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イケアの経営戦略から学ぶ「シグネチャプロセス」

ダイナミック・ケイパビリティ(6)ブレない経営者の資質

谷口和弘
慶応義塾大学商学部教授/南開大学中国コーポレート・ガバナンス研究院招聘教授
情報・テキスト
ダイナミック・ケイパビリティは、組織だけではなく経営者個人の資質としても議論できる。慶應義塾大学商学部教授・谷口和弘氏によれば、経営者に特に求められるのは、様々な問題に注目し、積極的に知見を広げようという心構えだ。そして、環境が変化しても見失うことのないシグネチャ・プロセスの下、ビジョンを提示することで、激動の時代でも生き抜いていける企業をつくり出す。(2016年6月23日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営」より、全7話中第6話)
時間:09:12
収録日:2016/06/23
追加日:2016/10/04
≪全文≫

●経営者個人にもダイナミック・ケイパビリティは求められる


 ダイナミック・ケイパビリティは主に組織の話ですが、これをもう少し具体化して、経営者自身の話に落とし込んでみようということで生まれたのが、DMC、ダイナミック・マネジャリアル・ケイパビリティです。経営者のダイナミック・ケイパビリティという話ですが、これはどういうことか。

 まず経営者が「認知」するということです。世の中に対して、いろいろなものを吸収していく心構えです。いろいろな問題に注意を払えるかどうか、問題解決に積極的に取り組めるかどうか。あるいは推論することです。他のビジネスモデルや他社が成功しているビジネスモデルを学んでみようとか、言葉やレトリックを駆使して人々を説得しようとか、コミュニケーションを取ろうとか、そういったことを心掛けているかと思いますが、そういう心構えが経営者の「認知」です。

 次が「人脈」です。経営者はいろいろな社会関係資本をつくり、良い評判を得ていく。「あの人はいろいろな意見や面白い意見をいつも言ってくださる」「あの人はいつも助けてくださる」「ゴルフばかりやっているわけではなく、すごく面白いことを教えてくれる」、そういう人脈です。

 三つ目が経営者の「人的資本」です。これは自身の経験やバックグラウンドです。学歴や学閥が障害になるか、あるいはプラスになるか分かりませんが、でもそういったものがあることで、いろいろな人と巡り合うことはあるでしょう。自分で同じ大学の同窓会以外にも足を運んで、様々なところに行ってみるのも大事かと思います。

 こういった心構えでは、最初の心構えが非常に大事だという気がします。その点で、ホンダという企業は面白いなと思います。ホンダは、本田宗一郎さんと藤沢武夫さんが二人三脚で経営してきた企業です。経営とは何ですかといったとき、「経営は布みたいなものだ」と。こういうレトリックを使います。「経営は布である。縦糸と横糸があり、縦糸は変えてはいけない。でも世の中は変わるのだから、横糸は変えてもよろしい」、まさにそうだと思います。シグネチャ・プロセスとビジョンがあり、変えていいものがあるという話をしており、まさにそれを実践してきた人たちです。


●イケアの揺るぎないビジョンとは


 次に事例としてお話ししたいのは、イケアという企業です。ポーターの話だと、戦略とは絞れということでした。しかも、コストか質かの二者択一です。このどちらかで勝負しろという話なのです。しかし、このイケアという企業は、それを両立しています。言わば、右利きであると同時に左利き、両利きです。多能で、器用な企業です。

 イケアは、スウェーデンのイングバル・カンプラードという人が1943年に設立した企業で、もともとは通販会社でした。通販ですからカタログを送るわけですが、このカタログに家具を載せるようになりました。そうしたら割と売れることが分かりました。ではいっそのこと、家具に絞ったらどうだろうかということで、家具にシフトしていきます。

 しかし、通販業者が乱立してきたため、当然、価格競争が激しくなり、さらに質も悪くなってくるのです。そこでカンプラード氏はどうしたか。彼は「さらに安く」と言うのです。どこよりもはるかに安く売る。そういうビジョンを徹底的にやる。やることによって目立ち、他との違いが際立つと考えました。

 そういうことをやって、家具業者といろいろやりとりをしているのですが、その家具業者には、他の業界から圧力がかかってきます。「そんなことをやるな。もしイケアに卸したら、うちでは買わない」といった圧力がかかるのです。それでは困るとなって、どうしたかというと、スウェーデンからポーランド、要するに外国で物をつくろうと彼は考えます。イケアは自分のところで家具をつくればいいというスタンスに変えるわけです。つまり「内製化」します。自分のところで家具をつくり、ショールームをつくって展示したり、そのショールームの2階でコーヒーを提供したりといったことを始めます。空間そのものを提供し、それによって差別化することで、他の企業とは違った際立ちを求めてやってきたのです。

 イケアについていえば、そういうことです。時間は経過していくわけで、その中で必然的に環境も変わってきます。そこでどうしても、創業者の考え方や哲学は見失われがちになりますから、見失わないための仕組みをつくります。これがシグネチャ・プロセスです。そういった仕組みをビルトインしたのが、カンプラード氏が1943年に出した「ある家具商人の言葉」という文章です。

「きわめて安い価格を維持することを、我々のルールとしよう。しかもただ安いだけではなく、意味ある安さにしよう」

 こうして、カンプラード氏はビジ...
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