編集長が語る!講義の見どころ
参院選の論点とポピュリズムの危険/特集&片山杜秀先生【テンミニッツTV】
2022/06/24
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
第26回参議院選挙が公示されました。7月10日が投票日となります。
参院選を衆院選より軽視しがちな方もいらっしゃいますが、実は参院選は日本の政治においては、かなり重要な意味を持ちます。解散がなく、6年任期で半数毎の改選なので、参院選の勢力図が、その後、しばらく日本の政治を左右することになるのです。
たとえば、1989年の参院選では消費税増税やリクルート問題、宇野宗佑総理の女性問題などが争点となって自民党が歴史的な大敗を喫しますが、もしこの結果がなかったら、その後の「政治改革」から「失われた30年」に至る混迷は違った様相になっていたかもしれません。
今回の参院選も、多くの論点があります。今後の日本の行方を見据え、どう選択するか。本日は、テンミニッツTVならではの論点を深掘りした特集と、そのなかから「ポピュリズムの本質と危険性」を鋭くついた片山杜秀先生の講座を紹介いたします。
■本日開始の特集:2022参院選を「深く考える」
はたして、2022年参院選の重要論点の「本質」とは!? ポピュリズムから政権論、野党論、そして国際問題、経済まで、テンミニッツTVならではの幅広い視野で深く考えてみましょう。
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=172&referer=push_mm_feat
・片山杜秀:都知事、非核三原則…1970年・30代の慎太郎が書いていたこと
・島田晴雄:岸田政権は落第点?求められる強力な司令塔と経済の復活
・曽根泰教:10分でわかる「野党論」
・曽根泰教:選挙と政治権力…「選挙に勝つ」とはどういうことか?
・本村凌二:独裁・共和政・民主政――繰り返されてきた世界の歴史
・柳川範之:新自由主義からの時代背景から「新しい資本主義」を問う
・小原雅博:ロシアによるウクライナ侵略で国際政治はどう変わったのか
■講座のみどころ:石原慎太郎に見るポピュリズムの本質と危険とは?(片山杜秀先生)
本日は特集のなかから、片山杜秀先生(慶應義塾大学教授)の講座を紹介いたします。今年2月に亡くなった石原慎太郎氏の文学と政治について、三島由紀夫、近衛文麿と対比し、さらにその政治について近衛文麿との対比も加えて論じた、片山先生らしい鋭い切り口の講義です。石原慎太郎と三島由紀夫の芸術論としても、とても興味深い内容ですが、この講座からは、ポピュリズムの本質と危険も明確に浮かび上がってきます。
◆片山杜秀:石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(全9話)
(1)政治家・石原慎太郎の源流と核の問題
都知事、非核三原則…1970年・30代の慎太郎が書いていたこと
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4494&referer=push_mm_rcm1
まず、この講座の全貌をご紹介すべく、2話以降のタイトル(予定)も書き出してみましょう。
◆(2)都知事・石原慎太郎への時代的経緯
学生闘争の街頭封鎖に知事の力で対峙せよ…国家革新の論理
◆(3)価値紊乱者・石原慎太郎と戦後派の時代
価値紊乱者たれ…「生命的な実感」の重視と旧世代への反逆
◆(4)三島と石原の芸術性は対極的
『潮騒』と『太陽の季節』…美への憧憬vs煽情的な太陽族
◆(5)セクト化する三島と大衆動員する石原
慎太郎がスポーツや五輪を強調した理由…大衆の欲望の解放
◆(6)石原慎太郎は保守主義かファシズムか
「石原と小田実って全然同じ人間だよ」…保守とは何か?
