編集長が語る!講義の見どころ
培養肉の可能性~常識を劇的に変える「科学技術」/特集&竹内昌治先生【テンミニッツTV】
2023/02/03
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
1つの技術の発明が、社会をガラリと変えてしまうことがある。人類が直面している課題や危機を、みごとに解決してしまうこともある。「技術」のおもしろみや、夢やロマンは、まさにそのようなところにあるのではないでしょうか。
技術への夢があるかぎり、未来を信じ、切り拓くことができる。そのようにも思います。
今回の特集では、「その技術が実装されれば社会が変わる。その考え方を聞けば常識が一変してしまう」ような劇的な「科学技術」として、5つの講義をピックアップ。なぜこの「技術」が劇的なのか。ぜひ、話題の技術の「意味」を感じてみましょう。
■本日の特集:常識を劇的に変える「科学技術」
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=109&referer=push_mm_feat
・竹内昌治:食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
・廣瀬通孝:10分でわかる「メタバースとVRの関係」
・小宮山宏:023年頭所感…「農業・林業+ソーラー発電」で解決
・武田俊太郎:10分でわかる「量子コンピュータ」
・加藤真平:ディープテックのシンボルとして自動運転の民主化を目指す
■講座のみどころ:「培養肉」研究の現在地と未来図(竹内昌治先生)
本日は特集のなかから、竹内昌治先生(東京大学大学院情報理工学系研究科教授)の講座を紹介いたします。
皆さま「培養肉」はご存じでしょうか。文字どおり、人工的に「培養」によってつくられる肉です。ニュースなどで、研究が取り上げられることもありますので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
竹内先生は、この「培養肉」研究の第一人者で、2022年4月には、日清食品ホールディングスとの共同研究で「食べられる培養肉」の作製に日本で初めて成功したとしてニュースでも大きく取り上げられました。2019年には、世界で初めて牛肉由来の筋細胞を用いたサイコロステーキ状(1センチ×0.8センチ0.7センチ)の立体筋組織の作製にも成功しています。
アメリカのA.T.カーニー社は、2040年には培養肉が69兆円くらいの世界市場を持つと予測しているといいます。そのときの食肉市場が全体では200兆円くらいといわれているので、3分の1くらいが培養肉になるという算段です。
そう聞くと、「培養肉」がまことに大きな可能性を持つ技術だということが見えてきます。しかし一方で「培養」でお肉をつくることに、なんとなく不安感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
はたして「培養肉」はいかなる技術で、いま、なぜ必要とされるのかについて、竹内先生が詳しくお話しくださいました。未来の食事情も垣間見ることができる講座です。
◆竹内昌治:培養肉研究の現在地と未来図(全5話)
(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4779&referer=push_mm_rcm1
一口に「培養肉」といっても、実はいろいろなパターンがあると竹内先生は講座の第1話で教えてくださいます。
《これは、カニとカニカマでよく喩えられると思います。カニカマを作ろうと思ったときに別にカニを作る必要はないし、カニの細胞を取ってくる必要もなくて、カニっぽいものをいかに食品添加物や味付けによってうまく食品として完成させるかというところがポイントになってきます。カニカマ市場は今すごく人気で、むしろ本物のカニよりカニカマのほうが好きだという人もいるくらい大きな市場になりつつあるということで、ビジネスとしては展開できると思います。(中略)
そういう意味では、僕はフェイクミートのゴール、成熟化は比較的近いところにあるではないかと思います。例えば10年くらいで、本当においしいカニカマ市場みたいなもので、培養肉のフェイクミート市場というのができてくるかもしれません。
一方、僕らがやっているような、動物の筋肉を切り出したステーキ肉のようなものは、本当に細胞がたくさん存在していて、細胞自体が筋肉の繊維をきれいに整った状態で組織化しているのです。そういうものを体外で作ろうと思うと、ものすごく高度な「ティッシュエンジニアリング」と呼ばれる分野が関わってくるのです》
カニカマとカニのたとえは、とてもわかりやすいイメージです。竹内先生の研究は、まさに「リアルミート」そのものをつくりだそうというものなのです。
しかし、「体外で細胞を育てて組織を作る」というのは簡単なことではありません。
これまで各国の研究で、「本物の組織の一部の機能を模倣することができるような組織を作りました」という報告はたくさんあったとのことですが、「まったく見間違うような組織を、細胞だけを育てて体外で作り込んだ」というのはないくらい、体外で体内と同じような環境を作って、そして培養するというのはかなり難しいゴールなのだと、竹内先生はおっしゃいます。
では、なぜ「培養肉」の技術が必要なのか。竹内先生は4つの理由を挙げます。1つは人口増加に伴うタンパク質不足(食糧難)。2つ目は環境負荷。3つ目は安全性。4つ目が動物福祉の問題です。
人口がたとえば100億人にまで増加して各々が肉を食べたいとなったときに、肉の供給を増やせるか。実は、これ以上の畜産の拡大は、けっして容易ではないといいます。
