編集長が語る!講義の見どころ
意外と知らない本当の「世界史」/特集&宮脇淳子先生【テンミニッツTV】
2023/01/20
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
現代の世界の動きを深く知るためにも、「世界史」の教養が必須であることはいうまでもありません。
しかし、日本の学校で教えられる「世界史」は、ぶつ切り、輪切りになっていて、どうにも「歴史の流れ」がわかりづらいのも事実です。実は、このような「世界史」を学校で教えているのは日本だけ。日本ならではの「いびつ」なものという事実もあるのですが……。
しかし、いったん「流れ」や「歴史を動かす要因」が見えてくると、世界史はたまらなく「おもしろく」なります。今回の特集では、そのような「世界史の愉しみ」を教えてくれる講座を集めました。
■本日開始の特集:意外と知らない本当の「世界史」
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=103&referer=push_mm_feat
・宮脇淳子:なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
・福井義高:第二次世界大戦をソ連から見る意味はどこにあるのか
・山内昌之:中東・ロシアの混乱は「サイクス・ピコ秘密協定」に起因
・本村凌二:フランス革命を考える上で鍵となるのはルイ14世と啓蒙思想
・本村凌二:ヴェネツィアがナポレオン登場まで共和政を維持した理由
・山内昌之:ムハンマドは神の啓示を受けた預言者で共同体の最高指導者
・本村凌二:古代ローマの歴史は2000年!人類史の経験の殆どがある
・本村凌二:アテネ以外のポリスの多くでは「僭主政」がずっと続いた
・島田晴雄:イスラエル、1900年に及ぶ離散と迫害の歴史
■講座のみどころ:世界史はモンゴル帝国から始まった(宮脇淳子先生)
さて、世界史を動かす要因とは何か。もちろん様々な要素はあります。マルクス主義史学では、「社会の下部構造(=経済的構造)が上部構造(政治的社会構造)を動かす」などといわれますが、忘れてはいけないのが「他の勢力の影響」でしょう。
より具体的にいえば侵攻されたり、影響を受けたり、支配下に入れられたりなどということです。そのような「外からの刺激」が歴史を動かしてきたのは明々白々な事実です。
そのことを考えるときに、忘れてはならないのが「モンゴル帝国」でしょう。なにしろ、あっという間に、東西にまたがる大帝国を築き上げたのですから。
モンゴル史研究の第一人者である宮脇淳子先生(公益財団法人東洋文庫研究員)は「世界史はモンゴル帝国に始まる」とおっしゃいます。はたしてどのようなことなのでしょうか。
◆宮脇淳子:モンゴル帝国の世界史(全7話)
(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4749&referer=push_mm_rcm1
さて、「世界史がモンゴル帝国から始まる」とはどういうことか。
これは宮脇淳子先生のご主人でいらっしゃった故・岡田英弘先生が提唱されたものです。端的にいえば、それまでバラバラだった東洋と西洋が結びつけられたということになります。
宮脇先生は「歴史(ヒストリー)はストーリー(物語)であり『筋道』」だとおっしゃいます。その歴史を考えるときに、案外と大きな「壁」になるのが「歴史叙述や、言葉の意味の大きな違い」です。
そのことを考えるときには、まず日本の世界史がどのように形成されたかを考える必要があります。日本に「西洋史」が体系的に入ってきたのは、明治時代。ドイツから実証史学が導入されました。
その西洋史に刺激されるかたちで、明治以降に「東洋史」が形づくられます。明治以前も『史記』や『十八史略』など様々な「中国の史書」が日本では読まれてきましたが、そのような史書をベースに、実証史学的な見地も取り入れつつ、中国周辺の歴史もまとめられて「東洋史」となっていくのです。
しかし、そもそも東洋と西洋では、基本的な考え方がまったく違います。
宮脇先生は「革命」や「皇帝」という言葉を例に引きつつ、こう指摘されます。
《「revolution」は、日本人が翻訳する際に「漢字の『革命』と同じで、天命が変わるのだ」と思って、「革命」と明治時代に翻訳してしまったのです。
中華文明の「革命」は、天命が変わることです。つまり、皇帝は天が命じた人で、その人の治世がまずいと、天が首を替える。
ところが、ヨーロッパの「revolution」とは、横にゴロゴロと回って変化するということであって、人間が、人間技でその国を倒して変えていくことです。なので、哲学的にいうと全く背景が違っています》
日本人は、ついつい「革命」と聞くと「正義が悪を倒す」などというイメージを抱きがちですが、それは東洋的な伝統を背景にしたものなのかもしれません。
同様に「皇帝」という言葉も、東洋と西洋とではまったく意味あいが違うのですが、同じ言葉を使っているので、日本人は勘違いしているところもあるということです。
そのようにまったく「歴史的叙述」からして異なる東洋と西洋。その両者を結んだのが中央アジアの遊牧民でした。
中国の秦や漢の時代に大きな脅威を与えていた「匈奴」が、やがて西に移動して「フン」族と呼ばれるようになり、それがきっかけてヨーロッパの民族大移動が起きたといわれます。そのような昔から「歴史を動かす力」として大きな影響を与えていたわけです。
さらに「モンゴル帝国」は、ユーラシア大陸の全域にわたる大帝国を築き上げ、東洋と西洋を物理的に結びつけたのです。
