「ホメロス叙事詩」を読むために
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
人生の苦難を経たオデュッセウスと妻の再会に込められた問い
「ホメロス叙事詩」を読むために(6)帰郷する人間ーその2
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
オデュッセウスとペネロペイアの再会は、英雄よりも妻の知略が目立つ場面に仕立てられている。神々や人々に騙され、裏切られてきたペネロペイアは、そう簡単に目の前の男を夫と認めるわけにはいかなかったからだ。妻は夫と二人しか知らない秘密をカギに、ようやくオデュッセウスの帰還を認める。(全9話中第9話)
時間:6分46秒
収録日:2020年7月3日
追加日:2020年10月25日
≪全文≫

●20年ぶりに再会した夫婦がすぐに抱擁しない理由


 このようにして、最後にペネロペイアとの再会の場面が訪れます。求婚者の殺し方についてはご自分で、読んでみてください。一挙に全員を殺してしまう血なまぐさい場面があった後で、勝ち誇ったオデュッセウスが、ペネロペイアにいよいよ対面するという場面です。

 これは第23巻になりますが、乞食姿だった彼は、女神の力を借りて輝くばかりに身を整えて、ペネロペイアの前に現れるのです。その前にも二人は会っていますが、乞食として会っているだけで、身を明かしてはいません。

 ペネロペイアが、求婚者の殺戮が終わって身綺麗にしたオデュッセウスと会う場面で、二人は感動的にパッと抱き合うのかというと、そうではないのです。あれほど待ち続けたペネロペイアは、オデュッセウスに対して、何か無下な、引いたような態度を取るのです。すぐに感動して寄ってくるわけでもない。それに対してオデュッセウスは少し不審に思うのですね。

“「おかしな女じゃな。オリュンポスに住まい給う神々は、女子の中でもそなたには特別に、非情な心を授けられたのであろう。散々に苦労を重ねた末、二十年目に漸く故国に帰って来た夫を迎えて頑なに離れているような女は、そなたを措いてほかにはおるまい。さあ婆やよ、わしはひとりでもよい。寝(やす)むから床を展(の)べてくれ。この女の胸中にある心は、鉄で出来ているらしいのでな。」”
※『オデュッセイア』(松平千秋訳、岩波文庫):第二十三歌より

 これは、ちょっと怒っている感じです。自分が帰って来て奥さんと会って、目の前にいるのに全然感動していない。「なんだよ、俺はひとりで寝るぞ」とアピールしているのですね。


●「二人しか知らない秘密」によって夫婦の縁を取り戻す


 すると、ペネロペイアがこう返事をします。

“「あなたこそ、おかしな方ではありませんか。わたしは別に高ぶっているのでも、あなたを軽んじているのでもありません。また、驚きの余り度を失っているのでもありません。わたしはあなたが長き櫂の船で、イタケを出てゆかれた時、どのようなお姿であったかは、よく覚えております。さあエウリュクレイアよ、あの方が御自分の手でお造りになった見事な寝室の外に、頑丈な寝台を用意しておあげ。そこへ頑丈な寝台を運び出し、羊の皮に毛布、綺麗な敷布などの寝具を揃えてあげなさい。...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
『ロビンソン・クルーソー』とは何か(1)読み続けられる18世紀の小説
なぜ『ロビンソン・クルーソー』は“最初の近代小説”なのか
武田将明
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
バッハで学ぶクラシックの本質(1)リベラルアーツと音楽
中世ヨーロッパの基礎的な学問「7自由学科」の一つが音楽
樋口隆一
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
「ホメロス叙事詩」を読むために(1)ホメロスを読む
2700年前のホメロスの叙事詩が感動を与え続ける理由
納富信留
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀

人気の講義ランキングTOP10
キケロ『老年について』を読む(1)キケロの評価と「老年の心構え」
幸福な老年への智恵をキケロに学ぶ…惨めな老年の4つの理由とは
本村凌二
ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす(5)否定神学とラカン理論の限界
暴いてはいけない!?心を理解する上で重要な「否定神学」とは
斎藤環
AI時代にリベラルアーツがなぜ必要か(6)リベラルアーツの本質
自分にしかできない自分の世界を味わうために、他の人とつながる
橋爪大三郎
編集部ラジオ2026(19)橋爪大三郎先生のリベラルアーツ論
【10min解説】橋爪大三郎先生:AI時代にリベラルアーツがなぜ必要か
テンミニッツ・アカデミー編集部
AI時代と人間の再定義(1)AIは思考するのか
AIでは「思考の三位一体」が成立しない…考えるとは?
中島隆博
飽食時代の「選食」のススメ(1)選食の提唱と「食の多様性」
肥満、認知症、低栄養…飽食の時代に大事な「選食力」3カ条
堀江重郎
生活習慣病予防に~健診結果の正しい読み方(1)データから生活習慣を考える
内臓脂肪がなぜ増えた?データから考えるリスクファクター
野口緑
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
AI大格差~最新研究による仕事と給料の未来(1)最新研究から見えてくる未来像
AI大格差…なぜ日本の雇用環境では「ショックが大きい」のか?
宮本弘曉
アメリカの理念と本質(1)西洋文明の行き着いた先と三つの建国
三つの建国――その歴史的背景から迫るアメリカの原点
中西輝政