編集長が語る!講義の見どころ
編集部ラジオ&お酒とワインの「歴史と教養」/本村凌二先生【テンミニッツTV】
2022/09/13
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
本日は、9月13日配信の編集部ラジオと、「江戸と古代ローマの識字率と庶民文化の実情」に迫った本村凌二先生(東京大学名誉教授)の講座を紹介いたします。
■(1)編集部ラジオ《2022年9月13日(火):こんなふうに学んでいます、テンミニッツTV Vol.3》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4624&referer=push_mm_rcm1
前回も好評だった「こんなふうに学んでいます」。今回も、皆さまからのご投稿を紹介させていただきます。
いろいろな方々のご活用法は、テンミニッツTVをより有意義に使うためのヒントに満ちています。いままで、気がつかなかった使い方を発見できるかもしれません。ぜひご参考にしていただければ幸いです。
■(2)日本酒とワイン…江戸とローマのお酒の教養/本村凌二先生
お酒は人生を楽しく豊かにしてくれます。その楽しみを、さらに幾倍にも増してくれるのが、お酒にまつわる「教養」ではないでしょうか。
お酒の文化についての様々な逸話を知ったうえで、美味なるお酒を心ゆくまで愉しむ。これは、気の置けない人たちとお酒を飲むときにも、あるいは1人で晩酌をするときにも、かけがえのない時間を生み出してくれます。ある意味では、心を満たす「教養」の最たるものといえるかもしれません。
本日は、本村凌二先生(東京大学名誉教授)に、そんなお酒の「うんちく」を江戸とローマの比較でお話しいただいた講座を紹介いたします。大人気の「江戸とローマ講座」シリーズの「日本酒とワイン編」ですが、今回も、本村先生のお話は、それぞれの地のお酒の歴史から、ディオニュソス信仰などまで、縦横無尽。まことに楽しい談義が展開されます。
◆本村凌二:江戸とローマ~日本酒とワイン(全4話)
(1)醸造技術の進歩と輸送手段の変遷
樽廻船とアンフォラの山、酒文化を謳歌した江戸とローマ
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4561&referer=push_mm_rcm3
ワインの場合、出来が良かった年のものを保存しておいて、年代物のワインとして愉しむことが行なわれますが、本村先生は、このような文化は古代ローマの時代には確立していたとおっしゃいます。
今年のワインは出来が良い、非常に甘かった、酸っぱかったなどという記録が、その年の平均気温などを読み解く1つのヒントになるのだと本村先生はおっしゃいます。まさに歴史研究の脇道のおもしろさでしょう。
江戸の場合、16世紀後半に醸造技術も発展して、清酒づくりが行なわれるようになり、また火入れという加熱殺菌も行なわれて保存性が高まります。
良く知られているように、美味しい酒の産地とされたのは江戸近隣ではなく、灘などの上方でした。そのため、「樽廻船」と呼ばれる酒専用の海運も行なわれるようになります。
海運で各地からお酒を運んできたのは、古代ローマも同じでした。本村先生は、ローマ郊外の「モンテ・テスタッチョ」をご紹介くださいます。ここは、各地からお酒(ワイン)などを運んできたアンフォラ(壷)が積み重ねって丘のような山ができあがっている場所です。
古代ローマも江戸も、お酒にかける人々の情熱をうかがわせます。
ちなみに、江戸でどれほどのお酒が飲まれていたか。この講座では、小泉武夫先生(東京農業大学妙世教授)の調査が紹介されますが、元禄の頃(1600年代末)には四斗樽(72リットル入り)で年間に64万樽。幕末には100万樽とも180万樽ともいわれるといいます。
180万樽だったとすると、当時の江戸の人口100万人で割っても、年間1人1.8樽(=130リットル)換算です。もちろん老若男女合わせて100万人の人口のすべてがお酒を飲むわけではありませんから、はてさて、呑兵衛は毎日どれほど飲んでいたのでしょうか(笑)。
さらに話題は広がっていきます。江戸ではお酒を薄めて飲んでいたことはよく知られていることでしょう。当時の日本酒(原酒)は、今のお酒より糖度(甘さ)もアミノ酸も多く、トロッとして、みりんのような風味があるものでした。それを、4倍から5倍に薄めて飲んでいたのです。
当時、税金が製造量に対してかかっていたこともありました。加えて、上述のように「下りもの」として江戸など各地に運ばれたので、濃い原酒を送って、消費地で薄めて販売したほうが都合が良かったのです。
