編集長が語る!講義の見どころ
危機のいまこそ「民主主義」を考える/特集&橋爪大三郎先生【テンミニッツTV】
2024/04/26
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
今年は、世界各国で重要な選挙が目白押しです。しかしその一方、権威主義諸国からの圧力や工作、さらに民主主義諸国におけるポピュリズムや政治不信の高まりなど、危機が顕在化しています。
日本でも政治不信が高まっています。与党の数々の不祥事が政治に大きな傷を与えています。また、東京15区の補欠選挙では、とある候補者とその政治勢力が、他党への激しい選挙妨害を繰り返して問題になってもいます。
実はこのようななかで、議会政治への不信が高まってしまうことこそが、最も危険であるともいえます。
危機のいまこそ「民主主義」を考えて、何が大切かを学びましょう。
■本日開始の特集:危機のいまこそ「民主主義」を考える
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=234&referer=push_mm_feat
・橋爪大三郎:なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景(第1話)
・柿埜真吾:消極的自由と積極的自由?…なぜ自由主義がわかりづらいか
・中島隆博:20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
・川出良枝:モンテスキューとルソー…二人の思想家の共通の敵とは?
・曽根泰教:トランプ政治で加速する分極化…2024年大統領選の行方
■講座のみどころ:なぜ民主主義が「最善」か(橋爪大三郎先生)
本日は、橋爪大三郎先生(社会学者/東京工業大学名誉教授)に、「民主主義の本質」についてお話しいただいた講義を紹介します。
橋爪先生は、「民主主義は、これまでに考えられた制度のうち、最善のものである」という問題提起をされます。
このような言葉を聞いたことがある方は多いと思います。では、なぜ最善なのでしょうか。そして、そもそも「民主主義の本質」とはどのようなものなのでしょうか。
民主主義についてのイメージが一新し、目が開かれる講義です。
◆橋爪大三郎:民主主義の本質(全5話)
(1)近代民主主義とキリスト教
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5289&referer=push_mm_rcm1
なぜ、民主主義が「これまでに考えられた制度のうち、最善のもの」なのか。それについて橋爪先生は、「民主主義は仕組みであり、ひと言でいえば『法の支配』である」と喝破したうえで、下記のように明快に指摘されます。
《法が上で、その下に人がいる。法が上で、その下に権力がある。人間が権力を持つと、間違える場合がある。間違えた場合に、これを正す方法があるのか。法があれば、法に従って、その誤りを正すことができる。その仕組みを持っているのが民主主義で、民主主義以外のものはそういう仕組みがない。ゆえに、いちばん優れているといえると思います》
一般には、「みんなで物事を相談して決めるのが民主主義」などと考えられがちでもありますが、「人間の間違いを正す方法」という部分に着目すると色々なことが見えてきます。
一方、ソ連共産党も、ヒトラーが率いるナチスドイツも、それぞれ法律に基づいて独裁権力を打ち立てました。それらはなぜ上記のような意味での「法の支配」とはいえないのか。そこについても、橋爪先生は明確にお答えくださいます。
次に橋爪先生が指摘されるのは、近代民主制の基礎となったキリスト教(とりわけプロテスタント)の教会社会のあり方です。
キリスト教の原則からすると、神(God)が人間を支配するのが無条件で正しく、人が人を支配するのは「条件付き」で正しい。どのような条件かというと、その支配が神に認めらえた場合です。
カトリックでは、神を地上で代理するのはカトリック教会だとされました。しかし、それに異議を唱えたのがプロテスタントです。しかも、プロテスタントは諸派に分かれていきます。
すると、どうなったか。
それぞれが「神ならば、こう考える」と信念を持っています。良心や信仰ということでいえば、バラバラであることが正しいのです。だから少数派になっても、その信念をもって活動をしつづける。
しかし実生活では決めなければならないことがあります。だから、議論をして、最終的には多数決で決めることになります。
多数決で集団の意志は決める。地上には地上の権威が必要なので、皆で議論をし、皆が納得できる法律をつくって、その権威に従う。けれども、少数者は少数者として尊重される。
しかも、「人権」は神が与えたものなので、「法律」より上だとされます。「人権が先にあり、それを守るために、契約(憲法)を結ぶ」という順番なのです。
このような考え方に立脚しつつ、まずはアメリカなどプロテスタント社会で近代的な民主主義が形づくられていきました。このことを理解しておくと、民主主義の本質がだんだんと見えてきます。
しかし、そのような論理は世界で共通しているわけではありません。橋爪先生は、カトリック社会や正教会、さらにヨーロッパ以外の諸地域ではどうなのかをお話しくださいます。イスラム教における民主主義の捉え方など興味深い論点も提出されますので、ぜひ講義第3話をご覧ください。
そのうえで考えるべきなのが、日本についてのことです。
日本にはもともと、専制的な権力者が嫌悪され、皆で決めることを重んじる「民主的な風土」がありました。これをどう考えるべきなのでしょうか。
