編集長が語る!講義の見どころ
平和の追求~哲学者たちはいかに構想してきたか/川出良枝先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/12/09
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
「平和」について、深く考えざるをえない状況が続いています。強権国家が平和を脅かすような動きに、どのように対峙していけばいいのか。
このことは、これまでの人類の長い歴史のなかで繰り返されてきた状況でもありました。そして、そのようななかで生み出されてきたのが、たとえば国連(国際連盟、国際連合)であり、EUなどの取り組みでした。
国連やEUについて、「人類が平和実現のためにつくりだしてきた進歩的な機関」というイメージを持っておられる方も多いことでしょう。日本国憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書かれているのは、国連(国際連合)の成立を意識したものだともいわれます。少し前には、「東アジアにもEUのような共同体をつくるべきだ」とする議論を日本の首相が語っていたこともありました。
しかしいま、国連やEUに対しての疑念も高まっています。
たとえば国連については、現在、安全保障理事会(安保理)で拒否権を持つ5カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)の数国がむしろ自ら戦争をしかけているような事態のなかで、戦争を止める機関としては十分に機能しているとはいえません。テンミニッツ・アカデミーでも橋爪大三郎先生が「核保有する常任理事国は、むしろ安心して戦争できる」と指摘しています(《ポスト国連と憲法9条・安保(全5話)》)。
またEUは、過酷な戦争の歴史を繰り返してきたヨーロッパにおいて、各国の主権の一部をEUに譲ることで恒久的な平和と安定を実現すべく設立された機関でもありました。しかし、そのヨーロッパのなかで、いま「反EU」を掲げる政治勢力が伸長しています。
このような事態をどう考えればいいのか。
そのためには、もともと「世界政府、国家連合」的なあり方を追求した思想家、哲学者たちはどのようなことを構想したのかをしっかりと振り返る必要があるのではないでしょうか。そのうえで、あらためて平和を実現するとはどのようなことなのかを考えていくべきでしょう。
本日は、そのことを深く教えてくださる川出良枝先生(東京大学名誉教授)の講義を紹介します。哲学者たちの思索と、現在の状況とを比べていくとき、多くのヒントが生き生きと浮かび上がってきます。
◆川出良枝:平和の追求~哲学者たちの構想(全7話)
(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6040&referer=push_mm_rcm1
まず川出先生は、国際政治におけるリアリズムとはどのような考え方なのか、問題を提起します。そのうえで、リアルな現実から一歩先に進めて、もう少しマシな平和を追求しようとする議論をしていく必要性を説きます。
この議論のなかで、ホッブズ、サン=ピエール、モンテスキュー、ルソー、カントなどの思索が次々と紹介されていきます。彼らの思索のなかから、「歴史に範を求める」ことの意味も明確に浮かび上がってきます。
まず、ホッブズです。ホッブズといえば「自然状態」という言葉を聞いたことがある方も多いことでしょう。端的にいえば、国家が存在しない状態が「自然状態」です。そのなかでは、すべての人間は自己保存を最優先に行動し、そのためには人の物を盗もうが、人を傷つけようが自由だということになります。
そうなると、それぞれが疑心暗鬼に駆られて、必然的に戦争状態になりかねません。だから人々は、自分の自然権を国家に移譲して、警察や司法や軍隊によって安全を守ろうとするのだ。そう主張したのがホッブズでした。
しかしホッブズは、「その政府は非常に強固な権力を独占して、ひとたびそのような政府が設立されたら、まったく批判することもできないような絶対権力の持ち主でなければいけない」とも説きました。ホッブズが当時の「絶対王政」を支える思想家だといわれるゆえんです。
ここで、「平和であればいいのか?」「自由が必要ではないか?」という議論が出てくることになります。
次に川出先生が紹介するのが、サン=ピエールです。「国連という構想のオリジンは、『永遠平和のために』を書いたカントだ」と思っている人も多いかもしれません。しかし実はオリジンは、ルイ14世のころのフランスの聖職家で外交官でもあったサン=ピエールだというのです。
サン=ピエールは、「勢力均衡による平和は長続きしない。あと一歩を踏み出さなければいけない」と考え、「国家と国家を連合し、紛争を解決する仲裁機関をつくるへきだ
」と構想します。
ここで興味深いのが、サン=ピエールの思索の一つのモデルとして「神聖ローマ帝国」があったことです。神聖ローマ帝国は、300以上の領邦が構成する「連合国家」でした(領邦の数は時代にもよりますが)。そして15世紀末の大改革の結果、小さな国の間の紛争は帝国議会が司法的に解決するシステムがつくられていたのです。
では、それを参考にサン=ピエールが何を考えたのか。それは、ぜひ講義本編をご覧ください。
続いて本講義では、モンテスキューやルソーが紹介されます。
モンテスキューは、古代ギリシアのような「小共和国」が政治的自由や自律性の面では良い制度だと考えます。しかし小さい国では、安全保障が危機に陥りかねません。そこで「小共和国連合をつくるべきだ」という議論になっていきます。このモンテスキューの思想が、アメリカ合衆国が連邦国家となる一つの背景になりました。
ルソーも「自由と平和のために共和国連合をつくるべき」とする議論を展開しました。そもそもルソーは、暴政こそ人間にとって最も大きな災厄だということを強調し、暴政と戦争を克服できなければ政治理論の名に値しないとまで述べる思想家です。その一方でルソーは、安易なコスモポリタニズムにも反対していました。
そこでルソーは、自由の実現のために、小さな政治単位に分権することで自由を確保しつつ、国家連合で平和を実現することを考えたのです。
モンテスキューとルソーがどう違うのかについては、川出先生が《政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ (全11話)》という講義で詳細にお話しくださっていますので、ぜひ併せてご参照ください。
さて、そのうえでカントが登場します。カントが特徴的なのは「人類は平和的に共存しなければならないという倫理的な義務を負っている」と考えたことだと川出先生はおっしゃいます。平和を道徳問題として考えたのです。
哲学者たちの主張の詳細は、ぜひ講義本編をご参照ください。
講義を学ぶなかで、とりわけ興味深いのが、哲学者たちが古代ギリシアや神聖ローマ帝国など歴史にヒントを求めようとしていることです。それをいうならば、現代の日本人はたとえば徳川幕府のあり方や、モンゴル帝国のあり方などもヒントとすることができます。
そうすると何が見えてくるのか?
ぜひ、この川出先生の講義を学んだあとで、そのような歴史を紹介するテンミニッツ・アカデミーの講義もご参照いただきつつ、考えてみてはいかがでしょうか?
(※アドレス再掲)
◆川出良枝:平和の追求~哲学者たちの構想(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6040&referer=push_mm_rcm2
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