編集長が語る!講義の見どころ
混迷の時代、「逆・タイムマシン」で本質を見抜く/楠木建先生【テンミニッツTV】
2025/03/18
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
時代が混迷をきわめ、大きく動こうとしているとき、「時流にうまく乗る」ことが大切なのか、それとも「時流に躍らされないこと」が大切なのか。
この判断は、とても難しいことではないでしょうか。
ときに「時流」は、多くの人を巻き込みつつ、それまででは考えられなかったような事態をも現出させていきます。そしてメディアは、たえず危機意識を煽り、流行りの議論ばかりを喧伝します。
うまく時流に乗ることができれば、可能性ある未来へと手を伸ばすことができます。しかし一方、歴史を振り返ってみると、そのような流れに安易に踊って、逆に自分たちの力を弱めてしまう例も散見されます。
どうすれば、正しい判断基軸を持てるのか。それを考えるうえで、とても参考になる「発想法」について、楠木建先生(一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授)が講義くださっています。
◆楠木建:「逆・タイムマシン経営論」で磨く経営センス(全3話)
(1)人口問題の本質
「逆・タイムマシン経営論」は本質を見抜くための方法論
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3742&referer=push_mm_rcm1
楠木先生が唱える「逆・タイムマシン」は、言葉のとおり「タイムマシン」の「逆」です。「未来を先取りする」のではなく、「現時点から過去を振り返ったうえで未来を考える」ことといえるかもしれません。
たとえば、「タイムマシン経営」という考え方を、孫正義さんなどが唱えています。「未来というのは偏在していて、今この時点においても世界のどこかで未来は実現している。だから、海外で成功した未来的なビジネスモデルやWebサービスをいち早く日本で展開して、先行者利益を得よう」という考え方です。
では、「逆・タイムマシン経営論」とは何か。
楠木先生が説く方法論は、「過去の経済雑誌や新聞などの記事を振り返り、近過去にさかのぼって読んでみる。すると、同時代のいろいろなノイズがないため、本質的な論理が非常に鮮明に見える」というものです。
歴史のなかで物事が変化していくなかでも「変化しないもの」が本質である。だからこそ、近過去の歴史を振り返って検証してみることで、本質や大局観を容易に掴むことができる。そう楠木先生はおっしゃるのです。
また楠木先生は、「過去の出来事は、『将来の予想』とは違い、『確定したファクト』である。変な予想に凝るよりも、なぜそれが起きたのかという論理も込みで過去を見ることで、引き出しが豊かになる」とも指摘されます。
楠木先生が一例として挙げるのが「人口問題」です。
かつて、受験戦争、交通戦争、住宅難、公害などが噴出していた日本では、「こんな狭い国に、こんなに人がいて、どうするのだ」と、人口が増えていくことが諸悪の根源のように考えられていました。
しかし、今では「人口減こそが諸悪の根源」のように思われています。政府も少子化対策に必死ですし、実際に人口減少が経済や企業経営に大きな影響を与えてもいます。
このようなビジョンの誤りが「同時代性の罠だ」と、楠木先生はおっしゃいます。
社会全体が「これこそが問題だ」と口を揃えるなかでは、それが問題の核心だと思ってしまう。しかし、リーダーたる者、みんなが「寒い、寒い」といっているときには、「いや、少なくとも暑くないじゃないか」というべきなのではないか。
それが楠木先生の視点です。このリーダー論は、まことに興味深いものといえましょう。
さらに楠木先生は、「1人当たりのGDP」の例も出します。1人当たりのGDPで世界の上位に行くのはなかなか大変なことですが、日本は1980年代末には、1人当たりGDPで世界第2位だったこともありました。
では、その頃の日本では、楽観論ばかりで満ちあふれていたのか。
そうではなかった、と楠木先生はおっしゃいます。その頃の経済雑誌の記事を読んでも、日本では「日本は危機だ」「日本はダメだ」という人たちばかりだったというのです。
なぜ、「1人当たりのGDP」が世界第2位でも、悲観論が噴出するのか。その動機について、楠木先生は興味深い視点を提示されます。
「会社が悪い」とか「経営が悪い」というと、「お前が悪いんじゃないか」といわれて自責の問題になってしまう。しかし、「日本はダメだ」といっておけば、自分の責任にはならない。だからこそ「究極の他責」として、犯人を「日本」にしてしまい、自分の責任を棚に上げる……。これは、まことに耳の痛いことであり、また、まことに恐ろしい話だといえるでしょう。
「ハッピーエンドから説き起こしていったストーリーが、今の日本では強く求められている」。楠木先生は、そうおっしゃいます。たしかに、現在とは比べものにならないほど条件が悪かった明治期や戦後期にあっても、当時のリーダーたちはハッピーエンドの夢を語り、人々を叱咤激励して、日本を高みへと導いていきました。
しかし、現代の日本人は、「究極の他責」に逃げ込み、できない言い訳ばかりを重ねて、どんどん日本を弱くしてしまっているのかもしれません。
まさに深く考えるべき問題点でしょう。とかく、浮ついた議論や責任転嫁の議論に陥りがちな現代日本人にとって、必見の講義です。
楠木先生は、この「逆・タイムマシン」の発想を、さらに具体的にお話しくださってもいます。もしよろしければ、その講義もご覧いただけると、視点や考え方をより詳しく深められます。ぜひ、下記をご参照ください。
◆楠木建:「逆・タイムマシン経営論」で見抜く思考の罠(全6話)
(1)同時代性の罠を乗り越える
『逆・タイムマシン経営論』が訴える「同時代性の罠」とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3901&referer=push_mm_rcm3
(※アドレス再掲)
◆楠木建:「逆・タイムマシン経営論」で磨く経営センス(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3742&referer=push_mm_rcm2
◆楠木建:「逆・タイムマシン経営論」で見抜く思考の罠(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3901&referer=push_mm_rcm4
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