編集長が語る!講義の見どころ
2024年の底流を読む~ポスト国連と憲法9条・安保/橋爪大三郎先生【テンミニッツTV】
2024/01/16
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
今年、2024年は世界的にどのような動きが起きていくでしょうか。1つ挙げるならば、「いつ戦争の直接的な影響が日本に及んでも不思議ではない」ということはいえるかもしれません。最近の国際情勢を見るにつけ、ますます、そのような事態の到来をリアルに感じざるをえない状況になってきています。
さらに、世界的なインフレはどうなるか。AIの社会実装はどんどん進展していくでしょうが、そのメリットとデメリットも現れていくことでしょう。パレスチナはじめ中東情勢の行方も日本に大きな影を落とします。
今回の特集では、大きな動きの底流を読み解くうえで、大いに参考になる講義を集めました。
■特集:2024年の底流を読む
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=222&referer=push_mm_feat
・橋爪大三郎:核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
・伊藤元重:物価も賃金も2%上昇する社会へ…資産運用に敏感な動きが
・島田晴雄:第3期習政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
・中島隆博:20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
・西垣通:ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
・山内昌之:ムハンマドは神の啓示を受けた預言者で共同体の最高指導者
■講義のみどころ:戦争の危機をどうするか?日本の安全保障のあり方は?(橋爪大三郎先生)
1月13日の台湾総統選挙では、民進党の頼清徳氏が勝利しました。今後、台湾と中華人民共和国の関係は、どのようになっていくでしょうか。場合によっては、日本の安全保障の危機にも直結する問題です。はたして、日本はどうすべきか。
これまで日本国内では「国連中心主義」などという声も聞かれました。しかし現在、国連安全保障理事会の常任理事国である米露中の対立もあり、戦争を起こした国に対する非難決議すらなかなか決められない事態になっています。
また、戦後一貫して日米安保が日本の防衛の基軸でしたが、アメリカの政局いかんによっては、どのような変化が訪れるかわからぬ部分もあります。さらに、このような国際環境下で、「憲法9条」の考え方は今後も通用しうるのか……。
まことに困難な局面に立っているといえましょう。
本日は、橋爪大三郎先生(社会学者/東京工業大学名誉教授)の講義を紹介いたします。いつものように、議論のための議論には陥らずに、ズバリと本質を突く講義です。大きな刺激を受け、自分の考えもクリアに整理されること、うけあいです。
◆橋爪大三郎:ポスト国連と憲法9条・安保(全5話)
(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5189&referer=push_mm_rcm1
まず橋爪先生は、現在、「核保有する常任理事国は、むしろ安心して戦争ができる」状態になってしまっていると喝破されます。
よくいわれるように、現在の国際連合は、第2次世界大戦の戦勝国(連合国)がスクラムを組んで世界の平和を守ろうという構想でした。「国連軍」をつくり、統合参謀本部も国連に設けて、世界の安全保障危機に対応しようと考えたのです。
しかし、国連安保理常任理事国の5カ国、アメリカ、ソ連(現ロシア)、イギリス、フランス、中華民国(現・中華人民共和国)が結束しなかったために、その構想が実現せぬままに推移しました。
さらに、常任理事国の結束の固さを担保するために「拒否権」も設定されましたが、そのために常任理事国5か国の間で利害が対立している問題は、どんな決議もできない麻痺状態になってしまいます。
もっといえば、常任理事国には拒否権があるので、戦争を起こしても国連で非難決議も出されず、国連の出る幕もない。しかも核兵器を持った国が核兵器を持たない国を攻撃する場合、攻撃された国が猛反撃をしようとしても、「わが国を攻撃したら核兵器を使う」と脅すことによって反撃を限定的にすることさえできる。
これはまさに、ロシアによるウクライナ侵略で現出している光景です。
では、どうするか。
ここから、橋爪先生はさらに本質を深掘りしていきます。
まず、現在の国連が機能しないのなら、国連改革を進めることができるか?
橋爪先生は「無理だと思います」と即断されます。常任理事国が特権を手放すはずがないからです。
さらにどうしようもないなら、第2国連のようなものがつくれるか?
その場合、「戦争をやりそうな常任理事国は第2国連には入れない」ということはできるでしょう。しかし、そうなると問題になる国家が入らない国連になるので、彼らの行動をコントロールできなくなります。
ここで橋爪先生は発想を「国連軍」に戻します。国連が「国連軍」をつくれないなら、平和を愛好する国々が集まって「有志多国籍軍」をつくるのが唯一の方法ではないか。
では、どうやって「有志多国籍軍」をつくるのか?
橋爪先生は、「西側同盟」の可能性に言及されます。NATO(北大西洋条約機構)と、東アジアの同盟状況を比較しつつ、将来のあり方を展望していくのです。
さらに、そのような「西側同盟」をアメリカ1国ではまかないきれない状況も検討されます。その状況でどう実現するのかも含め、橋爪先生の構想は、ぜひ講義第2話をご参照ください。
次に橋爪先生が言及されるのが「集団的自衛権」です。
日本では、憲法第9条との絡みで「集団的自衛権」に対する猛烈な批判もあります。しかし橋爪先生は、「集団的自衛権は『国連憲章』の考え方だ」とおっしゃいます。国連という組織そのものが、集団的自衛権を実現するための組織なのだと。
たしかに、国連軍の構想は、集団的自衛権そのものです。なぜ集団的自衛権が必要かといえば、集団的自衛権がなければ、弱小国は強大国に軍事力で勝てるはずがなく、強大国のいうなりにならざるをえないからです。
では、そのようなそもそもの国連の構想、および現在の安全保障環境の現実と、日本の憲法第9条は整合するのか?
さらに現在、自民党などでは「憲法9条に自衛隊を書き込む」という改憲案が主張されているが、それはどう考えるべきか?
めくるめく議論が展開していきます。
たとえば「憲法9条に自衛隊を書き込む」改憲案については、橋爪先生は「姑息だ」と一刀両断します。それはなぜか。
また、橋爪先生は「専守防衛」の軍事力に特化する危険性や、自衛隊が正式な「軍」ではないことのデメリットも指摘されます。
さらに憲法については、「憲法が崇高な理想を持っているという感覚そのものが、大日本帝国憲法のときの感覚だ」と喝破されます。本来、「憲法」が神聖だったり大切だったりするのではなく、「憲法にうたわれる自由や人権などの理念」が神聖であり大切なのだと。
虚飾を排して核心に迫る議論ですが、その詳細は、ぜひ講義第4話をご覧ください。
そのような本質的な議論を展開したうえで、第5話では、「今までの国際秩序と違う秩序」を軍事力でつくろうとする危険な国にどう対処すべきかを論じます。
まさに、いまこのときにこそ学ぶべき講義です。橋爪先生の論理展開に大いに刺激を受けつつ、自分自身の考えを固めることができる必見講義です。
(※アドレス再掲)
■特集:2024年の底流を読む
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=222&referer=push_mm_feat
◆橋爪大三郎:ポスト国連と憲法9条・安保(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5189&referer=push_mm_rcm2
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5210&referer=push_mm_tanka
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