テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

「理念」は言葉ではない、「挑戦」をしつづけることである

キリンでつかんだ「幸せになる」仕事術(6)幸せと業績の一体化とは

田村潤
元キリンビール株式会社代表取締役副社長/100年プランニング代表
情報・テキスト
使命を果たすために大事なのは、行動である。行動しているうちに何かが潜在意識にたまり、やがて顕在化して、よい結果をもたらす。行動に至るパターンはさまざまだが、最大の動機は「幸せになりたい」だった。名古屋では使命を果たすために組織や仕事のやり方を抜本的に見直した。「使命」に向かって挑戦しつづけることで、驚くほどに知恵や工夫が出るようになり、数字も上がっていった。この過程を通じて、彼らは幸せを得られた。まさに業績向上と個人の幸せが一体化したのである。(全8話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:10
収録日:2022/03/30
追加日:2022/09/19
≪全文≫

●「実行といふ行為には、常に理論より豊富な何ものかが含まれてゐる」


田村 ただ、繰り返し申し上げますが、誰か一人でいいのです。一人がそちらへ向かうと、必ずやっているうちに自分への信頼が高まってきます 。それは一番高いところ(に向かうからです)。企業の一番高いところは企業の使命ですから、それを果たそうと向かっていると、そこに向かっている自分を信頼できるようになってくるのです。

 行動によってです。行動する前はダメです。行動が非常に大事です 。「高知支店の奇跡」はやはり行動です。本質は行動、動くことです。

「最高の知性」といわれる小林秀雄のこういう言葉があります。

「実行といふ行為には、常に理論より豊富な何ものかが含まれてゐる 」(小林秀雄『私の人生観』)

 つまり実行すると、(これは経験があるのですが)営業活動などをやってみると、何かが生まれているのです。ただし、うまく言語化できない。だからメンバーに伝えられないのですが、何かがあるのです。潜在意識のほうが、顕在化しているものよりも、すごくいっぱいある気がします。

 潜在的なものというのは、置き換えられないけれども、何かがある。しかし、それがあるときに「わかる」。

 「わかる」というのは、日本語に置き換えることができるのです。「あ、こういうことではないか」と。そこで初めてメンバーとコミュニケーションが成立するのです。「こういうことじゃないか」「そうか」「じゃあ、こういうふうにやってみよう」とか「別のやり方でやってみよう」となって行動する。

 その行動によって、また潜在意識の中に、何か大事なことが出ているのです。それがあるときピンとくる 。

 ノーベル賞をもらった山中(伸弥)教授が「直感だ」とおっしゃっていました。やはり直感で、パッとひらめくのです。

―― 蓄積というか、いろいろな潜在(意識)にたまっていたものが、浮かび上がってくる。

田村 そうです、行動によって。そしてまた何かが出てくる。そしてまた行動。この繰り返しでした。ですから、行動が決定的に大事です。

 行動するには、勇気が要るのです 。だから勇気が大事です。では勇気はどこから出てくるのか。私の場合は、「自分との対話」でした 。

―― 「自分との対話」ですか。

田村 はい。結局、キリンビールという会社が、世の中に存在する必要があるのか。毎日考えざるをえないぐらい追い詰められてしまったのです。全然、売れなくなりましたから。

―― アサヒスーパードライが大流行りした時期ですね。

田村 そうです。中でも高知支店が最下位になって、それぐらい数字が落ちていた。

 でもやっぱり考えてみると、「尊敬できる先輩」「尊敬できる理念」があったのです。「理念」って言葉じゃないのです 。よくわかったのは、「理念」を実現するためには「挑戦」をしないといけないのです 。挑戦しかないのです。

 だから、(キリンは)挑戦をしている会社だったんですよ。常に、味を見直していました。売れようが売れまいが、もっと最高のものをつくろうとしていた会社なんですね。行動していた会社だった。「ああ、だからこうなったんだ。大事なものはその精神なんだ。これを高知支店が引き継ごう」と、そう考えたんですね。それはやはり、自分の会社のピンチでしたから。キリンビールの運命が。

 それまでも、いい部分と悪い部分はもちろんあります。でも調子が悪くなると、悪い部分ばかり目に入ってしまうのです。だから飲みに行くと「あいつが悪い」「本社が悪い」となり、それで終わってしまっていたのです。でもそのうちに「これはおかしいな」と。

 悪い部分もいい部分も、よく考えるとセットなのです 。つまり、(キリンは)すごくいい会社だった。いい会社だったから、ほとんど努力しなくても、売れるようになっちゃったんですね。そうすると、人材も育たないし、一生懸命努力するという雰囲気もなくなってしまった。

 今の「本社」というのは、昔、非常に成功していたから(この状況が)生まれたので、この悪いところだけ取り出して「あいつが悪い」で終わっていたのは、やっぱりおかしい。全体がセットなのだ。だから、「しょうがない。いいも悪いも全部認めてしまおう。だって、逃げられないのだから。認めてしまって、それを引き継ごう」となった。
 
 それは何かというと、「キリンビールの精神、理念」です。「ひたすらお客さんのために行動し続ける」。これがキリンの理念です 。これを高知支店でやろうと。そちらに向かってから、精神が非常に楽になりました。

 そちらに向かっていくのに、では何をしたらいいかというと、とにかく聞き回る。尋ね回る。やっているうちに体でだんだんわかってきました。それで「やってみよう」となり、そういうト...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。