編集長が語る!講義の見どころ
投稿募集&昭和の妖怪・岸信介の知られざる実像とは?/井上正也先生【テンミニッツTV】

2023/02/21

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

先日から始まりました《学びの投稿アカデミア》の第1回投稿募集ですが、いよいよ応募締め切りが1週間後の2月28日(火)に迫ってまいりました。

第1回めのテーマは「テンミニッツTVの学び方・活用法」です。皆さまの日々の使い方を、ぜひお気軽にご投稿ください。

・応募ページ:
https://10mtv.jp/review/?review_id=1&referer=push_mm_new_function
・字数:400字程度(本文)
・募集期間:2月14日(火)~2月28日(金)
・入選発表:3月14日(火)(入選発表は掲載をもって代えさせていただきます)
・入選賞:2000円の図書カードを謹呈します(入選発表の翌月初に発送します)


さて、本日は2月18日(土)より配信が始まりました井上正也先生(慶應義塾大学法学部教授)の「岸信介」講座を紹介いたします。

岸信介といえば、代名詞のように「昭和の妖怪」という言葉がついてまわります。

たしかに、戦前の満洲国で大きな影響力をふるった「ニキサンスケ(東条英機、星野直樹、岸信介、鮎川義介、松岡洋右)」の1人として数えられ、東條内閣で商工大臣として入閣。戦後はA級戦犯に指名されて、約3年間獄中へ(1948年に不起訴・釈放)。1952年に公職追放解除となると、翌1953年4月に衆議院選挙に当選し、それからわずか4年で総理大臣になります(1957年2月)。

総理在任中は、なんといっても「60年安保闘争」で記憶されている方も多いことでしょう。

「保守の右派の巨魁」というイメージを持つ方も多いと思いますが、戦前は「革新官僚」として鳴らし、戦後に政界復帰をめざした初期には日本社会党に入党しようともしています。また戦時中には、東條内閣を倒閣する引き鉄を引いた人物でもありました。

井上先生も指摘されるように、まさに毀誉褒貶が相半ばする政治家ですが、しかし、その歩みを追っていくと、戦前から戦後の時機の日本の「実像」がよく見えてくることも確かです。

◆井上正也:岸信介と日本の戦前・戦後(全7話)
(1)毀誉褒貶相半ばする政治家
「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4814&referer=push_mm_rcm1

井上先生は、まず第1話で「昭和の妖怪」と呼ばれる岸信介について、「われわれもステレオタイプなイメージ、あるいはイデオロギーから逆算して、それを岸という人に投影しているところが強い」と指摘されます。「歴史研究という観点からすると、そういったある種の神話的なものを少しずつ剥いでいって、実体を明らかにしていくべき」だというのです。

たしかに、おっしゃるとおりでしょう。

では、岸信介の実像とはいかなるものだったのか。井上先生はまず、岸信介の学生時代からひもときます。

岸は、1896年(明治29年)に山口県で生まれ、1914年(大正3年)に山口中学を卒業して第一高等学校に進み、1917年(大正6年)に東京帝国大学に入学。1920年(大正9年)に卒業して、農商務省に入省します。ちなみに、農商務省は1925年(大正14年)に商工省と農林省に分割され、岸は商工省に配属されます。

岸信介が学生時代に大きな影響を受けたのは「国家社会主義」でした。岸自身が語るところによれば、大学時代に大きな影響を受けた人物は、北一輝と大川周明です。

北一輝とはいかなる人物であったか。井上先生は簡明に次のように解説くださいます。

《北一輝という人は、非常に簡単にいうと、天皇を中心とする国体思想です。そういったものと私有財産制に制限を加えようという社会主義的な考え方をミックスさせて、国家社会主義という思想を主張した人です》

北一輝について「右翼」というイメージを持っている方も多いでしょうが、いってみれば社会主義を実現するのに天皇を担ごうとするような思想で、その本質はまさに「国家社会主義」でした。

だからこそ、北の思想は当時の日本でも危険思想とみなされており、その著作は発禁処分になっていました。岸は発禁処分になっていた『国家改造(案)原理大綱』という本を取り寄せて、徹夜で筆写したともいわれます。

一方の大川周明は、端的にいえば「アジア主義」を唱えた人物でした。その思想への傾倒が、後年、岸が首相になったときにアジア外交に力を入れていくことにつながるといいます。