しかし、それにしても「モンゴル帝国」は、チンギス・ハーンからその息子、さらに孫の世代で、なぜあそこまで一気に版図を拡大できたのでしょうか。
その秘密も、宮脇先生はこの講座で詳細にお話しくださっています。
もちろん、チンギス・ハーンに人間的魅力があったことも間違いありません。加えて、他の勢力を圧倒できるだけの合理的な仕組みがありました。
たとえば、配下についた部族を「千人隊」という単位で編制します。百人隊が10集まったら千人隊になる。千人隊が10集まったら万人隊になる。そのように合理的な単位で管理していたので、人口調査から戦争のときの指揮系統まで一気通貫していました。
さらに、宮脇先生は「戦利品は『株』と同じだった」といいます。戦争に勝って、戦利品を得たら、指揮官が2割をとって残りは下に等分される。するとその下でも指揮官が2割とって残りは部下に等分され……、というかたちで、わかりやすく明朗に配分されていたのです。
この仕組みであれば、戦争に強い指導者の配下になれば、安心して収益分配にあずかれることになります。だからこそ、皆が競うように「強い人間」に付き従ったというのです。
加えて、モンゴル帝国がなぜ急激にあれほどまでに拡大した秘密は、「神託」と「イスラム商人」にあるとも、宮脇先生は指摘します。イデオロギーの重要性や、商業ネットワークの背景の重要性も深く考えさせてくれる必見のご指摘ですが、その他の様々な要素も含め、「モンゴル帝国の強さの秘密」の詳細はぜひ、講座本編をご覧ください。
さらに学んでおきたいのが、モンゴル帝国が後世に与えたインパクトです。
実は、モンゴル帝国が、その後の「大航海時代」や「資本主義の誕生」に大きな影響を与えたのだといいます。
モンゴル帝国ができたことによって、イスラム商人が東西交易を握って、大きな富を得ることになります。ヨーロッパ人たちは、魅惑的な東洋の物品に魅了されるようになりますが、しかしやがて「イスラム教徒に関税を取られたくない」と考えるようになり、海路に乗り出していく。
さらに、モンゴル帝国が広大な地域を支配し、各国の為替取引など金融のしくみが整備されたことが、資本主義を生むきっかけになっていく……。
そして実は、ロシアや中国は、モンゴル帝国時代の影響を色濃く残しているというのですが、それらもぜひ講座本編をご参照ください。現代のロシアや中国の本質を、しっかりと把握するためにも必見です。
宮脇先生のスピード感あふれるお話しを聞いているうちに、あっという間に大局的で躍動的な「世界史の見方」をつかむことができる講座です。
(※アドレス再掲)
◆特集:意外と知らない本当の「世界史」
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=103&referer=push_mm_feat
◆宮脇淳子:モンゴル帝国の世界史(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4749&referer=push_mm_rcm2
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レッツビギン! 穴埋め問題
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今回は「江戸の酒文化」についての問題です。ではレッツビギン。
当時のお酒は、まだ清酒の醸造技術がきちんとできていない段階で、どぶろくとほとんど変わらないような形でした。これは日持ちがしないので、早く運ばなければいけない。そういうリスクがあったため、最初は菱垣廻船で送っていたのが、だんだん酒専用の( )というものができてきます。
江戸の半ばぐらいからは、( )が中心になって、お酒を運ぶようになりました。これ以降、江戸の人間は、とにかくいろいろなところで毎日お酒を飲むようになったわけです。
( )には同じ言葉が入ります。さて何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4561&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、最近読んだ「母の友」(2023年2月号・福音館書店)のなかでとても興味深い話が載っていたので、紹介いたします。
その話は、森田真生氏(独立研究者)のコラムのなかで紹介された数学者・岡潔の「義務教育私話」というエッセイについてです。こうありました。
〈紙や黒板に書かれた数字をよく見る方が、もちろん間違いは少なくなる。だが、小さな間違いをいくら回避できても、それで全体の流れを見失っては本末転倒である。むしろ、本質をきちんとつかんでいる人ほど、細かなミスはするものだと岡はいう。
本質をつかむために必要なのは、「未知に向かって見る目」である。それは目の前にある数字の辻褄を合わせるだけとはまた別の種類の目なのである。〉
私が注目したのは、〈本質をつかむために必要な「未知に向かって見る目」〉というところです。これは、昨年開催されたウェビナーで小宮山宏先生が説いていた以下、教養にとって大事な3要素の一つに通じるお話ではないかと感じた次第です。ぜひご視聴ください。
教養とは…本質を捉える知、他者を感じる力、先頭に立つ勇気
小宮山宏(東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長)
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4649&referer=push_mm_edt
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