編集長が語る!講義の見どころ
生誕100年「司馬遼太郎のビジョン」の謎を解く/片山杜秀先生【テンミニッツTV】

2023/05/23

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です

今年は司馬遼太郎さんの生誕100年です。司馬さんは、1923年(大正12年)8月7日に生まれ、1996年(平成8年)2月12日に亡くなりました。

『竜馬がゆく』『燃えよ剣』『国盗り物語』『関ケ原』『坂の上の雲』『世に棲む日々』『翔ぶが如く』『空海の風景』『項羽と劉邦』『菜の花の沖』『韃靼疾風録』……

……と並べてもまったく足りない、数多くの小説を執筆され、さらに『街道をゆく』などの紀行も次々と発刊されました。いずれかの作品をお読みになった方も多いのではないでしょうか。

司馬遼太郎さんの生誕100年にあわせまして、テンミニッツTVでは片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)の講義を収録いたしました。

片山先生は、『見果てぬ日本~司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦』(2015年、新潮社)という本を発刊しておられます(文庫版は『左京・遼太郎・安二郎~見果てぬ日本』2023年、新潮文庫)。さらにご自身も『未完のファシズム』(新潮社)で第16回司馬遼太郎賞も受賞されています。

その片山先生が、司馬遼太郎をどう語るのか。まさに必見の講義です。

◆片山杜秀先生:司馬遼太郎のビジョン~日本の姿とは?(全6話)
(1)1923年生まれの3人の作家
生誕100年、司馬遼太郎、遠藤周作、池波正太郎の世界に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4929&referer=push_mm_rcm1

片山先生がまず語るのは、司馬遼太郎、遠藤周作、池波正太郎の3人の作家の比較です。実はこの3人とも1923年生まれなのです。

片山先生による、この3人の「本質論」。キリスト教と日本の折り合いという視点から歴史小説を書いていった遠藤周作。アメリカのギャング小説やスパイ小説が大好きで、その世界を江戸に当てはめて書いていった池波正太郎。そして竜馬ブーム、新選組ブーム、長州ブームなど、まったく違う立脚点の人々を描いてブームを巻き起こし、1960年代後半には国民的な作家になっていった司馬遼太郎。

それぞれの違いが、とてもクリアに浮かび上がります。

片山先生は、司馬さんが「討幕か、佐幕か」などというイデオロギーにとらわれなかった点を強調されます。なぜ、それが可能だったのか。

それは、司馬さんが描こうとしたのが、「自分の才能で、それまでの枠を飛び越えて活躍し、自己実現した人物たち」だったからだと、片山先生はおっしゃいます。

さらに、明治百年の1968年頃は、日本は学生運動などの政治の季節でもありました。その時代において、司馬さんの小説は、明治維新以降の日本が素晴らしいと語りかける点で保守層のエスタブリッシュメントからも歓迎され、その一方で、世の中を変えていく若い青春群像を描いている点で、学生運動などに携わっている革新志向の層の心も捉えた。そう片山先生は分析されます。

加えて、司馬さんの小説の魅力は、歴史家のような客観的な文体を基本にしつつ、上手にドラマを運んでくれるところにもありました。娯楽作品として成立させながら、きちんと歴史のまじめな本を読むように説明していくので、知的な快感が保たれているのです。

しかも上述のように、たとえば討幕派も佐幕派の両方をそれぞれの立場で書いてくれているので、それらを組み合わせて読めば、大きな歴史が見えてくる。

これによって「楽しく読ませながら、勉強にもなる」という、司馬さん独特の世界ができあがっていきました。

しかし、その司馬さんが描いた日本とは、いかなるものだったのか。

ここから、片山先生の司馬論は、さらに深みを増していきます。ここで注目されるのが、司馬さんが大阪外国語学校に進み、モンゴル語を専攻していることです。

片山先生は、次のように語ります。

《司馬遼太郎さんはモンゴル語というものを選んだ。司馬遼太郎さんには、馬に乗って、自由に旅をするということで、狭い島国を超えたいという憧れがあった。「日本嫌い」ということを司馬遼太郎さんは実は繰り返し繰り返し、いろんな座談会や講演会でいっているが、これは司馬遼太郎さんのキャリアを調べれば、やっぱりポーズではなくて、本心だと私は思わざるをえない……》

司馬さんは、中国史でいえば、万里の長城の内側の中原で農業を営んでいるような文明のあり方よりも、万里の長城の外側の遊牧騎馬民族的な文明に憧れた。だから日本史もそのように見ようとした。

土地や組織にしがみつくようなあり方や、妙な精神主義に走るようなあり方を嫌い、新しい方向に向かってとてつもないことをやり、夢をまいて若くして死んでいった人たちを好んで描いた。日本人は、こんなにかっこよく、創造的に生きられるということを、司馬さんはロマンを託して書いた。

そんな司馬さんが好んだのが、「ウラル・アルタイ語族」という議論だったと、片山先生はおっしゃいます。これは司馬さんが大阪外語大額で学んだ時代の語学教育に、決定的に影響を受けています。日本語は、朝鮮語、満洲語、モンゴル語、シベリアの諸言語、さらにハンガリー語やフィンランドのフィン語などと同じ「ウラル・アルタイ語族」に属していると考えられていたのです。

現在、この学説は否定されているといわれますが、司馬さんのなかでは、この大きな広がりが重要な意味を持っていたと片山先生は喝破します。そのような広がりあるビジョンがから導き出されるものとは……。

それについては、ぜひ講座本編をご覧ください。片山先生の講義はいつものように博覧強記の縦横無尽。司馬作品を原作とした懐かしの大河ドラマの話から、作品解題、時代分析、文明論にまで至る珠玉のお話を、ぜひお楽しみください。


(※アドレス再掲)
◆片山杜秀先生:司馬遼太郎のビジョン~日本の姿とは?(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4929&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《お肉は育てる時代から作る時代に変わってきている》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4779&referer=push_mm_hitokoto

食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)

本物のお肉を忘れずに食べていきたいという人は、例えば動物から取ったお肉そのものを食べられなくても、それに代わるお肉そっくりなものを食べていきたいというような選択肢もまだあるでしょう。そのためには、例えば細胞を培養してお肉を形成していくというような培養肉のアプローチもあるのではないかといわれています。

それがいわゆる3世代目です。お肉は育てる時代から作る時代に変わってきているということで、僕らは培養肉の研究を行っています。


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今週の人気講義
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妄想が過激化…ハインリッヒ13世の陰謀とSNS社会の危険
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4854&referer=push_mm_rank

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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4921&referer=push_mm_rank

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めんどくさい?内部統制に対する誤解とリスク管理の本質
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、先週に続きまして、本日も大変興味深い本を紹介いたします。

『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って―UDデジタル教科書体 開発物語』(高田裕美著、時事通信社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4788718715/

フォントとは、「パソコンで使えるよう、デジタル化した書体」のことで、その種類は膨大、タイトルにある「UDデジタル教科書体」もその一つです。
それがなぜ奇跡のフォントなのか、その詳細についてはぜひ本を読んでいただきたいのですが、学びのためのツールとして文字の見やすさ(読みやすさ)が非常に重要であることを改めて痛感した次第です。

テンミニッツTVも視認性を意識して進めておりますが、まだまだ足りない部分、あるいはもっとこうしたほうが見やすくなる、聴きやすくなるといったことは少なくないと思います。随時見直しながら、より学びやすいツールとしてのメディアへ向上させていく所存です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。