このような岸の思想を、井上先生は次のようにまとめます。

《いずれにせよ、今日いうところの単なる右派思想と言い切ってしまうのはあまりに単純すぎます。岸が学んだ思想はもう少し重層的なものでした。つまるところ岸は共産主義には反対していたのですけれども、社会主義的な思想に基づいて国家を革新していこう、変えていこうということに対しては非常に積極的であったということがいえると思います》

そのような岸は、官僚になると「統制主義」的な革新官僚として名を上げていきます。

当時、革新官僚といわれたのは「国家統制」を推し進めようとした人物たちでした。ですから、社会主義との親和性は高く、「革新官僚」のなかには戦後、勝間田清一や和田博雄などのように、日本社会党の重鎮になっていく人物たちもいます。岸が戦後、日本社会党からの立候補を模索したのも、けっして故なきことではありません。

岸は1936年に商工省の工務局長(次官の一歩手前のポスト)になった後、満洲にわたって、実業部次長というポストに就きます。満洲国の産業、行政の指揮をするという非常に重い役職でした。

しかし実は、岸が満洲にわたったのは、左遷されたからではないかと井上先生はおっしゃいます。また、岸の満洲での活躍も、実像はといえば、岸より前に満洲に赴任していた椎名悦三郎(商工省で岸の3年後輩)がほとんどレールを引いたものであったともいいます。

井上先生は、こうおっしゃいます。

《椎名悦三郎という人はこの後も岸信介のほんとに側近中の側近として商工次官を務め、戦後も岸派の重鎮になる政治家なんですけども、(椎名が晩年に語った記録は)やっぱり岸信介自身が語っている満洲での行動とはちょっとトーンが違っていて面白い》

このあたりの実像は、まことに興味深いもの。ぜひ講座の第3話をご覧ください。

1939年に満洲から帰ってきた岸は、商工次官になります。すでに日中戦争が始まっており、総力戦を戦うための国家統制的な経済体制(経済新体制)をつくろうとします。しかしここで、当時、商工大臣を務めていた小林一三(阪急東宝グループの創始者)と対立して、岸は商工次官を辞任することになります。小林の眼には、岸のやり方は、あまりにも「共産主義的」に映ったのです。

しかし、その直後、東條英機内閣が誕生すると、東條と満洲で共に活躍していた岸は、今度は東條内閣の商工大臣として迎えられるのです。

まさに山あり谷ありの人生ですが、その後、戦時中と戦後に岸信介はどのような歩みをしたのか。それについては、ぜひ講座の後編をご覧ください。

たとえば岸は、戦後、旧態依然とした政党のあり方を批判し、組織政党・近代政党にしていくことを標榜していたといいます。また、戦後に岸が重宝されたのも、その経済計画的な政策遂行能力にありました。

様々な側面を抱え込んだ岸の経歴から、日本の現代史のいかなる部分が浮かび上がるのか。生きた歴史について多くを学べる講座です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆井上正也:岸信介と日本の戦前・戦後(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4814&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《東洋的な思想と西洋的な技術の2つの交差点》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4455&referer=push_mm_hitokoto

禅はジョブズの哲学にどのような影響を与えたのか
桑原晃弥(経済・経営ジャーナリスト)

ジョブズは東洋と西洋という考え方をしています。ものづくりにおいては東洋的な思想と西洋的な技術の2つの交差点ですごいものが生まれるのだということです。よく技術とリベラルアーツという分け方をされますが、ジョブズはこの2つの交差点にイノベーション、つまり、すごいものができる交差点があると考えました。 例えば、技術だけに詳しい人、リベラルアーツだけに詳しい人はいますが、その両方を知っていて、それを融合できるのは自分だけだという強い自負心を持っていました。だからこそエンジニアたちを美術館に連れていったり、東洋の文化や美しいものなどを一生懸命教えていました。


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今週の人気講義
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大航海、資本主義、中国・ロシアの変容…モンゴルの重要性
宮脇淳子(公益財団法人東洋文庫研究員)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4755&referer=push_mm_rank

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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、冒頭、編集長からご案内がありましたが、先週火曜日(14日)から始まった「学びの投稿アカデミア」。まずは皆さまからの投稿募集ということで、すでにご投稿された方、まことにありがとうございます。来月の発表までいましばらくお待ちください。
これからという方、字数はあくまで目安なので(多少多くても短くても構いません)、お気軽にご参加ください。
以下、応募ページのURLを再掲いたします。

【学びの投稿アカデミア】
第1回テーマ:テンミニッツTVの学び方・活用法:応募ページ
https://10mtv.jp/review/?review_id=1&referer=push_mm_new_function

たくさんのご投稿、お待ちしております。