●複雑さを極めるトルコ三つどもえの争い
皆さん、こんにちは。
今日は、今のトルコ共和国で起きている危険な民主主義の実験、あるいは民主主義の行き詰まりとも言うべき問題について、外交の内政化という観点から少し考えてみたいと思います。
トルコは、長いこと中東における民主主義の模範、モデルとされてきました。しかし、そのトルコにおいて三つの武力衝突が同時に発生していることは、日本であまり触れられていません。
大きな変化が起きたのは、7月のことでした。これは、トルコのシリアの国境に沿ったスルチュという町で行われていた若者たちの集会に対して、国外からIS(イスラム国)が攻撃を仕掛けたということであります。それに対する報復として、これまで同じスンナ派として比較的ISに対して好意的、もしくは、それを泳がせていたトルコとその国防軍が、報復攻撃を加えたということに端を発しました。住民の一部にはクルド人がいまして、そのクルド人たちは、ISに対して、また復讐と報復がらみで衝突を繰り返しているという現状があります。そのうえ、この間に後で申すような事情によって、トルコはしばらくやめていたクルドに対する攻撃を復活するという三つの事態が同時に進行する、複雑な中東でもさらに複雑さを極める三つどもえの争いが、トルコからシリア、イラクにかけて新たに発生しているということに注目しなければなりません。
●三つどもえの争いの関係図
あえて整理しますと、こうです。第1番目は、トルコ政府によるISと戦うクルド人たちに対する攻撃、対決ということです。ISと戦っているクルド人に対し、トルコが2年ぶりに戦いを挑んでいるということです。2番目は、クルド人と戦っている、あるいは戦ってきたISに対して、比較的好意的か、あるいは間接的に支援さえしていたトルコ政府が対決に踏み切ったということ。これが第2番目です。第3番目は、すでに中東におけるISの重要な対決の相手であったクルド人とISとの間の衝突がますます激化し、その両者の間にトルコ軍が介入するということで、先ほど申したように、対決軸が三つどもえになり複雑になっているという現象が起きたことです。
つまり、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の与党であるAKP(公正発展党)の政権は、この7月に、これまで現実的にはトルコが対決していなかった二つの大きな存在を、同時に敵として持つことになったということです。しかも、複雑なのは、その二つ、すなわちクルド人とISが、お互いに敵同士だということです。トルコは、互いに敵同士だということで戦っている国のそれぞれに対して、今度はそれを敵視して、思惑は違っていても、攻撃を加えているという複雑さであります。このISとクルド人は、いずれも、いま申したように、敵とコアリション(連合)を組んでいたわけであります。
●対ISの一大勢力PKK、IS黙認のトルコ
トルコ国内において、今回トルコ政府が攻撃しているPKK(クルディスタン労働者党)というのは、長いことテロリストとして考えられていた組織ですが、この2年前に和解が成立し、その平和のプロセスが進捗していたところです。このPKKをはじめとするクルド人は、いまや実際の武力を持つ勢力として、ISに立ち向かう非常に貴重な地上兵力として、アメリカやヨーロッパから援助を受けてきました。
他方ISは、これまでトルコの領内をボランティアや兵士たちが通過したり、あるいは資金や物資が通過することをトルコ政府が認めることによって、シリアにおける活動を進めてきた経緯もあります。つまり、ISはこれまでトルコの協力や黙認を得てきたということが言えるのです。
●IS攻撃は対クルド武装対決のバーター材料
それでは、なぜこの時に、エルドアンはこのように二つの敵をあえてつくったのかという問題が生じます。いずれにしましても、年来の宿敵であるPKKとの全面的な対決、これは国内政治のレベルも見ておかなければいけないというのが、今日の話の中心であります。
こうした転換は、次のようにして起こりました。アメリカ主導の反IS、ISに対するテロとの戦いにトルコもしぶしぶと重い腰を上げて参加することを認めつつ、しかしながらトルコはその見返りとして、自らがクルド人を相手に武装対決します。今ISとの関係で、このクルド人に対して、アメリカやヨーロッパは支援してきたわけですが。このISと対決しているクルド人を、トルコが国内事情があって圧迫し、武装対決するということを認めさせようとする。その取引、バーターの材料として、ISとの対決というものが出てきたということであります。
●漫画にみるトルコの本音
まず7月のこうした変化がなぜ起きたかということを象徴する話...