編集長が語る!講義の見どころ
《今を知る》今こそ「天皇のあり方」を考えるべきとき/片山杜秀先生【テンミニッツ・アカデミー】
2026/07/13
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
「皇室典範改正」について、さまざまな議論が噴出しています。もちろん本来、いうまでもなく「静謐な環境」で議論が行われるべき問題です。これまで国会でも、その趣旨で何年にもわたり議論が積み重ねられてきました。
ところが、一部の政治家は筋に合わぬ「自分の意見」のみを放言的に言い募り、マスメディアもよくわからぬ意見を百出させています。なかには天皇陛下のお気持ちを勝手に忖度して「代言」してみせるかのごとき向きまであり、まことに憂うべき状況です。
こと「皇位継承」のことで一歩間違えれば、日本の歴史に大きな禍根と瑕疵を残しかねません。過去を振り返っても、そのような事例は幾度か見受けられます。
なにより「皇室」のことは、長い歴史に立脚して考えられるべき問題です。近視眼的な見方で判断しては、ことを誤ります。
「戦後の皇室史」といったスパンでも短すぎます。とりわけ戦後的な皇室のあり方は、敗戦という非常時のなかで形作られた部分も大きく、それだけに時代の大きな変化には対応しきれぬ部分も大いにあるように見受けられます。
本日は、「天皇のあり方」について縦横無尽に片山杜秀先生(慶応義塾大学法学部教授)にお話しいただいた講義を紹介します。
本講義は、先の4月29日に《今を知る》「天皇と近代日本」特集で紹介したばかりのものでありますが、とても大事な問題ですので、あらためて単独でピックアップしてご紹介したく存じます。
片山先生は、「そもそも戦後の皇室のあり方はどのように構想されたのか」、「三島由紀夫VS東大全共闘の討論で象徴的に現われた論点とはどのようなものだったのか」、「福澤諭吉が『帝室論』で提示したことの現代的意味は何か」などを探究し、現代の皇室の問題を深掘りしていきます。
片山先生ならではの博覧強記の議論に圧倒されつつ、現在直面している問題の「深い本質」を考えていくことができる講座です。
今般の「皇室典範改正」の議論を受けて、あらためて本講義で学んでいくと、また違った視点に気づくことができるはずです。
◆片山杜秀先生:天皇のあり方と近代日本(全7話)
(1)「人間宣言」から始まった戦後の皇室
皇室像の転換…戦後日本的な象徴天皇はいかに形成されたか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4289&referer=push_mm_rcm1
片山先生はまず、「戦後の皇室像」の成り立ちをご解説くださいます。まず紹介されるのは、敗戦後、連合国から皇室の廃止を含めた圧力を受けるなかで、昭和天皇が「新日本建設に関する詔書(人間宣言)」を出されるなど、いかに力強く行動されたかです。
その一方で、当時、小泉信三をはじめオールド・リベラリストと呼ばれた人たちは、「人間天皇像」を推し進めていきました。天皇は「国家を束ねるのにとっても素敵で、立派で、いい人で、尊敬できる人で、いつもいてほしい人」というイメージであるべきだと考えたのです。
日々の暮らしから結婚問題などまで、常に「国民の憧れであり、模範」であることが求められていきます。それゆえ、ご成婚なども広く国民のあいだで「恋愛結婚」であることが強調されるようにもなりました。
しかし片山先生は、このような小泉信三の考え方は、結果的には「近視眼的」だったと喝破されます。
なぜか。
オールド・リベラリストたちが前提にしていたのは、いわゆる「ブルジョア市民道徳」でした。国民の大多数が「当たり前に正しい」と思い、「憧れを抱く」ような標準的な規範です。その前提で、イギリス王室的なモデルが掲げられました。
しかし現在、その「前提」は成立するでしょうか。
いまや「価値観の多様化」が叫ばれており、欧米でも国論は極端に二分されています。LGBTなどの価値観をめぐる議論や、アメリカにおけるトランプ派など保守派と、民主党などリベラル派との価値観をめぐる戦い(文化戦争)などは、まさに典型的でしょう。
このように価値観が両極に分裂してしまった時代に、天皇が「国民に寄り添う」ことなど可能なのか? 何らかの価値観に寄り添ったら、そうではない価値観を持つ勢力から強い反発を受けてしまうのではないか? そんななかで「人間的に尊敬される天皇」というあり方が成立するのか?
この論点は、議論の前提として、とても大事なところでしょう。
しかも人間として尊敬されるべく「開かれた皇室」のあり方を進めることで、国民から監視され「見世物」のようになってしまう一面も否定できません。とりわけSNS時代には、ますますそうなります。げんに、いまネットニュースでは、皇室を貶めるような真偽もわからぬ「裏話」的な記事も乱発されています。
その過酷な状況が、皇族の皆さま方に大きな精神的プレッシャーとなり、天皇陛下はじめ皇族の方々が報道のあり方にくぎを刺されたり、お心の問題を公にせざるをえなくなるような事態を招来してしまっているのではないか?
このような問題提起も、しっかりと考えられなければなりません。
この問題をいち早く見抜いていた1人が三島由紀夫でした。三島由紀夫は「三島由紀夫vs東大全共闘」として有名な昭和44年の東大駒場キャンパスでの公開討論会で、次のように発言しています。
《今の天皇は一部の人が考えるように非常に立派な方だ、今どきめずらしい素直な立派な方で、それだからこそ私はあの天皇は大好きで、あの天皇のためなら何でも尽くす。こういう考えを私は持っているわけじゃないのです。それは小泉信三とかオールド・リベラリストたちの天皇観です》
「三島由紀夫は、そのような考えでは『立派ではない皇族がいるから、天皇家はなくていい』というレベルの議論になってしまうと見抜いていた」。そう、片山先生はおっしゃいます。はたして、三島の考えとはどのようなものだったのでしょうか。
さらに片山先生は、帝国議会の開設(1890年)の前の1882年に、福澤諭吉が発表した「帝室論」について考察されます。
福澤諭吉は、帝国議会の開設にあたり、議会政治の本質は「政党の対立争闘は火のごときものであり、また国会の制定する法令は情の薄いもの」だと喝破しました。だからこそ、「天皇はそのような党争から超然としていなければならない」と強く訴えたのです。
国会の対立は、必然的に「盛夏」や「厳冬」のごとき激しいものである。そうであっても、いや、そうであるからこそ、《帝室は独り万年の春にして、人民これを仰げば悠然として和気を催す》ようなものでなければいけない。福澤諭吉は、そう強調しました。
それゆえ、福澤諭吉は「皇室財産」のあり方にも、深いまなざしを向けます。議会の対立から超然としているためには、しっかりした皇室財産が必要不可欠だと主張したのですが、それはなぜか? そして、その先に見据えていたものとは……?
これらの議論の詳細については、ぜひ講座本編をご覧ください。
皇室のあり方について、「この段階で、運を天に任せるのは無責任」だと片山先生はおっしゃいます。これからの皇室について、どのように考えていくべきか。片山先生の議論と問題提起をきっかけに、多くのことを考えることができる名講義です。
(アドレス再掲)
◆片山杜秀先生:天皇のあり方と近代日本(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4289&referer=push_mm_rcm2
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