『ロビンソン・クルーソー』とは何か
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
コロナ禍で注目…ダニエル・デフォーの『ペストの記憶』
『ロビンソン・クルーソー』とは何か(7)『ペストの記憶』とデフォーの文学
武田将明(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
最終回では、デフォーの『ペストの記憶』を紹介していく。カミュの『ペスト』のような首尾整った名作ではないが、それだけにこの作品には、虚実の境を往復しつつ読者に訴えるものがあった。それはコロナ禍にさらされたわれわれにも、何かを考えさせる刺激となるのではないだろうか。(全7話中第7話)
時間:8分51秒
収録日:2020年7月22日
追加日:2020年10月13日
≪全文≫

●デフォーの『ペストの記憶』は半実録・半虚構


 そのようなダニエル・デフォーが書いた作品には、他にも名作といえるものがいくつかあります。挙げていけばいくつも挙げられるのですが、コロナ禍といわれる現在、注目されているのが『ペストの記憶』です。これは1722年、『ロビンソン・クルーソー』の3年後に刊行された小説ないしフィクションです。原題に忠実に訳すと『疫病の年の記録(“A Journal of the Plague Year”)』というタイトルの作品です。

 この『ペストの記憶』ですが、日本語の訳題が似ていることもあって、しばしばアルベール・カミュの『ペスト』と比べられます。しかし、年代を見ても分かるように、全然違う年代のものですし、内容ももちろんどちらもペストの流行を描いていますが、中身を実際に読んでみれば、似て非なるものです。

 カミュの『ペスト』という作品は、やはり無駄のない構成と人物を巧みに配置することによって非常によく練り上げられ、作り上げられた、文学史に残る傑作であると、私も思います。実に感動的な作品です。

 カミュの『ペスト』は非常に優れた作品ですが、ダニエル・デフォーの『ペストの記憶』は、このような完璧な傑作といえるようなものではありません。というのも、すでにお分かりのように、デフォーはそういうふうに巧みに人物を配置したり、構成を工夫したりする作家ではないからです。

 また、カミュはアルジェリアのオランという実在の町を舞台に、あくまでも架空のペストの流行を描いていますが、デフォーの場合は、1665年にロンドンを実際に襲ったペストを、いわば記録しています。というわけで、デフォーの『ペストの記憶』という作品は半分が実録であり、半分がフィクションです。完全な実録でもなくて、デフォーの想像で書かれたところもあります。


●ペストの被害や対応を、さまざまな角度から描く


 こういうわけで、『ロビンソン・クルーソー』と同じようにフィクションとして構成されていない、それゆえに興味深い点が『ペストの記憶』にはあります。いろいろとあるのですが、今回は『ペストの記憶』については、そこまで詳しく見る時間はありませんから、一例を挙げてみましょう。

 例えばこの作品は、ペストの被害、そしてペストへの対策と...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋

人気の講義ランキングTOP10
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
徳と仏教の人生論(3)無分別知と全人格的思惟
般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地
田口佳史
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(4)社会課題の解決に取り組む人財産業
メダカの学校・総合的な学習(探究)の時間・逆参勤交代
小宮山宏
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(3)テクノロジーの進化とエンタメのいま
VR、ゲーム実況、ブロックチェーン…一方でリアルライブも
水野道訓
いま夏目漱石の前期三部作を読む(9)反知性主義の時代を生き抜くために
なぜ『門』なのか?反知性主義の時代を生き抜くヒント
與那覇潤
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(4)原点回帰と父親の子育て
妻の両親と夫の両親で孫に与える影響が違うってホント?
長谷川眞理子