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私が直面した外国企業買収の「壁」

サントリー流「海外M&A」成功術(1)ビーム社買収の裏側

情報・テキスト
サントリーは、スピリッツ事業で自身よりも大きなビーム社を、約1兆6,000億円で買収した。だが、数々の日本企業が海外企業買収で手痛い失敗を重ねている。実際にサントリーもいくつもの壁に直面することになった。とりわけビーム社の経営層がマネジメントをがっちりと握り、サントリー側の意思が十分に反映できない恐れがあったことは、これまで名だたる日本企業が直面した問題とも共通していた。サントリーの社長に就任したばかりの新浪剛史氏も、最初に手痛い先制パンチを浴びていたのだ――。はたして、なぜサントリーはビーム社の買収を決断したのか。そして、いかに壁を乗り越えて買収を成功に導いたのか。新浪剛史氏にその内実を聞く。(全7話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:13:22
収録日:2019/03/25
追加日:2019/08/08
≪全文≫

●大型買収で文化を超えるのは大変難しい


新浪 企業買収について、買うこと自体は高く買えば簡単ですが、買収後にそれを皆で協力してやり上げるのは、なかなか労力が必要です。

神藏 新浪さんが社長としてサントリーに来られる前に、佐治信忠会長がすでにビーム社を買収していました。ほぼ無借金の会社が、約1兆6,000億円でビーム社を買い、いかにそのマネジメントを行うか。これはすごいことですよね。

新浪 最初に、この仕事を引き受けるにあたって、いろいろな先輩の方々にお時間を頂いて、そこで言われたのは、例えばソニーさんもそうですが、大型買収で文化を超えるのは大変難しく、どこも辛酸を舐めているという話をうかがいました。買収された側の企業も結構したたかで、「日本人のように心が通じ合うと最初から思ってはいけない」など、いろいろとご指導をいただきました。そんな中で、とにかく「誰の会社であり、誰の考え方で経営をするか」ということを明確にすることにしました。

 一方で、スピリッツビジネスでは、サントリーよりもビーム社の方が大きいですからね。私たちに対しては、当初「サントリーのつくった商品を渡せばいい」というような態度でした。そうではなく、サントリーの会社になったのだから、根っこの部分にサントリーイズムをしっかりと植え付けて、私たちの考え方やビジョンは、きちんと推進していってもらいたいと思いました。

 また、ガバナンス面の掌握も一般的にはなかなか難しいといわれていますが、実質的にはマット・シャトックCEOが握っていました。もともとプレジデントCEOだったのですが、チェアマンまで取られていました。この出だしのところですが、ビーム社を買うためには、言われたことを受けざるを得ないという状況でした。一般的に、学者の皆さんは「そこでしっかりと交渉すべきだ」とおっしゃいますが、買うためには仕方がないのです。買った後、そういう条件下で、どのようにして本当の価値を生み出すか、これが大変なのです。

神藏 それが一番難しいですね。買うためには受け入れないと、売ってくれないわけですからね。

新浪 そうですね。高く買えば、それで買うということはできても、今度はマネジメントを誰にやってもらうのか、やはりリテンションということになるのです。しかし、私たちが誰かを送り込んでできるかといえば、そう簡単ではありません。三菱地所さんが買収されたロックフェラー・センターは、いわゆるアメリカのアイコンでしたが、バーボンもアメリカのアイコンなのです。そうすると、日本人が乗り込んであれこれやったら、大変なことになります。非常にセンシティブです。こういうことを考えると、経営ができる人はなかなかそう簡単には見つかりません。そうなると、現在の社長にいかに気乗りよく働いてもらうかという方向へ行ってしまいます。今回の件の出だしも、案の定、そうせざるを得ない状況でした。

 しかし、前述の通り、マットCEOは「サントリーのつくった商品を渡せばいい」というような態度でした。ビーム社は私たち自身の会社になったわけですから、カルチャーが非常に強いサントリーにとって、約1兆6,000億円も使って買収しておいて、これは許されることではありません。一方で冷静に考えても、これからは、インテグレーションということで、ビーム社にはサントリーになってもらわなければいけません。しかし、向こうは「サントリーは私たちのグローバル戦略を支援してくれればいい」と考え、こちらは「主体的にそれを指示したい」という、せめぎ合いがあったのです。

神藏 MCAレコードを買収した時の松下電器産業(現パナソニック)も、同じような状況でした。最後まで、MCA側から「お金だけ出してほしい」と言われ、「余計なことを言うのなら、いなくなるぞ」と脅しをかけられました。コロンビア映画もそうですね。

新浪 その背景には、何年か後にはもう一度、ビーム社を上場させて資金を調達させるとともに、市場にアベイラブルになるようにしたい、というアメリカの金融界の思惑があったようです。また、ビーム社はもともと上場していましたし、当時の社長も上場したいと考えていたなど、そのような事情もありました。しかしながら、親会社である100パーセントオーナーの意向がほとんど通じないのです。「自分に任されたのだから、自分が全て行う」と彼らが考えている状況の中で、私はサントリーの社長を任されました。

神藏 不利な条件が並んでいたり、再上場する意向があったり、ガバナンスの面でCEOもチェアマンも取られ、そんな中で巻き返し始めるわけですね。


●重要なのは、「親会社がどう思っているか」


新浪 そうですね。まず再上場について、彼らがそのような意向を持っていても、親会社がどう思っているのか、あるいは親会社である...
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