「ホメロス叙事詩」を読むために
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『イリアス』の主人公アキレウスの怒りは何を意味するのか
「ホメロス叙事詩」を読むために(4)『イリアス』の世界ーその2
芸術と文化
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
『イリアス』の物語では、人間同士と同様に神々も戦っている。実際に手出しをすることはないが、大事な場面で贔屓の側につき、相手を騙しにかかるのだ。混戦状態に陥った持久戦は、アキレウスとヘクトルという両英雄の戦いで決着する。息を飲む最後の場面に、人間の栄光と運命の全てが書き込まれている。(全9話中第6話)
時間:11分15秒
収録日:2020年7月3日
追加日:2020年10月4日
≪全文≫

●アキレウスの怒りゆえ混迷状態に陥る勝敗


 今回、前半で申し上げたように、『イリアス』の出発点は、アキレウスがへそを曲げて「もう俺はこんな戦争は嫌だ」「故郷に帰る」「こんな理不尽なことは受け入れられない」と、戦場に行かなくなったことでした。そうすると、アカイア方はどんどん負けてしまうわけです。押されてしまう。これはやばい。

 アカイア方もそうなのですが、アカイア方に付いている神々も困ってしまいます(ちなみに神々は自分のご贔屓に付いて、それぞれ背後からプッシュするのです)。最初の話を思い出していただくと、そもそもヘレネをこちらに連れて行ったのはアフロディテなので、トロイア方にはアフロディテが付いています。そうすると、彼女に対抗するヘラとアテナがアカイア方に付きます。

 このようにして、神々同士が自分のご贔屓で、戦いあう。戦っている英雄のなかには神様の子どももいます。アフロディテの息子のような子どもたちもいるのですが、彼らも最後には死んでしまう。そういう混戦状態のなかで、一進一退の攻防が続きます。

 アキレウスは、自分の怒りゆえに自分の味方がどんどん負けてくる。でも、「まだまだ譲れない。絶対に許せない」と言って戦場に出ない。そうすると、「仕方がない。このままだと負けてしまう」ということで、親友のパトロクロスがアキレウスの鎧や武具をつけて戦場に出て行きます。そうすると、ヘクトルに討たれてしまいます。

 アキレウスとしては、最初の思惑と違う。今度は親友パトロクロスの敵討ちをしなければならない。そこで彼は戦場に復帰して、最後はヘクトルと一騎打ちをします。

 絵に描いたような、もったいぶった流れではありますが、最後は二人の英雄が自分の全てを賭けて戦いをぶつけ合う。これが、やはり人間同士の栄光と運命を賭けた戦いの頂点になる。ただし、どちらも最後は死んでいくのです。


●栄光と運命を賭けた両雄の死闘


 こういうせっかくのクライマックスの場面は、この後ご紹介したいと思います。最後の2巻にももう少し面白いことがあるのですが、全24巻のうちの第22巻に、いよいよアキレウスとヘクトルが、トロイアの城外で二人だけで戦う場面が出てきます。

 ヘクトルは、自分がアキレウスほど強くはないということをやはり自覚しているので、なかなか出てきません。ところが、ヘクトルは女神アテナに...

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