◆(7)石原慎太郎と近衛文麿の政治手法
『「NO」と言える日本』と「英米本位の平和主義を排す」と
◆(8)大衆の人気に頼る政治家の失敗
日中戦争、大政翼賛会…近衛に学ぶポピュリズムの自縄自縛
◆(9)ポピュリズムに陥らないために
情動に訴えるのではなく、思想性と理性と教養を回復しよう
まず片山先生は、1970年に発刊された『慎太郎の政治調書』(講談社)という本をご紹介くださいます。この本は、石原慎太郎が1968年に参議院議員になってから週刊誌に連載していたコラムをまとめた一冊ですが、すでにこの時点で、石原慎太郎が「都知事をめざすこと」が予見される内容や、現代の情勢にも通じるような「核兵器についての議論」が展開されているのです。
そして第3話から、三島由紀夫と対比させつつ、石原慎太郎の芸術について深掘りされます。
片山先生が注目するのは、デビュー当時の石原慎太郎が好んで使ったという「価値紊乱者」という言葉です。石原慎太郎は、これまでの経緯を踏まえて物事を判断していく「大人の論理」を軽蔑し、自らの「生命的な実感」を重んじて、煽情的かつ衝撃的にその「実感」を礼賛するような作品を次々と発表した。まさに戦前から戦後体制につながる価値観を嘲笑し、かき乱して、「太陽族」的なイメージを打ち出したのです。
石原慎太郎の芸術のスタイルは、大衆の中にある欲望を解放してみせ、また、強い敵にあえて挑んでみせて、大衆の喝采を浴び、大衆を動員していくスタイルだったと、片山先生は分析されます。
そのような芸術のあり方は、三島由紀夫と対極的なものでした。片山先生は、それを三島由紀夫の『潮騒』(1954年)と石原慎太郎の『太陽の季節』(1955年発表)を比べることで論じていきます。
この二つの作品は、いずれも海を舞台に若者の恋愛を描きますが、三島由紀夫は日本では失われたような古代の美意識への憧憬のような世界を描き出した。一方で石原慎太郎は、性と暴力の入り乱れた若者の現代的で遊戯的な風俗を描いてみせた。
この両者の違いは、政治性にも表れ、石原慎太郎が参院選全国区に自民党から出馬し、大衆の人気を集めてトップ当選したのに対し、三島は「楯の会」を結成して、先鋭的なセクト化の方向に歩を進めるのです。
ところで、「価値紊乱者」である石原慎太郎は、本当に保守といえるのか? 三島由紀夫は「石原と小田実は同じ人間」だと喝破したのですが、その心とは? それが論じられる第6話も必見です。
さらに片山先生は、石原慎太郎と近衛文麿を対比させます。石原慎太郎は、肉体的な直感を重んじて、強者に挑みかかり、大衆的な人気を獲得します。日米摩擦の真っ最中に発刊された『「NO」と言える日本』はそれを象徴する一冊でした。
一方、近衛文麿は、第1次世界大戦後にできた国際連盟を礼賛する風潮を強烈に批判する「英米本位の平和主義を排す」という論文を書いて、大衆的な人気を獲得します。
この両者の共通点から見えてくるものこそ、ポピュリズム政治の実像と限界です。片山先生は、それを詳細に論じたのち、第9話で「情動に訴えるのではなく、思想性と理性と教養を回復すること」の重要性を訴えるのです。
石原、三島、近衛の3者の比較により、現代日本の時代状況が明確に見通せるようになる、珠玉の講座です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆特集:2022参院選を「深く考える」
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=172&referer=push_mm_feat
◆片山杜秀:石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4494&referer=push_mm_rcm2
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レッツビギン! 穴埋め問題
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今回は近代人の「自由」についての問題です。ではレッツビギン。
私は、人間というのはホイジンガーのいった「ホモ・ルーデンス」であると考え ています。ホモ・ルーデンスは「( )人」です。それが基本だと思います。
あえていえば、「ホモ・ラボランス」(ラボランスは「labor」の言葉でも分か るように「働く人」)というのは、人間のあり方として二次的な存在だと思います。
さて( )には何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3726&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて本日は今週月曜日(6月20日)から配信開始となりました林望先生(元東京藝術大学助教授)のシリーズ講義〈『源氏物語』を味わう〉を紹介いたします。
◆林望:『源氏物語』を味わう(全8話予定)
(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
10分でわかる「源氏物語の基礎知識」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4503&referer=push_mm_edt
林先生は、第67回毎日出版文化賞特別賞を受賞した『謹訳 源氏物語』(祥伝社)の著者で、今回はその著書をもとに『源氏物語』の魅力に多角的に迫る、大変面白い講義となっております。
『源氏物語』の著者である紫式部は令和6年のNHK大河ドラマの主人公に決まりましたが、今回のシリーズ講義では紫式部が描いた『源氏物語』の世界、その表現の妙を堪能できること必至です。毎週月曜日配信で全8話の予定です。ぜひ続けてご視聴ください。
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