橋爪先生は歴史を総覧しつつ、検討を進めていきます。たとえば、日本がきわめて速やかに近代化できた1つの理由は「尊王思想」であり、これは少しだけイスラム教のジハードに似ているというような喝破は、まことに興味深いものです。
さらに明治時代の憲法と議会、さらに官僚の関係が、現代にまで続いているというご分析も重要なものでしょう。そのうえで橋爪先生は、こうおっしゃいます。
《法律はほとんど中央省庁がつくっている。こういう状態のものを、今、「民主主義」と呼んでいるわけです。ですから、日本人は民主主義をよく理解し、それを運用する能力が高いのかといえば、決してそうではありません。ただ、実際の労働の現場とか、村や町の共同体では中央省庁と関係なく、私たちが相談して、現場のことは全部決めるのがいちばん正しいという精神は生きている》
このような日本が民主主義を強化するために、どうすればいいのか。
もちろん、プロテスタントを真似するということではありません。橋爪先生は「議論の重要性」を強調されます。そして、選挙における「予備選挙」の導入などの手立てをご提案くださいます。
非常に印象深いのは、そのようなお話のなかで、橋爪先生が「議論というのは負ける覚悟をしないとできない」と指摘される部分です。言論を育てるためには、「負ける経験」が必要なのだと。
それぞれ具体的にどのようなことかは、ぜひ講義第4話と第5話をご覧ください。
そのうえで、20世紀前半の民主主義が全体主義に押しつぶされそうになった歴史を振り返りつつ、民主主義の発展には、自国の歴史と文化を理解することが不可欠だとおっしゃいます。そして、民主主義の共通の価値観を持った国々が連携して、権威主義的な国に人類が呑み込まれないようにしなければいけないと強調するのです。
橋爪先生の本講義の最後の「まとめの言葉」は、すべての人がしっかりと心すべきものでしょう。
原理原則から、具体的なあり方を説き起こしていく。その議論の流れのなかで、自分自身の「民主主義観」をしっかりと検討していくことができる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆特集:危機のいまこそ「民主主義」を考える
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=234&referer=push_mm_feat
◆橋爪大三郎:民主主義の本質(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5289&referer=push_mm_rcm2
----------------------------------------
編集部#tanka
----------------------------------------
連休の旅路にてふと考えるわれらが祖先の日本への旅
今年のGWも旅行をされる方が多いはず。飛行機や新幹線に乗りながら、そんな文明の利器がなかった太古に、人類がどうやって日本にやってきたかをしみじみ考えるのも一興です。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2959&referer=push_mm_tanka
----------------------------------------
編集部からのお知らせ
----------------------------------------
本日は来月(5月)のおすすめプログラムを紹介いたします。
(プログラムガイド=講義ガイド)
https://10mtv.jp/program_guide/?referer=push_mm_new_function
<5月の特集ピックアップ>
【憲法を考える】
・「憲法9条に自衛隊を書き込む」という改憲案は「姑息」(橋爪大三郎)
・ホッブズ、ロック…生命、自由、財産の権利をどう守るか(柿埜真吾)
・モンテスキューとルソー…二人の思想家の共通の敵とは?(川出良枝)
・独裁ができない戦前日本…大日本帝国憲法とシラスの論理(片山杜秀)
5月3日は「憲法記念日」。日本国憲法が昭和22年(1947年)のこの日に施行されたことを記念してのものです。改憲論も高まるなか、あらためて「憲法」について根本部分から考える講義を集めました。大事なことを基礎から考えることができます。
【自分の身体を整える科学】
・ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る(水島昇)
・20億人以上が肥満…飽食の時代に大事な「選食力」3カ条(堀江重郎)
・肉と野菜を一緒に食べるわけ―免疫メカニズムと和食の関係性(小泉武夫)
・どうすれば「最高の睡眠」は実現するか…健康な睡眠とは?(西野精治)
食事や睡眠など、日々の暮らしの工夫で、いかに自分の身体を整えればいいのか。とても大切なことですが、それだけにネットには「不確かな情報」も溢れています。しっかりした情報を、ぜひとも学びたい。専門家による解説で、本当に大切なことを知りましょう。
<5月の講義ピックアップ>
5月2日(木)配信予定
山内昌之:幸運と不運はあざなえる縄のごとし…非行少年の運と実力
5月4日(土)配信予定
岡本浩:生成AIの規模拡大で急増する世界的エネルギー事情
ほかにも注目の特集、講義が続きます。ぜひお見逃しなく。
人気の講義ランキングTOP10
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照