その理由は、人間が出している温室効果ガスの14.5パーセントくらいが畜産由来だといわれていること、また、1キロのお肉を作るのに水は1.5万リットルから2万リットルくらい使われ、餌(大豆やトウモロコシなどの穀物)は11キロから25キロくらい使われているといわれていることです。
これが環境の問題や倫理の問題に直結することはいうまでもありません。
また、安全性の面でいえば、大きく懸念されるのが鳥インフルエンザや豚熱などの感染症です。そのような感染症を防ぐためということもあって、米国で使われている抗生物質の約8割は、人間ではなく家畜に打たれているといいます。しかし、抗生物質が大量に使われると、耐性菌もどんどん生まれるイタチごっこになってしまいます。
さらに、動物福祉の見地でいうと、現在の大量消費文明のなかで、フードロスが非常に大きな問題になってきています。年間でお肉として廃棄されているものを牛に換算すると、世界全体でだいたい1年間に7500万頭分(!)が殺されて、食べられずに捨てられているといいます。
このような状況を打開する可能性をもつのが「培養肉」の技術なのです。では、実際にどのような技術なのでしょうか。
竹内先生は、こうおっしゃいます。
《細い針を牛のお尻にブチッと刺します。針を抜きますと、その針の中に肉片がちょっとだけ入っています。それが、例えば数グラムくらいの肉片です。
筋肉の断片の中に、筋肉が切れたり炎症を起こしたりしたときに、その炎症を起こしてダメになった細胞に置き換わって筋肉になっていくような、筋肉の元となる細胞がいくつか存在しています。これが本当に数えるくらいしか、その数グラム中にはないのですが、それだけを取ってくるのです。
その細胞をバイオ液に浸ける。そうすると、増殖能がありますから、たくさん増やすことができるのです》
もちろんこの技術には、数多くの困難や課題もあります。その実際は、竹内先生が講座本編で図を用いながらわかりやすくお話しくださっていますので、ぜひご覧ください。
開発の醍醐味に触れながら、食文化の未来についても深く考えることができる講座です。
(※アドレス再掲)
◆特集:常識を劇的に変える「科学技術」
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=109&referer=push_mm_feat
◆竹内昌治:培養肉研究の現在地と未来図(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4779&referer=push_mm_rcm2
----------------------------------------
レッツビギン! 穴埋め問題
----------------------------------------
今回は「クラシックと楽器の歴史」についての問題です。ではレッツビギン。
皆さんになじみ深いクラシックの楽器というと、たとえばヴァイオリンを思い浮かべる方が多いのではないかと思います。実はヴァイオリンも、それほど古くない楽器です。ヴァイオリンが実用的な楽器になったのは、音楽史では( )時代と呼ばれるころ、17世紀の終わりから18世紀の半ば近くまでぐらいの時代です。これまた、江戸時代に完全に入っていて、江戸幕府が開かれてから100年ぐらい経つころにようやくヴァイオリンという楽器が発明されます。
さて( )には何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3022&referer=push_mm_quiz
----------------------------------------
編集後記
----------------------------------------
皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて本日は今月(2月)1日より応募が始まりました2月のプレゼント本についてお伝えいたします。
今月は上野誠先生(國學院大學文学部日本文学科 教授/奈良大学 名誉教授)の著書(以下)を抽選で10名様にプレゼントいたします。
<今月のプレゼント本>
『折口信夫「まれびと」の発見 おもてなしの日本文化はどこから来たのか?』(上野誠著、幻冬舎)
https://www.amazon.co.jp/dp/4344039556/
◆内容紹介
折口信夫没後70年――今読みたい教養の書
古典学者、民俗学者、歌人として全国を旅し、日本人の魂のありようを見つめ直した知の巨人
客として訪れる「まれびと」をもてなす「まつり」。年中行事こそ日本文化の核であり、茶道、華道、建築、料理、芸能のすべてが、「まれびと」への奉仕から生まれたもの。明治以降の近代化と敗戦により、断ち切れそうになった日本人の心の歴史を伝えようと折口は考えた。その魂の古代学を上野先生がわかりやすく解説。
ご希望の方は以下よりご応募ください(応募締切は2月20日までです)。
https://10mtv.jp/?referer=push_mm_new_function
※応募方法は、トップページ内に表示されている「今月のプレゼント」からご確認ください(応募前の方のみ表示されます)。
また、好評配信中の以下、上野先生のシリーズ講義もぜひご視聴ください。
◆上野誠:折口信夫が語った日本文化の核心 (全4話)
(1)「まれびと」と日本の「おもてなし」
「まれびと」とは何か?折口信夫が考えた日本文化の根源
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4771&referer=push_mm_new_function
人気の講義ランキングTOP10
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照