編集長が語る!講義の見どころ
アメリカを長期的「サイクル論」で分析して見えてくるのは?(テンミニッツTVメルマガ)
2021/03/23
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
3月16日に、東京で日米2プラス2が行われました。ご存じのとおり、日米の防衛大臣(国防長官)と外務大臣(国務長官)による会合ですが、この場で、「日米同盟の抑止力・対処力の強化に向けた連携をより一層深めること」で一致しました。また、3月19日にはアラスカで、アメリカのブリンケン国務長官と、中国の楊潔チ・共産党政治局員の会談も行われましたが、冒頭から、まだ報道陣がいる前で非難の応酬が繰り広げられる異例の展開となりました。
4月には菅総理の訪米も予定されていますが、米中両国の厳しい関係を背景に、バイデン政権は、安全保障などの面で、日本に対してトランプ政権以上に負担分担の要求を高めてくるのではないかとの観測もしきりになされています。
はたして、これからアメリカはどのような動きを見せるのでしょうか。それを考えるうえで、大きな参考となる講義を本日は紹介いたします。東秀敏先生(米国安全保障企画研究員)に「米国史のサイクル」についてご解説いただいた講義です。
◆東秀敏:米国史サイクル~歴史の逆襲と2020年代(全4話)
(1)3つの制度サイクルと戦争
アメリカ史上80年ごとの制度サイクルを生んだ3つの戦争とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3854&referer=push_mm_rcm1
アメリカを分析するときには、「制度サイクル」と「社会経済サイクル」の2つで見てみるとよい。そう東先生はおっしゃいます。
「サイクル」というのは、物事が興隆し、全盛期を迎え、そして衰退していく一連の周期です。よく「30年前の就職ランキングトップ企業の多くは、現在の衰退産業」などといわれますが、まさに企業の場合は、勃興してから衰退するまでに30年くらいのサイクルを経ることが多いということでしょう。
では、「制度サイクル」とは何か。これは東先生に紹介いただく具体例を見たほうがわかりやすいでしょう。東先生は、これまでアメリカが経てきた「制度サイクル」として、(1)フロンティア時代制度(1787~1865)、(2)工業化時代制度(1865~1945)、(3)テクノクラシー時代制度(1945~2025)を挙げます。
付記された年代を見て、お気づきになることは何でしょうか?
1つは、ほぼほぼ80年周期で変わっていっているということ。もう1つは、この周期の境目でアメリカは大きな戦争を経験していることです。
最初の「フロンティア時代制度」は、独立戦争から始まります。ここからアメリカの西部開拓が本格的に始まり、その流れが収まるときに南北戦争が起きます。
南北戦争から始まる「工業化時代制度」は、その名のとおり、重工業化や油田の開発などの大きな流れを支えた制度です。この工業化の流れは大恐慌で大きく傾き、フランクリン・ルーズベルト時代のニューディール政策で政権の「官僚化」が一気に進みます。この流れを確定的にするのが、第2次世界大戦です。以後、アメリカは「軍産複合体」と呼ばれる体制を築くようになります。
その「テクノクラシー時代制度」の流れが大きく衰退しつつあるのが、現時点だ。そう東先生はおっしゃるのです。この周期の終わりにも、戦争は起こるのでしょうか。大いに気になるところです。
一方の「社会経済サイクル」とは何か。これは、その時代の象徴的な大統領の名を冠して、(1)ワシントン・サイクル(1783年~1828年)、(2)ジャクソン・サイクル(1828年~1876年)、(3)ヘイズ・サイクル(1876年~1929年)、(4)ルーズベルト・サイクル(1932年~1980年)、(5)レーガンサイクル(1980年~)とされます。
この内容は、入植・開拓から、黒人奴隷のプランテーション、自由主義的工業化、公共事業的工業社会、新自由主義政策などといった、社会経済の大きな流れです。上記の年代を見てわかるとおり、これはだいたい50年ごとに推移します。企業の寿命30年説とも微妙に絡みあう、経済産業のサイクルともいえるでしょう。
「制度サイクル」は80年周期、「社会経済サイクル」は50年周期。アメリカの場合は、スタートは両方同じく1780年代になりますから、そこから50年と80年の波を追っていくとどうなるか? その答えは、「2020年代には『制度サイクル』も『社会経済サイクル』も同じタイミングで停滞期を迎え、新たなサイクルが始まる」ということです。しかも、この両方の波が重なるのは、アメリカ建国以来のこと……。
それが意味するのは、はたしてどのようなことなのでしょうか? また、アメリカの停滞期は日本のチャンスとも東先生は強調されますが、日本として留意すべきこととは、どういうことなのでしょうか? それらについては、ぜひ講義本編をご覧ください。
なお、この東先生の講義は、ジョージ・フリードマンの『2020-2030アメリカの大分断:危機の地政学』(早川書房。原題『The Storm Before the Calm: America's Discord, the Coming Crisis of the 2020s, and the Triumph Beyond』)をベースにしたものとのこと。東先生はかつてジョージ・フリードマンの下で学んでいらっしゃいますので、とてもわかりやすくご紹介くださいます。
(※アドレス再掲)
◆東秀敏:米国史サイクル~歴史の逆襲と2020年代(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3854&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「親の言うことは聞くな」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1684&referer=push_mm_hitokoto
親が子どもの進路を決めるのは、人的資本の壮大な無駄
白石隆(公立大学法人熊本県立大学 理事長)※「隆」は実際には旧字体
私は、自分の出身高校に年に1回、だいたい6月頃に講演に行っています。高校3年生が、そろそろどこに行くかという自分の進路を真剣に考える時期です。私が言うのはいつも同じです。
「親の言うことは聞くな。あなた方の人生はあなた方のものなので、自分で決めろ」と言います。
(中略)
どうしても親は、子どもが少しでも苦労せずに、安全に安心に生活してほしいと考えるでしょう。親としてはそうなのですが、その結果、全体として内向きの方向に行ってしまっている気がします。
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて、最近、面白い本を読み始めました。
橋爪大三郎先生(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)の近著(以下)です。
『人間にとって教養とはなにか』 (橋爪大三郎著、SB新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4815607508/
この本のまえがきにこんなことが書かれています。ここでちょっと引用してみます。
「学ぶのは『ほどほど』する。結論まで学ぼうとしないほうがいい。途中まで学んだら、あとは自分の頭で考えます。自分で結論までたどりつくのです。」
なんと「どんどん」学べではなく、「ほどほど」に学べというのです。
また、いつから考えばいいかというと、途中から考えろというのです。
これはこれまで自分が思っていたこととちょっと違うので軽い衝撃を受けました。特に「途中」というのが新鮮で、教養とか学びは単なる受け身ではなく、少し遅れながらもある意味一緒に進んでいく、連動させていくイメージがしてきて、また新たな気づきを得た次第です。
ちなみに、近日中に橋爪先生の新たな講義を収録する予定です。配信日など詳細については後日、改めてお伝えいたしますので、ご期待ください。
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