「ホメロス叙事詩」を読むために
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ホメロスの叙事詩は1人が書いた?…ホメロス問題の真相
「ホメロス叙事詩」を読むために(3)ホメロス問題と詩の魅力
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
2700年間伝えられてきたホメロスの叙事詩には、さまざまな謎が潜んでいる。その一つは、『イリアス』の1万5千行、『オデュッセイア』の1万2千行という膨大な詩を、果たして一人の人間が書き、暗記して朗唱したのかという「ホメロス問題」だ。「詩を歌う」ための六脚韻にその秘密が隠されているというのだが、はたして。(全9話中第4話)
時間:12分52秒
収録日:2020年7月3日
追加日:2020年9月20日
≪全文≫

●盲目の詩人ホメロスとその作品


 ホメロスの作品を、背景から少しずつご紹介していますが、ホメロスという人、そしてその作品はどう成立したかについて、もう一歩ご説明したいと思います。

 ホメロスという名前の詩人は、本当にいたのだろうか。おそらくいたのではないかと私は思いますが、盲目の詩人というふうに言われています。

 「盲目」というのはどういう意味かということも、ここで考えていきたいのですが、これは「文字で書いて、読む」という文化ではない、その前の文化だったことを思い出してください。「口で話し、耳で聞く」という「口誦」の文化と言われている時代の作品です。

 『イリアス』という最初の大作は全24巻で、15,693行。『オデュッセイア』もやはり24巻からなり、12,110行で、どちらもものすごい大作です。この「巻」というのは、もしかしたら後の時代に分けられたものかもしれません。一つひとつの話が独立している場合もありますので、ある程度は古代から分けられたかと思います。便宜上「第何巻」または「第何歌」と呼んでいます。


●「ホメロス問題」とは何か


 ホメロスが実際にこれだけ膨大な作品を書いたのか。ちょっと考えると、疑問に思われるかもしれません。18世紀末から活躍したドイツの文献学者、フリードリッヒ・アウグスト・ヴォルフという人が提起して有名になった「ホメロス問題」というものがあります。

 この人は、「果たしてこれだけすごい大作が一人の詩人によって、しかも目の不自由な個人によって、全部書かれたということがあるのだろうか」という問題を提起し、場合によっては複数のさまざまな人たちがつくったものが合成されてできたのではないか、という論争を引き起こしました。

 その一つの証拠は、『イリアス』と『オデュッセイア』のどちらにも、いろいろな方言が混じっていることです。主にはイオニア方言ですが、もっと古い言葉とかいろいろな言葉が混じっています。そういうことを分析しながら、ホメロスの大きな詩二つを複数の詩人が書いたのではないかということを検証して、現在まで論争は続いています。

 現在では、どちらかというと統合的な見方が多いというか、あまり分割していろいろな詩人によって書かれたというよりも、ホメロスという名前で呼ばれる詩人が少なくとも二人いたとされています。二人というのは、やはり『イリアス...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
印象派の誕生~8人の主要な芸術家
マネ、モネ、ルノワール…芸術家8人の関係と印象派の誕生
安井裕雄
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
AIとデジタル時代の経営論(6)暗黙知と判断力
AIは「暗黙知・常識に基づく高度な判断」が不得意
一條和生
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