編集長が語る!講義の見どころ
「逆・タイムマシン経営論」で本質を見抜く/楠木建先生(テンミニッツTVメルマガ)

2020/11/27

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
時代が大きく展開しているとき、時流にうまく乗ることが大切なのか、それとも時流に躍らされないことが大切なのか。この判断は、とても難しいことではないでしょうか。

「勝ち組に入る」という言われ方もしますし、メディアでは、たえず流行りの議論やビジネスモデルが喧伝されます。しかし歴史を振り返ってみると、それに踊って、逆に自分たちの力を弱めてしまう例も散見されます。

どうすれば、正しい判断基軸を持てるのか。それを考えるうえで、とても参考になる講義を、楠木建先生(一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授)がしてくださいました。

先日(11/24・火曜日)のメールでもご案内したように、来たる12月7日(月)に楠木建先生のオンラインセミナー「逆・タイムマシン経営論」を開催しますが(日本ビジネス協会・テンミニッツTV共催)、まさにその先駆けをなす講義です。

◆楠木建:「逆・タイムマシン経営論」で磨く経営センス(全3話)
(1)人口問題の本質
「逆・タイムマシン経営論」は本質を見抜くための方法論
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3742&referer=push_mm_rcm1

楠木先生が唱える「逆・タイムマシン経営論」は、言葉のとおり「タイムマシン経営」の「逆」です。「タイムマシン経営」は、孫正義さんなどが唱えてきたものであり、「未来というのは偏在していて、今この時点においても世界のどこかで未来は実現している。だから、海外で成功した未来的なビジネスモデルやWebサービスをいち早く日本で展開して、先行者利益を得よう」という考え方です。

では、「逆・タイムマシン経営論」とは何か。

楠木先生が説く方法論は、「過去の経済雑誌や新聞などの記事を振り返り、近過去にさかのぼって読んでみる。すると、同時代のいろいろなノイズがないため、本質的な論理が非常に鮮明に見える」というものです。歴史のなかで物事が変化していくなかでも「変化しないもの」が本質である。だからこそ、近過去の歴史を振り返って検証してみることで、本質や大局観を容易に掴むことができる。そう楠木先生はおっしゃるのです。

また楠木先生は、「過去の出来事は、『将来の予想』とは違い、『確定したファクト』である。変な予想に凝るよりも、なぜそれが起きたのかという論理も込みで過去を見ることで、引き出しが豊かになる」とも指摘されます。

楠木先生が一例として挙げるのが「人口問題」です。かつて、受験戦争、交通戦争、住宅難、公害などが噴出していた日本では、「こんな狭い国に、こんなに人がいて、どうするのだ」と、人口が増えてしまうことが諸悪の根源のように考えられていました。しかし、今では人口減こそが諸悪の根源のように思われています。

これは「同時代性の罠だ」と、楠木先生はおっしゃいます。社会全体が、「これこそが問題だ」と口を揃えるなかでは、それが問題の核心だと思ってしまう。しかし、リーダーたる者、みんなが「寒い、寒い」といっているときには、「いや、少なくとも暑くないじゃないか」というべきなのではないか。それが楠木先生の視点です。

さらに楠木先生は、「1人当たりのGDP」の例も出します。1人当たりのGDPで世界の上位に行くのはなかなか大変なことですが、日本は1980年代末には、1人当たりGDPで世界第2位だったこともありました。では、その頃の日本では、楽観論ばかりで満ちあふれていたのか。そうではなかった、と楠木先生はおっしゃいます。その頃の経済雑誌の記事を読んでも、日本では「日本は危機だ」「日本はダメだ」という人たちばかりだったというのです。

なぜ、「1人当たりのGDP」が世界第2位でも、悲観論が噴出するのか。その動機について、楠木先生は興味深い視点を提示されます。「会社が悪い」とか「経営が悪い」というと自責の問題になってしまう。しかし、「日本はダメだ」といっておけば、自分の責任にはならない。だからこそ「究極の他責」として、犯人を「日本」にしてしまい、自分の責任を棚に上げる……。これは、まことに耳の痛いことであり、また、まことに恐ろしい話だといえるでしょう。

