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「リムジン・リベラル」とクリントンが揶揄された理由とは

トランプのアメリカと日本の課題(1)トランプ・ショック

島田晴雄
公立大学法人首都大学東京 理事長
情報・テキスト
史上まれに見る番狂わせとなった、2016年のアメリカ大統領選挙。その結果を踏まえ、今後日本はどうしていくべきなのか。慶應義塾大学名誉教授・島田晴雄氏が緊急解説する。まずは選挙の分析だ。なぜ、高い政治能力を持つヒラリー・クリントン氏が嫌われたのか。理由の一つは、彼女の政治姿勢がいつの間にか民意と乖離したことにあった。(全4話中第1話)
時間:15:45
収録日:2016/11/16
追加日:2016/11/23
ジャンル:
≪全文≫

●トランプ勝利の要因に「隠れトランプ」支持者の存在


 2016年11月8日、アメリカで大統領選挙の投票と開票が行われました。全米では一日中、テレビでの報道に注目していましたし、ウォールストリートでも皆が集まっており、ニューヨークの中心も大騒ぎでした。

 日本時間だと翌日の午後、アメリカでは早朝に結果が分かりました。これは誰も予想しなかった番狂わせでした。それまでアメリカの人も、ほとんどが「ドナルド・トランプは追い上げているけれども、ヒラリー・クリントンの勝ちだろう」と考えていましたし、世界中の人がwishful thinking(希望的観測)ではありますが、「トランプになったら困るから、僅差だけど絶対にクリントンが勝つだろう」と思っていました。ところが、それがまったく違う結果になりました。それで大騒ぎになりました。日本では株価が急落するし、アメリカも当初はそうでした。

 これはどういうことなのか。確かにトランプ氏を支持する者たちはいました。おそらくはプア・ホワイトといわれる人たちです。彼らの多くは教育水準が低くて、仕事もままならない白人の労働者たちで、このグローバル化の中で、どんどん負けてきた人たちです。グローバル化で社会格差が拡大し、一部の金持ちがアメリカの資産の大半を手にする状況に、彼らは大きな矛盾を感じて、怒りが鬱積していたのです。「誰がいけないのか。それはワシントンの体制だ。ワシントン政治がいけないのだ。これをぶっ壊さなくてはいけない」という非常に大きなエネルギーがたまっていたことが、今回の結果につながったのではないかと、選挙後になって皆さんが思いました。11月8日までは皆、そんなことを思いませんでした。しかし、その怒りは相当なものだった、ということです。

 しかも中には、「隠れトランプ」支持者もいたというのです。多少知識がある人は、いくら何でもトランプ支持を公言はしにくい。だから世論調査で聞かれても「トランプなんて知りません」と言うのですが、実は隠れてトランプに投票した人たちが、少なくとも数百万人はいたのではないかと言われています。世論調査では隠れトランプ支持者はそれを表に出さないので、数字の上ではずっとクリントン氏上位でしたが、本当はそうではなかったのかもしれないと、今になって言われています。


●完璧なクリントンが「リムジン・リベラル」と揶揄されていた


 ではなぜ、クリントン氏は嫌われたのか。私は以前、ヒラリー・クリントン氏の演説を数メートルくらいの距離で、1時間ほど聞いたことがあります。これはダボスの会議でした。プレナリー・セッション(全員参加のセッション)で約2000人が呼ばれていたのですが、私は妻とすごく前の席に座っていました。そこにクリントン氏が出てきて、話をしたのです。

 「見事な人だな」という印象でした。クリントン氏は、原稿などまったく持っていません。確か彼女はコンタクトレンズを入れているはずなのですが、目力があり、すごく強く映ります。何を話すのかと思ったら、アメリカ経済の現状、世界経済の現状で、それを一気に話すのです。十数分の演説でしたが、まず驚いたのは非常に明快で体系的で、しかも英語がビューティフルなことです。高校3年生の教科書そのものといった感じです。話していることが、そのまま教科書になってしまうほど(実際、彼女のスピーチはあちこちで教科書に使われています)、見事な演説でした。

 その時、彼女は次のようなやり取りをしました。当時彼女は、夫のビル・クリントン大統領を助けて、健康保険の法案をつくろうとしていましたが、結果的には失敗しました。そうしたら、クラウス・シュワブ博士(世界経済フォーラム創設者・会長)が、「クリントンさん、あなたががんばって進めてきた健康保険は、“mixed success”ですね」と言いました。これは外交官独特の言い方で、日本語に訳すと「必ずしも成功しませんでしたね」という意味です。完全に失敗したとは言えないのです。

 そうしたら、クリントン氏は、“No, it was a fate of failure.” 、つまり「とんでもない失敗に陥った」と答えた後、返す刀で「それはなぜか。今、私の目の前にいる、最前列にいるこの人たちのおかげですよ」と言いました。そこに誰がいるかといえば、GM社やマイクロソフトの社長がずらっと座っているのです。クリントン氏は彼らを指差しながら「(失敗は)この人たちのおかげです。この人たちは、1ドルの中の1ペニーを、労働者の健康のために払おうとはしない人たちです」と言ったのです。それから十幾つもの質問にも快刀乱麻に答えていました。それがあまりに見事だったので、私は感動し、一緒にいた私の妻も目が潤んでいました。その会場を去る時に、世界各国から来た男性の人たちが話しているのが聞こえたのですが、「すごいな。だけどあ...
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