編集長が語る!講義の見どころ
近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質/片山杜秀先生【テンミニッツTV】
2025/06/17
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
今年は戦後80年。ぜひとも、先の大戦についていろいろと考えるべきタイミングでしょう。
テレビドラマなどを見ていても、一昔前のような「戦争に対するステレオタイプな見方」は少しずつ後退しているようにも思われます。逆にいえば、戦後80年経って、ようやく客観的に見ることもできるようになってきたということでもありましょう。
「昭和の戦争」に突入したとき、日本人は何を考えていたのか。どのような内部的課題に直面していて、どう対処しようとしたのか……。そのことを深く考えていけば、現在のわれわれが教訓とすべきことも、数多く見えてきます。
本日は、片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授)に、そのことについて興味深い角度から縦横無尽にお話しいただいた講義を紹介いたします。この講義を視聴すると、「戦前の日本のあり方」についての「いまの常識」が覆され、まったく別の見方が芽生えてきます。
◆片山杜秀:近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(全9話)
(1)「無任所大臣」が生まれた経緯
現代の「担当大臣」の是非は戦前の「無任所大臣」でわかる
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4121&referer=push_mm_rcm1
片山先生はまず、現代の「担当大臣」の是非は、戦前の「無任所大臣」のあり方を学べばわかるとおっしゃいます。
コロナ禍のときも、「コロナ担当大臣」や「ワクチン担当大臣」などが乱立しました。このあり方は、「成功」といえるのでしょうか。それとも「失敗」なのでしょうか。
実は戦前の日本にも似たような姿がありました。「無任所大臣」は大日本帝国憲法体制の初期からあったものでしたが、これを強化したのが近衛文麿内閣(1937年~1939年、1940年~1941年)です。
その動機は、「縦割り制の打破」にありました。
歴史の教科書などで学ぶイメージとは異なり、大日本帝国憲法は、まことに「分権的」な性格をもつ憲法でした。
なぜか。実は、岩倉具視らが明治国家のあり方を考えるにあたり重要視したのが、「第2の徳川幕府を作り出さないこと」ことだったからだと片山先生はおっしゃいます。つまり、「天皇の力を凌駕する存在」が現われるのを避けることを重んじたのです。
しかもその一方で、天皇が、あたかも強権的な皇帝のように命令することも想定していません。「天皇は神聖にして侵すべからず」と大日本帝国憲法には書かれていましたが、この真の意味は実は「文字通り」のものではありませんでした。
つまり、天皇が国家の重大なことを決めてしまうと、その決断が失敗した場合、天皇が責任を負わざるをえないことになります。そうなってしまっては「神聖にして侵すべからず」となりません。
だからこそ、むしろ大臣らがすべての責任を負うかたちになっていたのです。法律も勅令も「大臣の副署」がなければ発効しないこととされていたのも、そのためです。そして天皇には、あくまで大臣たちの決定を「よきにはからえ」と認めることが求められました。
加えて、帝国憲法においては、総理大臣の力はとても弱く、単なる閣僚の調整役的な存在でした。1人の閣僚がゴネて辞職してしまったら内閣総辞職をせざるをえなくなることも、ままあったのです。そのため、各省が自分の意志を通すべく各大臣を突き上げ、大臣がそれに唯々諾々と従った場合、閣内での意思統一も難しくなってしまいます。
しかも軍の統帥権(軍隊の最高指揮権)が内閣と別立ての仕組みになっているので、内閣は戦争の作戦指導などには口出しできません。
実はこれらの欠点に、大日本帝国憲法をつくった伊藤博文自身がすぐに気づいていたといいます。しかし、それを改革する前に、暗殺されてしまいました。
さらに興味深いのは、実は戦前の政治で「強力内閣」といえるのは政党政治の時代だったと、片山先生が指摘されていることでしょう。
一般的には、五・一五事件で犬養毅首相が暗殺されて政党政治は終焉し、強力な統制国家になっていくとイメージされます。しかし片山先生は、「その後の挙国一致内閣のほうが、実は政治力は弱かった」とおっしゃいます。それはなぜか……。それは講義の第4話をご参照ください。
近衛文麿が「大政翼賛会」をつくろうとしたのも、「無任所大臣」を強化しようとしたのも、また、東條英機が進めた政治のかたちも、これらの弊害を正そうとするものでした。
東條内閣は、戦時下において省庁再編を進めていきます。また、統帥権と内閣の「壁」をなくすために自ら「首相」と「陸軍大臣」と「参謀総長」を兼務したりしていきます。さらに、むしろ大臣を減らして、総理大臣直属の「行政の参謀本部」的な組織をつくるべきだという議論も出されました。
この議論を紹介するべく、片山先生は官僚・山崎丹照に光を当てます。いま山崎丹照はよく知られている人物とはいえませんが、その人物を採り上げるのは、まさに片山先生ならではといえましょう。
しかし、このような取り組みは無残に失敗していきます。片山先生は、第4話から第7話で、それらの努力と失敗を詳細にご分析くださいます。そして、これらの失敗を見ていけば、現在の政治の問題点がわかるとおっしゃるのです。
実際に、第8話、第9話では、現代のあり方が、かつての制度とどのような点で違って、しかしながらどのように似たような失敗に陥っているかをご指摘くださいます。
思えば、平成の省庁再編など、近年の日本はさまざまな「改革」を繰り返してきました。はたして、それらは成功だったのか、否か。
いろいろ考え、より良いあり方とするために「改革」をしようとする。しかし結局のところ、それは過去の失敗の焼き直し、あるいは「茶番劇」にすぎないものになりかねない……。この視点はとても大切だと痛感させられます。
歴史を真摯に学ぶ意義も、まさにその教訓を得るためともいえるでしょう。驚くほどのヒントに満ちた講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4121&referer=push_mm_rcm2
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