●「ゼウス以前」と「ゼウス以後」
―― 皆さま、こんにちは。本日は鎌田東二先生に、ギリシア神話のあらましについてお話を伺いたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
鎌田 よろしくお願いします。
―― まずギリシア神話の総括的なあらすじですが、おおよそどのような構造になっているのでしょうか。
鎌田 戦争は世界各地で起こっていますが、ギリシアの神々の物語も戦争の物語、戦いの物語です。
―― 神話は、「戦い」とは切っても切れないということですね。
鎌田 神々には戦いによって世界を創造するといいますか、世界を展開させるという側面があります。神々の政権交代(神権交代)が次から次へと展開されながら世界が回っていく、つまり次の段階へ突き進んでいる、といった具合に語られているのです。
ところで一般的にギリシア神話というと、どの神様が有名でしょうか。
―― 一般的に最初に名前が出てくるのはゼウスですよね。
鎌田 ゼウスは多くの人が知っていますね。ゼウスの子どもであるアポロン、現在のギリシアの首都アテネの名前にもなっている兄弟の神々(アテナ)もよく知られています。問題は、ゼウスになるまでの神々の闘争の世界があることです。
―― そこはあまり知られていませんね。
鎌田 そこは結構複雑なのですが、少なくともゼウスは神々の中で第三世代になるので、それ以前の第一世代、第二世代といった神々の支配の段階があるわけですね。そして、ゼウスの時代になって、いわゆる神権を確立してオリュンポス十二神の座を保った。こういう大きなあらすじになっていくのです。
ギリシア神話を「ゼウス以前」「ゼウス以後」の大きく2つに分けるとすると、「ゼウス以前」に神々の中で神権を担ったのは、ウラノスという神とクロノスという神です。
―― ウラノスが第一世代に当たるのですか。
鎌田 そうなります。そのウラノスができるのもまた、それほど簡単ではありません。ウラノスという神の性格(キャラクター)は天空神で、不死なる神々の基盤を確固たるものにしたという役割と意味が与えられています。そのウラノスを生むのはガイアという女神です。だから、ウラノスの前には母ガイアがいたということになります。
―― よく地球をガイアといったりしますが、ガイアとは大地といった意味でしょうか。
鎌田 そうですね。「ガイア仮説」といって、地球を生きたもの、命のつながりのある総体として考えるという生態学的な観点が地球科学の中でも非常に重要な視座を持っていますが、その「ガイア」です。そのガイアが生んだ子どもの中の1神にウラノスがいたのです。
●3世代にわたる神権交代の物語
鎌田 では、ガイアはどこから生まれたかというと、カオスからといいます。カオスが一番の根源で、「無秩序」などといわれますが、宇宙に隙間(穴)のようなものがあり、その宇宙の穴からワーッと揺らぎが起こり、その中から大地(ガイア)が現れてきた。そのガイアの子どもとして天空神ウラノスが出てきて、天と大地が結ばれる形で世界が開闢していくのです。
だから第一世代のウラノスは、天の力で大地に大きな刺激を与え、次から次へと神々を生み成していく(創り出していく)。そして、ガイアは子どものウラノスと結ばれて、川や海といった水の惑星の力を持つオケアノスなど多くの神を生み、そうした中で最後にクロノスを生みます。
次の第二世代の神々の長になるのが、そのクロノスです。暦など時間軸で考えることを「クロノロジカル」「クロノロジー」という言葉があるように、クロノスとは時間を表しますが、それだけではなく、「非常に策略に満ちている」「狡知に長けている」という意味合いも持っています。それと同時に巨人族でもあります。
―― 巨人なのですね。
鎌田 「ティターン」「タイターン」「タイタン」といわれる巨人族が第二世代でできてくるのですが、その巨人族が神々の世界を支配する時代ということです。
そして、クロノスがまた自分の子どもたちを次から次へと生んでいくのですが、クロノスが自分の子どもたちを全て飲み込んでしまいます。
―― 生んだ子どもを飲んでしまうのですか。
鎌田 自分と女神との間にできた子どもたちを全て飲み込んでしまい、生まれてきた子どもたちが活躍できない時代に陥ります。すると次の展開がなくなってしまう。そうしたときに、最後にクロノスの子どもとして現れたゼウスが、策略を持って父親の座を奪っていきます。それが第三世代の神権交代の物語となっていきます。
つまり、ウラノス、クロノス、ゼウスという3世代にわたる神権交代の物語が、ゼウス以前の話として展開するのです。