編集長が語る!講義の見どころ
歴史を複眼的に見る…徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉編/山内昌之先生【テンミニッツTV】

2023/09/12

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

眼前の社会や政治をどう見ればいいのか? そのときに「複眼的思考」が必要であることは、いうまでもありません。しかし「複眼的思考」はいかにすれば培えるでしょうか。

本日は、そのために大いに参考になる、山内昌之先生の講義を紹介いたします。江戸幕府の第11代将軍・徳川家斉(いえなり)について語っていただいたものです。

家斉というと、明確なイメージをお持ちでない方も多いかもしれません。知っていたとしても、たとえば「子だくさん」(男子26人、女子27人の合計53人。ただし成人したのは約半数)などの情報かもしれません。

しかし、家斉の治世下の「文化・文政期」は、江戸文化の爛熟期としても知られます。また、幕末~維新期に活躍した松平春嶽(まつだいら・しゅんがく)や栗本鋤雲(くりもと・じょううん)など、優秀な改革派に列する人々が「家斉は偉大だった」と評価していたのだといいます。

家斉が亡くなったのは1841年で、明治維新が1868年ですから、まさに当時の雰囲気も知る同時代人(すぐ後の世代の人々)がそのように評しているのは、まことに興味深いことです。

はたして、家斉の治世とはどのようなものだったのでしょうか? 山内昌之先生が、複眼的な深い視点から教えてくださいます。

◆山内昌之:徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(全4回)
(1)家斉が長期政権を維持できた理由
徳川家斉はなぜ50年にわたる安定した長期政権を築けたのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5017&referer=push_mm_rcm1

まず山内先生が最初に解説くださるのは、「なぜ家斉が、1787年から1837年までの50年にわたる安定的な治世(さらに大御所時代が+3年)を、築くことができたのか」ということです。

山内先生は、まず家斉が健康だったことを挙げます。家斉は15歳で将軍になり、69歳で亡くなっています。その間、事実上、権力のトップにありつづけました。

理由の二つ目として、その間、勘が狂ったり判断力が鈍ったりということがあまりありませんでした。

さらに三つ目として、そのときどきに見合った老中を起用しながら、肝心の政策決定は自分で握っていました。最初に選んだのは寛政の改革を行なった松平定信で、後半には水野忠成(みずの・ただあきら)を選んでいますが、水野忠成は田沼意次(たぬま・おきつぐ)と並ぶほどの汚職を取り沙汰される人物でした。

そして四つ目が、政治と大奥の両方を巧みに利用して政治を行ないつつ、人生もエンジョイしたことです。

家斉は53人の子供をもうけたわけですが、そのことについて山内先生は次のように評されます。

《それは全くの純粋な享楽や快楽だけのためだったかというと、必ずしもそうでないところが、家斉の器量、力量というものです》

つまり、徳川宗家の血筋を絶やさないことは、とても重要なことでした。さらに自らの血筋を全国の有力大名に養子として送れば、「パクス・トクガワーナ(徳川の平和)」は持続するだろうとの思いもあったのです。

しかし、数多い子女を諸藩に送り込んだことで、幕府の秩序のあり方にも様々な問題が起きました。

象徴的には、江戸城での「席次」の問題などです。さらに、そのために各藩の財政にも無理を生じさせることになり……。このあたりの悲喜劇も、山内先生は印象深く教えてくださいます(第2話)。

第3話は、先述したように、なぜ家斉の治世において、江戸文化が爛熟し、同時代の人々からも家斉が「偉大」と評されたかです。

そして、第4話は水野忠成に象徴される「賄賂」についてです。江戸時代の賄賂事情も、山内先生は詳しくお話しくださいます。それを聞いているうちに、ただただ「賄賂は悪い」と考えるのも浅慮であることに気づかされます。

水野忠成も、ただただ私腹を肥やしたのではなく、当時の習慣もあれば、家斉の「汚れ役」を担った部分もあるのです。

なにしろ、家斉はこんなことまでしたというのですから。

《分かりやすい例でいうと、新吉原に仲之町というメインストリートを模して、茶屋的な雰囲気を吹上の庭に再現して、奥女中たちや側室たちを喜ばせて、そこで遊んだということで、茶室はあちらこちらにつくられるのです。そこに、簪(かんざし)や笄(こうがい)など、女中たちが喜ぶもの、側室たちが喜ぶものをたくさんおいて、(そこから)取らせて使わせた。これらは一つ、一体いくらするのか。いったい幕府の財政がいくらあったら、そんなことが賄えるのかという話です》

有名な「大塩平八郎の乱」は、家斉の治世最末期の1837年に起きています。文化の爛熟、賄賂政治、義挙(叛乱)……などと挙げていくと、いずれも短絡的に評価を下してしまいがちですが、山内先生の講義を視聴すると、歴史の様々な側面が見えるようになってきます。

その複眼的な視点は、現代の社会をどう分析するかにも大いに生きていきます。歴史の愉しさや有用性を深く実感できる講義です。ぜひご覧ください。


◆山内昌之:徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5017&referer=push_mm_rcm2


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編集部#tanka
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この場所で遥かな月日さかのぼり そこで笑ってる君に会いにいく

『江戸名所図会』に描かれた人物は、とても生き生きしていて、会いにいきたくなります。堀口茉純先生が、その絵と現在のその地をご案内くださり、歴史の愉しさを教えてくださいます!(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5061&referer=push_mm_tanka


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

先週、この場で堀江重郎先生の講義で取り上げられていた「オートファジー」という生命にとって非常に大事な役割を担っている機能についてお話ししましたが、今回は堀江先生の別の講義で紹介されていた「サーチュイン」という遺伝子を取り上げたいと思います。

サーチュインは、「長寿遺伝子」ともいわれており、アンチエイジングにとって重要な遺伝子です。特に食事をしばらく取らない、つまり空腹時に活性化するそうで、ファスティングにとっても関連する遺伝子ということになります。

詳しくは以下、講義でご確認いただきたいのですが、「サーチュイン」も皆さまの健康寿命にとって大事なキーワードですので、ぜひ覚えておいてください。

「5:2ダイエット」活性酸素を減らしてアンチエイジング
堀江重郎(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授)
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