「ホメロス叙事詩」を読むために
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『イリアス』の背景にあるトロイア戦争発端の物語とは
「ホメロス叙事詩」を読むために(2)神々と人間ーその2
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
『イリアス』の背景には、「黄金のりんご」と「パリスの裁定」という有名な物語がある。結婚式に呼ばれなかった女神がイタズラのために「最も美しい女神に」と書いた黄金のりんごを宴の席に落とし、3人の女神が相争うところに裁定者として呼ばれたのが、美男子パリスである。果たしてその運命は。(全9話中第3話)。
時間:9分23秒
収録日:2020年7月3日
追加日:2020年9月13日
≪全文≫

●「黄金のりんご」と「パリスの裁定」


 『イリアス』という叙事詩のバックグラウンドを説明すると長い話になりますので、本当にかいつまんで、どういう神話かということだけをご紹介しましょう。

 海の中に女神テティス(Thetis)が住んでいました(この名前も重要になります)。さまざまな背景があり、人間のペレウス(Peleus)という男と結婚させられます。ここから生まれたのがアキレウス(Achilleus)です。

 彼らの結婚式の場に呼ばれなかった神がいる。エリスという争いの女神です。そこで、「仕返しのため、ちょっといたずらをしてやろう」というので、神々が集まった婚礼の場に黄金のりんごを落とします。そこには「最も美しい女神に」と書いてありました。

 そうすると、ヘラ(Hera、ゼウスの妻)、アテナ(Athene、知恵の女神)、アフロディテ(Aphrodite、愛の女神)の3人が「私よ」と手を挙げて争いになった。では、だれに決めてもらおうかというので、裁定者に選ばれたのが、その当時羊飼いをしていた美男子の王子パリスです。

 ヘラはパリスに「私を選んでくれたら、アジアの王様にしてやる」と言い、アテナも「戦いにおける勝利」を約束する。アフロディテは「世界で一番美しい女をおまえにあげよう」と言ったのです。


●ヘレネとパリスの駆け落ちがトロイア戦争の発端


 パリスは、アフロディテを選ぶ。女神は約束を果たして、世界で最も美しい女性といわれたヘレネを彼と結ばせる。ヘレネはスペルタの妃です。現在もギリシアの地方にスパルタという場所がありますが、ヘレネはそこのメネラオスという王の妃だったのです。

 パリスはそこに客人として逗留していながら、妃ヘレネと駆け落ちをしてしまいます。財産を持って故郷のトロイアに戻ってゆくのです。裏切られて妻を寝取られたメネラオスは、当然怒ります。メネラオスの兄は、ギリシアで最も力のあったアガメムノンという王で、その兄弟が復讐のためにトロイアに戦争を仕掛けようとします。

 当時は、いくつもの王国が並在していた時代です。さらに、皆がヘレネを競い合った時に、「誰がヘレネの夫になっても、他の者は皆協力する」という盟約が結ばれていました。そのヘレネが若者に連れ去られたため、ギリシア中の英雄が集められ、仕返しのためにトロイアへ奪還に行くことになったのです。

 そこから始まったのがトロイア...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
日本美術論~境界の不在、枠の存在(1)具象と抽象の共存
日本美術の特徴を示す矛盾した2つの要素とは?
佐藤康宏
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀

人気の講義ランキングTOP10
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉
史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?
中村彰彦
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
徳岡晃一郎
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