●流れ図で読み解く、「幸せになる仕事」への道程
―― 最後に田村先生が「自分の幸せと業績向上の好循環を生むフローチャート」を作成されたので、そのお話を伺って、この講座を締めたいと思います。これは全体図をどのように見ていけばよろしいでしょうか。
田村 これは「こういうふうになった」というキリンの実例です。最初に高知で本当に売れなくなってしまって孤立無援になったとき、会社の存在意義を考えたのです。そこでやはり「キリンビールは存在すべきだ」と思ったんですね。
では何をしようか。「(キリンという)会社の使命、理念を自分が果たそう」。高知支店が引き継ごう。それが今から思うと、自分やキリンの「運命を受け入れた」ということではないかと思います。
―― まさにアサヒビールが大フィーバーして、本当に追い詰められた時期のご決断ということですね。
田村 はい。(当時の)心理です。半年ぐらい、家に帰って考えたりしていました。壁を見ながら考えたり。すると「やはり自分がやろう」となった。尊敬する先輩の顔などを思い浮かべて「ああいうふうになりたい」と思っていましたし、それが自分にとってのキリンでした。とにかく、そういう会社を目指してやっていこうと。
そうすると、その「使命を果たす」、多くの人にキリン飲んで喜んでもらうためには、「戦略」を考えないといけない。それには「お客様の視点(顧客視点)」が絶対にいります。それまではメーカーの視点なのです。
それから「行動量」が大事です。よく聞き回るとか。やはり動いているのです。動いていることによって、なんとなく戦略がおぼろげながら見えてきました。これが田村個人の経験です。
一方、名古屋の人は、やはり「幸せになりたい」。自分が幸せになるには「みんなを幸せにする(必要がある)」「得意先も幸せにする」。だから1本でも多く飲んでもらって、幸せにしよう。
そのためには「戦略」が必要で、これをゼロベースに考える。目標を自分たちで決める。「こういう状態ができたら、『すべてがキリンになる』」ということを考えて、それぞれのチームが自分たちで「戦略」をつくっていくのです。
それは、「お客様視点(顧客視点)」です。最初は何をやっていいかわからないので、(キリンビールの)名古屋の人は徹底して聞き回っているのです。「どうしたらいいでしょうか、キリンは」と聞いているのです。聞いているうちに、だんだんわかってきた。
それで「組織の目標が、『利益や売上』から『使命を果たす』に変わった」のです。「使命を果たすことが自分たちの仕事なんだ」と。これが非常に大きな転換でした。
それは、「根本に向かった」ということだと思います。複雑多岐にわたる時代ですが、「どこのボタンを押せばうまくいくのか」というものがあるのです。これは「根本」や「本質」です。
根本とは「お客さんの心」「おいしいビール」「自分のことを大事にしてくれる」というもので、そこは「行動を通じてわかった」。そこへ向かおうと。すべてがお客さんの心なのだと。
それで何が起きたかというと、お客さんのために動いていますから「ありがとう」といわれる。それが、うれしい。「感謝の人間関係」が、もっとできる。
同時に「最小のコスト」にしないと、お金がかかってしまって「すべてをキリンにする」ことができない。あらゆる見直しをして、「最小のコストで顧客満足」を(追求した)。
すると当然、自分たちで工夫をして、「イノベーション」は起こらざるを得ない。「矛盾を統合する」。今までは、どちらをとるかでしたが、今度は両方をとらないといけない。そのための知恵や行動力は、ここから出てきました。
メンバーがいったのですが、やはり「行動によって意識が変わる」のです。人間は経験していないことは、絶対にわかりません。「使命」といっても、誰一人わかりませんでした。本社の人も、名古屋の人も。ところが行動してみると、「ああ、こういうことなのか」とわかる。
そこから意識が変わり、そのうちに「自分が行動する」。使命を果たすために何をしたらいいか、自分で考えて行動する。そういうように「精神が確立」していったのです。「体と心が、完全に一体となった(身心一如)」感じでした。
これは日本人の特徴で、「自分のためより、誰かのためにやるほうが、やる気が出てくる」のです。これは日本人の強みで、ここで発揮された。
そこで出てくるのが、「お客様満足度(顧客満足度)と生産性の向上」です。本社に着任して3年後に顧客満足度調査をしたら、「キリンが好き」と答えてくれた人が、1.8倍近く上がっているのです。高知県は8割の人が「キリンが好き」といっていましたから、売上げが上がるに決まっています。
一人ひと...