編集長が語る!講義の見どころ
自分の「あるべき」姿とは?~名僧・明恵の教え/頼住光子先生【テンミニッツ・アカデミー】

2026/06/01

いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。

ふと、自分の「あるべき」姿とはどのようなものかを考えたことはないでしょうか。日頃、なんとなく生きていても、何かの機会に「こういう生き方で良いのかなあ?」「自分は何をなすべきなのかなあ?」など、誰しも思いをめぐらせることと思います。

本日は、あらためてそのような考えを深める良いきっかけとなる、鎌倉時代初期の名僧・明恵(1173年~1232年)の講義を紹介いたします。

明恵の名前を聞いても、「はて、どのような方だったかな?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

明恵は、同時代の鎌倉仏教の始祖たちのように宗派を開いた方ではなく、華厳宗の僧侶であり、むしろ同時代の法然の「専修念仏」を厳しく批判した方でした。

しかし、その一方で、自分の夢を青年期から晩年に至るまで記録した『夢記(ゆめのき)』を残していたり、「菩提心」を重んじて仏教の戒律を厳しく守り抜いた姿から「生涯不犯の唯一の清僧」と称されたりするなど、非常に魅力的な高僧です。

随筆家の白洲正子が『明恵上人』(講談社)という名作紀行エッセイを残し、心理学者の河合隼雄が『明恵 夢を生きる』(講談社+α文庫)という書籍を残していることからも、その魅力がうかがえるのではないでしょうか。

本日紹介するのは、頼住光子先生(東京大学名誉教授/駒澤大学仏教学部教授)の「【入門】日本仏教の名僧・名著」講座シリーズより「明恵編」です。

◆頼住光子先生:【入門】日本仏教の名僧・名著~明恵編(全2話)
(1)批判精神と『夢記』
法然の専修念仏を批判…明恵の「あるべきようは」とは?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4216&referer=push_mm_rcm1

上でも書いたように、明恵は、法然の「専修念仏」を厳しく批判しました。この頼住先生の講座では、明恵の「明恵上人遺訓」の原文を読み解いていただきつつ、その批判の内容をご紹介いただいています。

原文の解説は講座本編をご覧いただくとして、ここではそのポイントだけを記すと、明恵が強調していたのは、「有るべき様」=「そうあらなければいけないあり方」をきちんと実現していくことが大切だという考え方です。

明恵は、この「有るべき様は」を万葉仮名で「阿留辺幾夜宇和」とも記し、その7字を心に持つことが大切だと説くのです。

では、僧侶の「あるべきよう」とは何でしょうか。

明恵は華厳宗ということもあり、「菩提心」を大切にします。菩提心とは、「自分が修行して悟りを得ることによって、多くの人を救おうとする心」です。ですから、明恵にとって僧侶の「あるべきよう」は、きちんと戒律を守って修行することになるです。

明恵の法然への批判も、この考えを前提としてのことでした。

法然は、末法思想に基づき、「末法の世(日本では1052年からその時代に入ると考えられていた)では、修行することも悟りを開くこともできない」ので、「阿弥陀仏の誓願にすがり、阿弥陀仏の名前を唱える念仏をすることで浄土に往生するのが、多くの人を救う道だ」と考えたわけです(詳細は、ぜひ頼住先生の本講座シリーズの法然編をご参照ください)。

しかしそれでは、僧侶としての「あるべきよう」をきちんと守っていないではないかと、明恵は主張するのです。ここは、とかく理論や現状対応を優先させて考えてしまいがちなあり方に対する、まことに根源的な批判ということができましょう。

そういう明恵は、非常に厳しく戒律を守った方でした。若いころの明恵は、その美男子ぶりから、いまでいう追っかけのファンがつくほどでした。これでは修行が妨げられてしまうと考えた明恵は、自分の姿形を損なおうと考えて、自分で自分の耳を切り落としてしまうのです。

そこまでして、一途に仏道に打ち込んだ明恵。だからこそ、彼が自分の夢を書き記して分析した『夢記』も、まことに興味深いものです。なんと明恵は、夢から得たメッセージを、実際の修行にも活かしていたのです。

さらに明恵が遺した和歌も、まっすぐに心に響きわたります。頼住先生は3首をご紹介くださいます。

「雲を出でて 我にともなふ 冬の月 風や身にしむ 雪やつめたき」

「くまもなく すめる心の かがやけば わが光とや 月思ふらん」

「あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月」

明恵の『夢記』や和歌の解釈については、ぜひ、講座本編をご覧いただければ幸いです。

明恵の考え方に触れると、「本当に大切なことは何か」がしみじみと胸に広がってくる感じを覚えます。

日本仏教のことを学ぶと、われわれの心の中に、いつしか知らず知らずのうちに流れている感性や、信仰心、哲学的思弁がいきいきとよみがえってきます。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆頼住光子先生:【入門】日本仏教の名僧・名著~明恵編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4216&referer=push_mm_rcm2

※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体(件名、本文いずれも)


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