●使命を果たすには「自由」に任せるしかない
―― そのように(使命を果たすことに)「目標の設定」を変えることで、「自己裁量」が増えることになるのですか。自分の決定できる範囲が増えてくることにもなってくるのですか。
田村 そうです。マネジメントから言わせてもらうと、「自由にせざるをえない」のです。「高知の人に喜んでもらう」を使命とします。でも、人はさまざまですから、全部正解が違う。その心の集合体が、エリアの市場性になってくるわけです。
高知県も、高知市内と郡部では全然数字が違うのです。郡部にしてもキリンのシェアが高いところは7割ぐらいありましたが、低いところは2割ぐらいです。これは何なのかということです、同じことをやっていても。
これは、そこに住んでいる人の心です。心が銘柄を決めている。
そうすると、やはり「個別」なのです。全部の平均値で考えると失敗すると、よくわかったのです。使命を果たすには、個別の正解を自分で見つけて、解決するしかない。
従ってマネジメントから言うと、自由にするしかないのです。自由に考えてもらって、最適な答えを自分で見つけて、やってもらうしかない。ほかに方法はないのです。全部違うから。
そうすると、「勝手にやれ」と言っても、何をやっていいかわからない。
―― そうですよね。
田村 「『自由にやれ』といったって、何をやればいいんですか」と聞かれます。そこで「目標」が大事になるのです。
目標は、「数字」ではダメです。やっぱり「使命を果たしていく」(ことが目標です)。「使命を果たすには、(キリンビールが)どこにでもある状態をつくるのだ」と。
これがあるから、自由になれたのです。「それをやるためには、何をやってもいいのだ」と。得意先の話をよく聞き、相手と相談して、喜んでもらえるやり方を自分たちで工夫してやっていく。これしか方法はないのです。
現場はセールスがやっていますから、自分たちで考えて、どんどんいろいろな工夫を起こしていかないと、使命は果たせません。だから、自分たちでとにかく考えて、行動して、議論して、正解を見つけて、やってもらう。これは自由にせざるをえません。
そして自由になったのです、実は。軸があったから自由になれた。これが「幸せ」とも関係していると思います。
「会社の奴隷」という言葉があります。何かに束縛されている。目標数や、会社のルールや、上司の顔などに束縛され支配されている。そういう状態は、「幸せ」から考えると、よくないのです。
気持ちとしては、よくメンバーが言っていましたが「本当に自由って素晴らしい」「大空に(羽ばたく)」という感じです。
そのようになったことが、非常に「幸せ」として良かった。そして、これはマネジメントサイドの要請なのです。自由になって、自由に考えてもらわないと始まらないからです。
●日本人の本当の強みは、やはり「誰かのためにやる」こと
田村 名古屋のときも、そこが最初の壁でした。
―― 名古屋では東海地区の総責任者でしたね。
田村 はい。「使命を果たすために(キリンビールを)1本でも多く飲んでもらって幸せにするんだ」と言っても、(最初は東海地区の社員たちは)わからない。だから「(キリンビールが)どこでもある状態をつくる」というところから入りました。
そして「自由にやれ」と言っても、自由にやったことがない。常に指示されたことを自分のできる範囲内でやる。それしかやったことがない。自由になるために、まず目標と戦略を決めた。そこから潜在能力が一気に開花してきました。
やはり「自由」と「幸せ」は非常に関係がある。さらに申し上げると、「自由」と「主体性」はセットです。自由に自分で考えてやるのは、主体性と同じことです。同時に、「自立」でもあります。「自立自尊」というか、初めて自立したのです。
これは「責任感」を伴っていました。自分で考えて行動するわけですから、責任が生じると思うのです。それで、うまくいかなかったら、どんどん変えていけばいい。それを、どんどん自分たちでやっていく。
そうすると、それまでキリンビールでさんざん言われていた「責任感を持て」「主体性を持て」「自立心がない」「指示待ち」といった問題が全部解決してしまったのです。
今から思うと、「主体性を持て」「自立心を持て」と言われても、持てるはずないのです。雇われ人ですから、サラリーマンは。給料をもらうために入っていますから、「給料をもらう以上は指示をこなす」という意識で、これは自立心は持てません。それが、自立性が持てて、主体性を持てたのは、自由になったからです。
そこにあるのは「売上目標」の1つ上の概念である「会社の使命」です。使命は、どんな会社に...