「ホメロス叙事詩」を読むために
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
叙事詩イリアス…トロイア戦争最後の50日間を描いた傑作
「ホメロス叙事詩」を読むために(4)『イリアス』の世界ーその1
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
戦争叙事詩『イリアス』の魅力は、ドラマチックな攻防を描く点だけではない。エンターテインメントでもあれば学びでもあり、人類の知恵が凝縮された作品である。その構成の妙は、10年間の長い戦争のなか、英雄アキレウスが「怒り」に燃え、それが収まるまでの50日間を描くという思い切った凝縮にある。(全9話中第5話)
時間:8分30秒
収録日:2020年7月3日
追加日:2020年9月27日
≪全文≫

●『イリアス』の多彩な魅力を考える


 ホメロスの叙事詩のうち、最初の大作『イリアス』の話に少しずつ入ってきていますが、今日は、『イリアス』の魅力というものを考えていきたいと思います。

 『イリアス』は、一言でいうと「戦争叙事詩」で、トロイア戦争の攻防を非常にドラマチックに描く、大河ドラマのような作品です。単に戦争というものを描くだけでなく、エンターテインメントの要素もあり、学びの要素もあり、人類の知恵が凝縮されたような作品です。

 では、現代の私たちがどうやって読むかというと、それほど肩ひじを張らずに楽しい場面を見つけて読んでいただければいい。もっといえば、好きな英雄とか好きな場面を見つけて、「私はこれが好き」と言っていただくと面白いのではないかと思います。

 前回の最後でご紹介したように、描写自体がなかなかいいということもあります。それから、なかなか面白い場面があって、ギリシアならではというのは、演説の場面が多いことです。戦場でありながら、お互いに議論をするのです。

 「戦うべきか、撤退するべきか」とか、また民主主義の先駆けのような時代にもなっていますので、英雄同士が自分の主張を展開していきます。その理論を見ていただくと、年をとったネストルなどという人がなかなか爽やかな弁舌をふるう。また、次の主役になるオデュッセウスという人が知恵にあふれた演説をする。それぞれ個性的な人たちが語る言葉が、それぞれ面白い場面をなしていますので、いろいろな魅力を見つけていただくことができると思います。


●長い戦争の最後の50日を描いた『イリアス』の構成


 『イリアス』の構成を少し考えていきたいのですが、トロイア戦争はトロイアというところで起こった戦争です。ヘレネという妃をめぐって奪還に来たわけですが、それだけではない大戦争になってしまいます。

 『イリアス』という作品がすぐれている一つの大きな要因は、10年間続いた長い大戦争の10年目のたった50日間を取り上げた構成(ストラクチャー)になっていることです。これはなかなか卓抜で、どこを描いてもドラマがあるなかで、一番最後の年のたかだか50日間だけを描いた。そこに集中して、全24巻が繰り広げられます。

 しかも、われわれがよく知っている一番最後の場面がない。トロイアに木馬が入って行って陥落する場面やアキレウスが死ぬ場面はな...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
印象派の誕生~8人の主要な芸術家
マネ、モネ、ルノワール…芸術家8人の関係と印象派の誕生
安井裕雄
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子

人気の講義ランキングTOP10
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司