●「自分が存在する意味を実感できる」のが楽しい仕事
―― 皆様、こんにちは。
田村 こんにちは。
―― 本日は田村潤先生に「幸せと業績向上を両立する仕事術」というテーマでお話を伺いたいと思っております。田村先生、どうぞよろしくお願いいたします。
田村 よろしくお願いします。
―― 田村先生には既にテンミニッツで何度もご登場いただいております。もともとキリンビールにいらっしゃり、全国最下位だった高知支店を復活させるなど、キリンの復活劇を導いてこられました。詳しい経緯はぜひ、これまでの講義をご覧いただければと思います。
今日は幸せと業績向上の好循環をどうつくっていくか、それをいかに仕事で実現するかというテーマでお話をいただきますが、その前段として、そもそも今、日本人にとって幸福とはどういうものか。あるいは日本人の幸福感がどういう状況になっているか。そのあたり先生は、どのように見ておられますか。
田村 きっかけは、私がキリンビールを退社したときです。みんなが送別会をやってくれ、ここでほぼ全員が「幸せになった」「人生が変わった」と言ってくれたのです。私はメンバーを幸せにしようと思って、仕事をしたわけではないのです。業績向上だけを考えていたのですけれども、それなのにこれは、どういうことなのか。その後メンバーに聞いたり、議論したりするようになったのです。
この間、新聞記事にあったのですが「いのちの電話」がありますね。精神的に深刻な状態の方が……。
―― ちょっとつらくなったとか、自殺したくなったというときに、かける電話ですね。
田村 特にコロナ禍で電話の数が増えているらしく、そのうち2万件を分析したら、「自分と他者との関係性」が99.何%だったと記事にありました。「自分は自分」としてある一方で、「他者が自分をどう思っているか」「何かを言われた」といった関係性の中で、問題が生じていると書いてあったのです。
人間は一人では生きられないので、必ず他者との関係性で生きていかざるをえません。では、どういう関係性であれば、幸せをもたらすことができるのか。
ある有名なコーヒーチェーンの話ですが、従業員はほとんど20代の女性のバイトの方です。そこで「どうしたら自分が幸せになれるだろうか」という話をしたらしいのです。すると、「お金が欲しい」といったものもあるけれど、1番2番は「お客さんから喜ばれる」とか「ほかのメンバーからリスペクトされたい」とかだった。自分が存在する意味があると実感できるのが、楽しい仕事らしいのです。
―― いのちの電話の場合でも、他者との関係性が出てきました。悪くなるのも良くなるのも、どういう関係が築かれるかが非常に大きいということですね。
田村 そうです。そこで仕事の話に入るのですが、仕事とはそもそも「人を幸せにする」性格があると思うのです。
―― それは、どうしてですか?
田村 社会になんらかの役に立つから事業が起きて、成立しています。必要とされる仕事であれば「もっと必要としてもらおう」「もっとお客さんのために」と考えてやっていくことで、お客さんから喜んでもらえる。認められる。社内からも認められる。そこで幸せが感じられる。それがやはり、企業の原点ではないかと思うのです。
―― 田村先生がお勤めだったキリンビールの場合、ビールを飲んでいただいて、ビールを飲むと当然楽しくなる、嬉しくなるという要素があると思います。そのような消費者に届ける商品でなくても、当然、社会の役に立つ、喜ばれる要素があるということですね。
田村 はい。直接お客様からそういう声を聞かなくても、必ず必要とされるサービスや商品を提供する会社の一部門になります。やはりその役割はあるのです。使命というか、もっとお客さんのことを考えて、お客さんに喜んでもらう。「本当にこの会社があってよかったなあ」と。
それに対して喜びを感じる。そこからいろいろなアイデアや「もっとできるはずだ」「もっと喜んでもらおう」と(いうものが生まれる)。気持ちが良いわけですから。すると、さらに多くのお客さんから「本当によかった」「ありがとう」(と言われる)。それに対し、また感謝する。
お客様との関係が、「感謝の人間関係」とよく言っていましたが、どんどん上がってくるということが、企業には必然的に出てこないといけないものだと思うのです。
―― 企業は必ずどこかにサービスなり商品をお納めして、対価を得るわけですから。
田村 そうです。
―― 社内でも例えば間接部門の方とか、いろいろな仕事に就いておられる方がいらっしゃいます。田村先生も労務ご担当から始まったそうですが、そうした社内の仕事であっても、そういう意識を持つか持たないかで違うということでしょうか。
田村 そ...