実は古代ローマでも、ワインを薄めて飲んでいたようです。冬にはお湯割りにしたり、夏には氷室の氷雪を入れて飲んだり。もちろん、古代ローマの娯楽の華ともいえる公衆浴場でもお酒は愉しまれていたといいます。
さらに講義は、ポンペイの遺跡から発掘された「ワインとファストフードのお店」の話、いまだにフランスのワインが美味しいとされるのは、ガリアと呼ばれていた頃に樽詰めの方法がこの地で開発されたからだという話、ヨーロッパのシンポジウム(饗宴)の話、江戸の大酒飲みと古代ローマの深酒の話……などと広がっていきます。
最終話(第4話)では、ディオニュソス信仰について語られます。古代ギリシアでも古代ローマでも、「アポロン的」な合理性だけではなく、「ディオニュソス的」な非合理性が重んじられたといいます。
キリスト教文化が入って、そういうものを抑えがちになりますが、リラックスした状態で精神的な解放を味わうことが重んじられ、それがディオニュソス信仰につながっていたのです。
ローマ時代には、バッカス(ローマ神話での「ディオニュソス」の名)祭礼の規模を小さくしろという規制も出たそうですから、逆に、どれほどの「盛り上がり」だったかが容易に想像されます。
……などなど、興味深い話題が満載の本講座、必ずや人生の楽しみと深みを増してくれることでしょう。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆編集部ラジオ:2022年9月13日(火)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4624&referer=push_mm_rcm2
◆本村凌二:江戸とローマ~日本酒とワイン(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4561&referer=push_mm_rcm4
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☆今週のひと言メッセージ
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《情報を削ぎ落した中で見えてくる人間のあり様》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4244&referer=push_mm_hitokoto
格差や貧困の問題を解決するための鍵は反資本主義的なもの
中島隆博(東京大学東洋文化研究所 教授)
例えば禅寺で何をするかというと、禅寺でするのは情報をたくさん入れることではたぶんなくて、逆に情報を削ぎ落していくことです。私たちは、情報でお腹いっぱいになってしまうのです。そうではなくて、情報を削ぎ落した中で見えてくる人間のあり様にいったん立ち入らないといけないのではないかという気がします。
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、先週土曜日(9月10日)から新講師である徳岡晃一郎先生(株式会社ライフシフト 代表取締役会長CEO/多摩大学大学院教授・学長特別補佐)のシリーズ講義が配信開始となりました。
◆徳岡晃一郎:人生100年時代の「ライフシフト概論」 (全9話予定)
(1)人生100年時代のインパクト
「VUCAの時代」の鍵はマルチステージへのライフシフト
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4602&referer=push_mm_edt
人生100年時代は「VUCAの時代」といわれているそうですが、「VUCAの時代」のVUCAとは、“Volatility”“Uncertainty”“Complexity”“Ambiguity”の頭文字を取った言葉で、「VUCA(ヴーカ)」と読むそうです。
つまり、徳岡先生いわく「世の中が非常に変化していて、かつ不透明で、あいまいで、何が正しいことなのかもよく分からない。基本的に今までどおりにはいかないということで、意思決定をするにしても非常に大変な時代になってきている」ということです。
そうした大変な状況のなか、長くなった人生を豊かに生き抜くためにはどうすればいいか。シリーズのなかでいろいろな方法論、可能性が提示されています。ぜひシリーズを通してご視聴ください。毎週土曜日配信で全9話予定です。
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