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「なぜ売れないのか」は追及せず、今と将来だけを考える

キリンでつかんだ「幸せになる」仕事術(7)幸せの正体とは

田村潤
元キリンビール株式会社代表取締役副社長/100年プランニング代表
情報・テキスト
キリンビールの東海地区の営業責任者だった時代には、毎週月曜日に全員にメールを出し、今週やる仕事の意味と「使命が果たされた現場」の様子を伝えた。これによりどう動けばいいかがわかり、情報を共有することで刺激を得られ、より良いアイデアが出るという好循環も生まれた。また、「なぜ売れないのか」などといった過去を追及しなかったことも好評だった。実際、業績向上に必要なのは過去ではなく、今と将来を知ることなのだ。幸せと業績が両立するようになると、キリンでは経費が3割下がり、ワークライフバランスもよくなった。(全8話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:14
収録日:2022/03/30
追加日:2022/09/26
≪全文≫

●概念ではなく「成功事例」を示すことで好循環が生まれる


―― 今のお話をうかがっておりまして、田村先生の場合、行動に踏み出す勇気を得るためには「自分との対話」だったということでした。これはもちろん、これまでモデルがない中で、高知支店で試行錯誤しながら見つけていったというところで、まさに対話だったと思います。次に東海地区でやったときには、社員の方々は「幸せになりたいからやる」と。

田村 そのように思いました。

―― これはある意味では、皆さん、同じキリンの中ですから、高知がどれほど伸びたかっていうのはわかっているので、「あ、もしかしたらこの方法でやったら、わが地区もうまくいくのかもしれない。幸せになるのかもしれない」というモデルパターンがあったことで、踏み切りやすくなったということは多分あるんでしょうね。

田村 一番効果があったのは、毎週月曜日に全員に出したメールです。そこで、「今週やる仕事の意味」を説明したのです。「使命を果たさないといけないから、今週、この仕事を、ここまでやるのだ」と。それだけでは理屈はわからないんですね。それで、「使命が果たされた現場」が営業日誌に出てくるので、それを切り取って貼っていました。

―― いわゆる成功事例のように。

田村 そうです。「成功事例」あるいは「得意先からこういう声が聞こえてきた」と、いい事例を貼った。読んでいるほうからすれば、使命は概念ですから、これだけでは動けません。一方、使命が果たされた現場を見れば、「こういうことを実現すれば、田村のいう使命を果たせる」とわかるだろうと。これが非常に役に立ったといっていました。当時はみんな、ほとんどコピーして持っていました。

 使命は概念だから、その概念を実現するためにどうやればいいかというルートを示した。これで「ああ、そうか。使命を果たすと、お客さんからこんなにいい声が聞こえてきた」とか「喜んでくれる」ということがわかる。

 そこから幸せになるには、もっとお客さんに喜んでもらい、幸せになってもらうことが大事で、「だから、このとおりやっていこう」となったのだと思います。

―― 高知支店の場合、人数規模も少ないので、行動していくなかで、みんなで話し合って難しいことを解決できたと思います。「こういうことがあったよ」と成功事例をいって「じゃあ、みんなでやってみよう」となどと共有するうまい流れがありました。もっと大きい東海地区では、メールや週報などで成功事例を知らせることで、気運を盛り上げていった。似たようなことが起きたのですね。

田村 そうです。何をやったらいいかが、わかるようになってきた。やはり「現場の具体的な事実」がいる のです。そうしないと、考え方だけでは動けない。そこは、やるようにしました。

 同じメールは工場の人にも送り、全部共有化していました。すると工場との一体感が、ものすごく深まりました。自分たちが工場で造っているビールを、こういう思いで営業が売って、売場ができている。それに対してのお客さんの声も聞こえる。そこから「おいしいビールをもっと造ろう」となっていくわけです。

 お客さんと工場は切り離されていましたが、毎週月曜日の週報によって一体化してきた 。このことが非常に良かったと思います。

―― 今日のお話をうかがってまいりますと、「自由」と「自分たちで考える」という話もありました。「自分で考える」ためには、ヒントというか、例えば「Aさんがこうやったらうまくいった」などと事例を示す。週報はまさにそうで、「何々地区でこのようにやったらうまくいった」といったヒントをもとに「自分の地区だったら、もっとこうやったらうまくいくのではないか」といった発意が生まれる。そうした、いい循環が生まれてくるのですね。

田村 そうです。高いところに向かっているので、情報はものすごく良くなりました。そこに向かうために必要な情報はキャッチしようとするし、やってみようと思うのです。

 こういったことがありました。ある名古屋の飲み屋さんを担当しているチームなのですけれども、当時は「使命を果たす」ということだけいって、完全に任せていたのですが、すごい勢いで回ったチームがいたのです。名古屋駅の周辺を、それまでの何倍も。彼らがやったのは、NKK活動。「考えてはいけないんだ。考えると動けなくなってしまう」というのです。だから、「考えることが敵だ。何も考えないで、とにかく訪問する」という。これを、半年やったのです。とにかく、「こんにちは」「さようなら」みたいな感じで、すごく回った。

 私は常々、「考え抜け」といっていました。でも、すべて任せているんで、見ていたのですが、やっぱりそれはすごいのです。体でわかるようになるのです。身体で、相手が何考えてるか(がわか...
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