●大型買収で文化を超えるのは大変難しい
新浪 企業買収について、買うこと自体は高く買えば簡単ですが、買収後にそれを皆で協力してやり上げるのは、なかなか労力が必要です。
神藏 新浪さんが社長としてサントリーに来られる前に、佐治信忠会長がすでにビーム社を買収していました。ほぼ無借金の会社が、約1兆6,000億円でビーム社を買い、いかにそのマネジメントを行うか。これはすごいことですよね。
新浪 最初に、この仕事を引き受けるにあたって、いろいろな先輩の方々にお時間を頂いて、そこで言われたのは、例えばソニーさんもそうですが、大型買収で文化を超えるのは大変難しく、どこも辛酸を舐めているという話をうかがいました。買収された側の企業も結構したたかで、「日本人のように心が通じ合うと最初から思ってはいけない」など、いろいろとご指導をいただきました。そんな中で、とにかく「誰の会社であり、誰の考え方で経営をするか」ということを明確にすることにしました。
一方で、スピリッツビジネスでは、サントリーよりもビーム社の方が大きいですからね。私たちに対しては、当初「サントリーのつくった商品を渡せばいい」というような態度でした。そうではなく、サントリーの会社になったのだから、根っこの部分にサントリーイズムをしっかりと植え付けて、私たちの考え方やビジョンは、きちんと推進していってもらいたいと思いました。
また、ガバナンス面の掌握も一般的にはなかなか難しいといわれていますが、実質的にはマット・シャトックCEOが握っていました。もともとプレジデントCEOだったのですが、チェアマンまで取られていました。この出だしのところですが、ビーム社を買うためには、言われたことを受けざるを得ないという状況でした。一般的に、学者の皆さんは「そこでしっかりと交渉すべきだ」とおっしゃいますが、買うためには仕方がないのです。買った後、そういう条件下で、どのようにして本当の価値を生み出すか、これが大変なのです。
神藏 それが一番難しいですね。買うためには受け入れないと、売ってくれないわけですからね。
新浪 そうですね。高く買えば、それで買うということはできても、今度はマネジメントを誰にやってもらうのか、やはりリテンションということになるのです。しかし、私たちが誰かを送り込んでできるかといえば、そう簡単ではありません。...