編集長が語る!講義の見どころ
資本主義の行方を「哲学」する/中島隆博先生【テンミニッツ・アカデミー】

2026/08/17

いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。

資本主義を「哲学」で考える。そして資本主義を再定義する――。そう聞くと、何やら難しそうな気配が漂います。しかし、けっしてそんなことはありません。

逆にわれわれは、昭和期に流行ったマルクス主義などの影響を受けて、資本主義を一面的に見すぎているのではないでしょうか。

本日紹介する中島隆博先生(東京大学東洋文化研究所教授)の講義を聞くと、世界では資本主義の新たな可能性や方向性を模索すべく、いろいろな議論がなされていることが見えてきます。

「強欲資本主義」への道へ陥らぬためにどう考えるべきなのか? 「共生」を資本主義で達成するための考え方とは? 企業活動にいかに「哲学」を導入していくべきか? etc……

むしろ日本のほうが柔軟性を失い、そのような哲学を語る心意気を喪っているのではないか――そうとも思えてくるのです。

では、世界では「資本主義の再定義」に向けて、哲学的にどのような議論がなされているのか。まさに、いまこそ知るべき講義です。

◆中島隆博先生:資本主義の再定義…哲学で考える(全6話)
(1)アダム・スミスの「市場と感情」
資本主義を哲学する…まずアダム・スミスの見えざる手と道徳感情論
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6310&referer=push_mm_rcm1

まず中島先生は、中島先生と交友が深く、共著も出されているドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルの議論から講義を切り出します。そのマルクス・ガブリエルが出版した『倫理資本主義の時代』という本の話題です。

アダム・スミス(1723年~1790年。イギリスの哲学者)は、市場は「見えざる手」の自己調整的な機能が働いていると説いた。一方、カール・ポランニー(1886年~1964年。ウィーン出身の経済学者)は、それに対して「自己調整的マーケットという考え方は全くのユートピアだ」と論じた。

このことについて考えるうえで大事なのが、アダム・スミスが「見えざる手」を論じた『国富論』の他に、『道徳感情論』という本を書いていることだといいます。この二つは別物ではなく、二つで一つだと。

では『道徳感情論』に何が書いてあるか。

ヨーロッパの啓蒙哲学者の多くは「道徳の基礎は理性なのではないか」と論じたのに対し、アダム・スミスは「道徳の基礎は感情」だと考えたのでした。いうなれば「共感」が基盤なのだと。人間は自分じゃないものに共感するし、人間にも共感をするし、動物あるいはそれ以外にも共感する場合がある。これこそが人間にとって非常に重要な能力ではないか――。

このアダム・スミスの議論を受けつつ、私たちは今の時代に合った人間観を考えなければならないのではないか。そう中島先生は説いて、こうおっしゃいます。

《19世紀的な自律した個人、例えば経済では「ホモ・エコノミクス(経済人)」などといいますが、私たちはそんな人を見たことがないわけです。どこにそんな人がいるのかと》

たしかに、おっしゃるとおりです。そのうえで中島先生は次のように論じます。

たとえば、言葉だって自分で発明したものではなく、他人から教わったものだ。もっと言ってしまえば「私の心」というのもおかしくて、会合の場などでは心はみんなで共有できるものだ。

であれば、「心が個人の所有物だ」という考えを根本的に改めたほうがいいのではないか? ジョン・ロック的な「所有に基づいた人間像」を決定的にやめてもいいのではないか?

このような議論から、中島隆博先生が提唱しておられる「Human Co-becoming」の議論へと入っていきます。

この「Human Co-becoming」とは、中島先生が東洋哲学的な人間観を表わしたものであり、「人間というのは心身ともに完成した存在として生まれてくるものではなく、他者(たとえば親や師匠や友などなど)と共に人間に成りゆくものだという考え方です。

中島先生がこの言葉を生み出したのは、西洋的な「human being(人間存在)」という概念への対置という面もありました。実はかつて西洋ではキリスト教であれギリシア哲学であれ、「being(存在)」をいう言葉を使っていたのは「神様」についてだったのだといいます。

これにhuman(人間)を付けて「human being」したことで随分と人間が偉そうになった。これがある種の人間中心主義を助長したのではないか? 

そこで「Human Co-becoming」の概念を提唱したところ、中国や台湾などの学者仲間から「初めて『共生』という日本語の翻訳がわかった」という反応が返ってきたのだといいます。東洋的な「共生」の概念を英語にした言葉こそ「Human Co-becoming」ではないかと。

アダム・スミスの『道徳感情論』から、この「Human Co-becoming」への議論は、これからの世界哲学の1つの基盤を指し示しているようでもあり、とても興味深いところです。

さて次に、中島先生が紹介くださるのは、オックスフォード大学のコリン・メイヤー先生がその著『資本主義再興』で論じる、次のような言葉です。

《私たちは他者を助けることができる他者を助けるために存在している》

この部分は邦訳ではなく、あえて原文のテイストを活かして中島先生が訳された言葉だといいますが、中島先生がおっしゃるように、この英文的なぎこちなさをじっくり読んでいくと、なんともいえぬ味わいが広がってきます。

中島先生は、こうおっしゃいます。

《こういうことが企業の中に組み込まれていったら、全然違う風景が見えるのではないか。それによって「害なき利(益)」が出てくるのではないか。こう思ったわけです》

続いて、中島先生がご紹介くださるのは、イギリスの経済学者でアフリカを専門としているポール・コリア―教授の『強欲資本主義は死んだ』という著書です。

ここでは、こんなメッセージが紹介されます。

《「コミュニティのためにマーケットがある」ということをもう一回思い出しましょう》

さらに加えて、中島先生が紹介されるのは、オックスフォード大学日産現代日本研究所のヒュー・ウィッタカー教授の『新しい経済のつくり方』という著書です。

ここで表われるのは、次のようなメッセージです。

《日本社会のレジリエンスを支えているのは、もっと横の関係だ。これが日本社会の強さなのです》

いずれも、まことに印象深いメッセージです。これらがどういうことかは、ぜひ講義本編をご参照ください。

これらを総覧したうえで、中島先生は有名な『孟子』の「惻隠の情」のエピソード――誰でも、子供が井戸に落ちそうになっていたら駆け寄って助けるだろう――を紹介しつつ、次のようにおっしゃるのです。

《道徳的事実に対して「共感」するものが「見えざる手」である。ですから、道徳的に正しくふるまうことそれ自体が、これからの企業活動には決定的に重要になってくる。人間観からすると、こういうことになるわけです》

さらに講義の後半2話(第5話、第6話)が質疑応答編になりますが、そこで中島先生は、今、いろいろな企業が「CPO(Chief Philosophy Officer:最高哲学責任者)」というものを考えており、なんとマルクス・ガブリエル自身も、そのための哲学コンサルの会社を作ったというエピソードをご紹介くださいます。

多方面に開かれていくこの講義をひもとき、世界の流れを知れば知るほど、日本人として、もっとなすべきことがあるのではないかと発奮してきます。ぜひ、ご覧ください。


(※アドレス再掲)

◆中島隆博先生:資本主義の再定義…哲学で考える(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6310&referer=push_mm_rcm2


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