編集長が語る!講義の見どころ
度重なるジェンダー問題を考えるうえで必見の「性淘汰の理論」【テンミニッツTV】
2021/03/30
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
最近、ジェンダー絡みの話題が続いています。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務めていた森喜朗氏の「女性蔑視発言」も記憶に新しいところですが、先日は、テレビ朝日の報道ステーションのCMが炎上しました。「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかって、いまスローガン的に掲げてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」という言葉に批判が集まり、テレビ朝日はCMを取り下げて謝罪しました。
しかし、そもそも「性差」とは何なのでしょうか。何のために「性別」があるのでしょうか。その基本的なことを学べる講義を、本日は紹介いたします。自然人類学者で総合研究大学院大学長でいらっしゃる長谷川眞理子先生の講義です。ジェンダー問題を考える際の「基礎知識」あるいは「うんちく」として、学んでみてはいかがでしょうか。
◆長谷川眞理子:性淘汰の理論~性差の意味は何か(全3話)
(1)ダーウィンによる二つのシナリオ
ダーウィンの提唱する「自然淘汰」と「性淘汰」とは?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1326&referer=push_mm_rcm1
長谷川先生はまず、ダーウィンが唱えた「性淘汰(セクシャル・セレクション)」という理論をご紹介くださいます。ダーウィンは、繁殖をめぐる競争において、メス同士の争いよりも、オス同士の争いのほうが激しいことが多いことに着目しました。そして、「どのオスを選ぶか、メスは選り好みをしている。それによって、オスの進化が起きている」と説いたのです。
このダーウィンの議論は、大いに批判されたといいます。否定派の議論のなかには、「選り好みをするような知力が、メスにあるはずがない」「メスの好みほど気まぐれなものはない。そのような気まぐれでオスが変わってたまるか」などといった酷いものもあったようです。欧米の当時の女性蔑視の気風が透けて見えます。
しかし、このダーウィンの説は、100年以上たった1990年代に実証されました。鳥や魚などで、極端に長い尻尾を持つオスと、半分まで短くしたオスをつくったところ、メスは長いほうに惹かれた、などという実権を積み重ねて、「メスが選り好みをしている」ことが明らかになったのです。
なぜ、メスが選り好みをするのか。それは卵子と精子の違いによると、長谷川先生はおっしゃいます。卵子は数が少なく、また、大きくて栄養が必要な場合が多い。一方、精子は卵子に比べて小さく、数も多い。とはいえ、受精のためには卵子も精子も1個ずつで事足ります。とすると、ほとんどの精子が受精に行き着かないという事態が起こります。
メスは周囲にどれほどオスがいて、どれほど精子をもらったとしても、子供の数は自分の卵の数で決まります。しかし、オスは次々にメスを取り換えて受精していけば、獲得した交尾数に比例して残す子供を増やすことができる。それゆえ、オス同士の競争は非常に厳しくならざるをえないというのです。
たしかに人間でも、一夫多妻制を取っている社会の場合、豊かで力がある男性が多くの妻をめとるので、社会的な力のない貧しい男性にとっては厳しく、また、女性からしても、豊かな男性の第二、第三夫人になったほうが、貧しい男性の夫人になるよりもいい場合がある、などと指摘されることもあります。そのような事情は、動物のほうが、より露骨なのでしょう。
動物の、このような競争の事情は、子育てをどのようにするか、メスとオスとでどのように役割分担をするかでも変わってくるようです。はたして、どのように変わるのでしょうか。
また、この「メスによる選り好み」の理由としては、メスがオスの「生存力の高さのシグナル」を求めていると考えられがちですが、しかし、全てがそうではないらしいということもわかってきたのだといいます。そこで唱えられているのが「ランナウェイ」仮説です。ランナウェイとは「どんどん限りなく」という意味。つまり、メスの選り好みはどんどんとエスカレートし、オスの限界まで行ってしまうというのです。これはいったい、どのようなことなのでしょうか。
それらについては、ぜひ講義本編でご覧ください。
人間も生物である以上、生物としてのあり方に規定されている部分があることは否定できません。実は、問題になった報道ステーションのCMのセリフの文脈は、出演する若い女性が発する次のような言葉でした。「会社の先輩、産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけど、もうすっごいかわいくって。どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかって、いまスローガン的に掲げてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」。
現代社会では、結婚や出産子育てについて、「人生の勝ち組、負け組」などという言葉とともに語られることも多くなっていますが、長谷川先生の講義を受講してから、この報道ステーションのCMの「問題発言」を振り返ると、あらためて、いろいろなことを考えさせられます。
(※アドレス再掲)
◆長谷川眞理:性淘汰の理論~性差の意味は何か(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1326&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「ああ、あいつ、面白い。やらせろ」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3830&referer=push_mm_hitokoto
なぜ「変人」をリーダー候補として探す必要があるのか
西山圭太(東京大学未来ビジョン研究センター客員教授/前・経済産業省商務情報政策局長)
人事や登用の仕組みも、放っておくと硬直化する。これは日本人の美点でもありますが、きちんとやろうとするので、次世代リーダー登用の仕組みそのものが、すごく細かく硬い仕組みになる。いったい何を始めたのか、分からなくなってしまうのです。
でも、本来これは簡単なことです。リーダーを選ぶだけのことですから。研修で2週間見ようが2カ月見ようが、結局はやらせてみなければ分かりません。「おっ、あいつ、面白い。任命する」でいいのです。細かくやったからより良いリーダーが選ばれるという話を、私は聞いたことがありません。
織田信長が研修をやって、人材を評価したという話も聞いたことがない。おそらく「ああ、あいつ、面白い。やらせろ」という以外のことは、やっていなかったと思います。
もちろんその直感が間違うことはあるので、間違ったら戻さなければダメです。
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編集後記
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編集部の加藤です。
明後日から4月が始まるということで、いわゆる2020年度のメルマガはこれが最後になります。
コロナ禍、関連のシリーズ講義をはじめ、多様で深みのある講義を数多く紹介させていただきましたが、いかがでしたか。皆さまの学びの一助、新たな気づきのきっかけになれたのであれば幸いでございます。
4月以降、テンミニッツTVではいろいろと新しいことを進めていこうと考えております。具体的には後日改めてお伝えしようと思いますが、実はこのメルマガももっと皆さんに楽しんでいただけるようなことをいろいろと企んでおります。大いにご期待ください。
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