎博士です》
気候変動問題については、多くの科学者が多くの研究をし、異論反論を含めさまざまな主張がなされてきました。しかし、これまでの国際会議などを振り返りつつ、島田先生は次のように断定されるのです。
《実はIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)で、約60カ国234人の科学者が共同執筆している大レポートがあります。1万4000以上もの論文を引用していて、査読レビューが7万8000件というので、すごいのです。要するに、人類の知恵を全部集約したような報告書です。
ここではっきり言っているのは、人類の活動が温暖化を導いているのではないかというのがこれまでの考え方だったのですが、それを断定しました。もう異常気候も何もかも全部、人類のせいだと断定しています。それも莫大な調査研究に基づいているので、これが基本になっています》
「人類の知恵を全部集約して、人類のせいだと断定した」。この状況認識は、とても大事なものでしょう。
もう一つ、島田先生は次のような数字を挙げます。
《菅(義偉)氏によると、最初、経産省の積み上げ(試算)だと温暖化対策として2013年に対して40%まで削減できるということでしたが、それがイギリスは50数%と言っているので、恰好がつきません。おそらく小泉進次郎氏が猛烈に説得したのではないかと思いますが、46%とポツンと言って、その数値が今の日本の長期計画の基本になっています》
この数字と整合させるために、日本は再生エネルギーの割合を積み増しした。現在全エネルギー構成のなかで自然エネルギーは18%で、それを2030年までに22~24%にする計画を立てていた。しかし、温室効果ガスを2013年度から46%削減すると言ってしまったために、この自然エネルギーの割合を36~38%にした。
しかし、これは誰が見ても無理なので、日本は数字あわせだけして、やる気がないと見られている。原子力発電の割合として挙げている20~22%も、現在の状況で本当に実現できるとも思えない。要するに、日本の計画は計画になっていない。
このように島田先生は、爽快なまでに痛烈な断定をされます。
さらに島田先生は次のように喝破します。
《脱炭素は何かというと、要するに石炭と石油を止めようという話です。石炭と石油を全部ダメにするということは、今の文明の総否定なのです》
《クライメート・アクション・トラッカーという団体がものすごく緻密にデータを追っ掛けているのですが、彼らに言わせると、今のまま放っておくと、21世紀の末には、地球温暖化で1.5度ではなくて、2.7度、つまり1.2度高くなるのです。これはどういうことかというと、森林火災が起きたり、島嶼国が水の中に入ってしまったり、シベリアは溶けてしまいます。そういうことばかり起こるのです。そうすると、たぶん次の世代は生きていけません》
ここまでの思い切りができているか。そこも大いに問われるところなのでしょう。
とりあえず、国際社会にいい顔をするために、おためごかしに太陽光パネルを増やしてみる。やったふりをしておいて、国際社会の動向を眺めておく……そのような態度に出た場合、「これは地球の危機」だと思っている人々からは、容易に見透かされることになるはずです。
太陽光パネルにかぎらず、日本はさまざまな自然エネルギーの可能性にあふれた国土でもあります。日本ならではの解決策を、いかに積極的に構築し、実現していくか。むしろ、それが問われるのではないでしょうか。
そのことをしみじみと考えさせる講座です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆島田晴雄:COP26と気候変動問題の行方~世界の取り組みと日本の課題
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4392&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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《神さんと仏さんは、ずっと二人三脚》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1442&referer=push_mm_hitokoto
聖徳太子は「皇太子」だったことを忘れてはならない
大野玄妙(法隆寺 管長)
これは、用明天皇のご性格を示した部分です。「天皇、仏法を信けたまい神道を尊びたまう」。実はこの考え方が、明治維新後に廃仏毀釈が起こるまで、日本の国をずっと支配していました。神さんと仏さんは、ずっと二人三脚できたということです。そういうものの考え方です。
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、本日は先週水曜日(6月8日)から配信が始まった片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)の新シリーズ講義〈石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿〉を紹介いたします。
◆片山杜秀:石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿 (全9話予定)
(1)政治家・石原慎太郎の源流と核の問題
都知事、非核三原則…1970年・30代の慎太郎が書いていたこと
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4494&referer=push_mm_edt
この講義は、今年2月1日にお亡くなりになった石原慎太郎氏と、三島由紀夫、そして近衛文麿、この三人についていろいろと対比させながら、その類似点、相違点から、作家としての姿、考え方、あるいは政治家としての姿、考え方、その本質に迫っていくという内容です。
なぜいま、この三人なのか。また、そこから何が学べるのか。この答えはぜひ講義を続けてご視聴いただき、見つけてください。毎回ですが、片山先生のお話はとても鋭く、そして軽妙洒脱で、引き込まれること必至です。毎週水曜日配信で全9話の予定です。
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