「ハッピーエンドから説き起こしていったストーリーが、今の日本では強く求められている」。楠木先生は、そうおっしゃいます。たしかに、現在とは比べものにならないほど条件が悪かった明治期や戦後期にあっても、当時のリーダーたちはハッピーエンドの夢を語り、人々を叱咤激励して、日本を高みへと導いていきました。しかし、現代の日本人は、「究極の他責」に逃げ込み、できない言い訳ばかりを重ねて、どんどん日本を弱くしてしまっているのかもしれません。

まさに大いに考えるべき問題点でしょう。とかく、浮ついた議論や責任転嫁の議論に陥りがちな現代日本人にとって、必見の講義です。

(※アドレス再掲)
◆楠木建先生:「逆・タイムマシン経営論」で磨く経営センス(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3742&referer=push_mm_rcm2

(※参考)
◆12月7日(月):楠木建先生オンラインセミナー「逆・タイムマシン論」
(日本ビジネス協会・テンミニッツTV共催)
開催日:2020年12月7日(月)
時間:12:00~13:00(当日リアルタイムの生配信)
詳細は下記をご覧ください。
https://10mtv.jp/seminar/202012/


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今週の「エピソードで読む○○」Vol.13
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今回の○○はフランスの元大統領であった「シャルル・ド・ゴール」です。

私は、ド・ゴールはすごいと思いました。この人が大統領になったのは1950年代でしたが、第五共和政における最初の大統領でした。彼が大統領になった途端に言った言葉は、「食べ物を外国に委ねているのは独立国家ではない」ということでした。偉いことを言いますね。「それは食の従属国家だ。食料を自分たちで作らなかったら、国民は非常に不安だ。だから、やるのだ」

それからというもの、ド・ゴールが就任した時に85%ぐらいだったフランスの食料自給率は、10年後にはなんと120%にまで上がりました。以後も毎年毎年、フランスの食料自給率は120%から落ちることがなく、昨年はおよそ125、6%前後です。

食を外国に委ねるのは独立国家ではない
小泉武夫(農学博士/食文化評論者/東京農業大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1057&referer=push_mm_episode


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レッツトライ! 10秒クイズ
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「教育(教育改革)」ジャンルのクイズです。

これはニューヨーク市立大学のキャシー・デヴィッドソン教授の予測です。
2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの○○パーセントは、大学卒業後、今は存在していない職業に就くと言われています。
さて、○○パーセントにはどんな数値が入るでしょうか?

答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3062&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。

ところで、実は先日、今月11月の特集<意外と知らない「世界史」の教訓>を見直していたら、改めて考えさせられる貴重なお話があることを再発見しました。
それは、片山杜秀先生のシリーズ講義「クラシックで学ぶ世界史」の第1話(時代を映す音楽とキリスト教)に出てきます。その部分を以下、抜粋いたします。

「やはり同時代的にちゃんと演奏され、聴く人がいるなかでつくっていくようなものが残っていく。聴く人もおらず、演奏する人もいないのに、つくられたものが勝手に残って、後の時代に評価されるということは、すごく起きにくいのが、音楽ということになると思うんです」

これは音楽だけでなく、動画も同じではないか。それは、同時代的にちゃんと視聴する人がいるなかでつくっていくようなものが残っていくということではないか。講義のなかには、生前にはほとんど評価されなかったけれども、原稿を残しているから後で評価されたカフカや宮澤賢治の話も出てきますが、それは別の話だと。
テンミニッツTVの今後について考える上で、とても身の引き締まるお話だと感じた次第です。

<今回ご紹介の第1話の講義はこちら>
なぜ音楽は時代の流れを色濃く映し出すのか
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3007&referer=push_mm_edt

<11月特集はこちら>
意外と知らない「世界史」の教訓
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=103&referer=push_mm_edt