●「高知だけ金をください」ではなく「ラガー苦戦地域対策」にする
―― 今のお話の中でも、いくつかのレイヤーというか、企業における職制というか職階の層によって、いろいろな違いが出てくるのだろうと思います。たとえば、社長がそう決意すれば、下が言うことを聞かないという問題はあるにしても、徹底することはできるかもしれない。部長がそのように思ったら、自分の部の中で、それをどのように実現していくか考えることができるかもしれない。田村先生の場合、最初にやられたのは支店長という立場でした。
逆に、個人で「自分はそのような行き方をしたい」と思ったとき、普通の会社では上司から「そんなくだらないことをいっていないで数字をやれよ」などと言われると思います。では組織をどう変えるのか。
田村先生も支店長のときに全てができるわけではなく、本社との関係性もあります。「こう思ったら、できる」というわけではなく、いろいろな障害があり、「自分の立場だとここまではできるけど、これはできない」といったことがあると思います。そういうなかで、なお「幸せに仕事をする」というのは、どういうことでしょう。
田村 やっているうちに、いろいろ見えてきますよね。まず直面するのが、本社との対立が出てきてしまうのです。商品は本社でつくりますから「こういう商品じゃダメだから、こういうふうにしてくれ」といったところで、すべての権限は本社にあります。でも「このままだと高知の人は幸せにならない」という確信がある 。全部ではなく、そんな大事な局面があるのです。
そうすると本社に意思決定してもらうしかない。これが「ミッション」になったのです。これは「高知の人を幸せにする」と決めたからです。
そうすると、本社とこちらでは立場が違うし、持っている情報が違います。だいたい社内の意見の対立をよく見ていると、「持っている情報量が違う」ということは結構あります。
「情報量をそろえる」という作業は、こちらがやるしかない 。そこはわりと、こまめにやっていました。「現場はこういうふうになっている。だからこういうふうにやったら、うまくいく」と。
ここで「高知、高知」とばかり言うと、「なんだ高知は」となるので、「これは根本的な問題だから、こうやるとうまくいく」などと話して、本社とはよくキャッチボールしていました。
すると非常にうまくいきました。1年ぐらいすると本社もだんだん、わかってきたのです。月に1回メールが来るから、読んでいるうちに「現場はこういうふうになっているのか」と。われわれも本社全体の政策が、わかるようになりました。しゃべるからです。それによって現場と本社が、一体化してくることになった。
すべてがすべて、いうことを聞いてもらえるわけではありませんが、全社の観点に立って「どういう商品であるべきか」という議論を、支店と本社がやるようになったのです。これは本社にとって、ものすごく良かったし、支店にとっても、ものすごく良かったです。
その作業を支店のほうでやらざるをえなかったのは、なにしろ「高知の人を幸せにしよう」「本社が間違っていれば、本社を正すのがミッションだ」と自動的になったからです。
でも本当は、こちらが間違っているかもしれないですね。ですからそこは、よく話をする。そのようにできたのは、組織として非常に良かったです。
―― 普通だと「あいつらが動かないから、自分ができなかったんだ」というような話にもなりかねない話ですが、そうではなくて、「これを実現するために、じゃあ、あの人が動いてくれるためにはどうすればいいか」を考えたりする。
田村 そうです、そうです。得意先と同じだったのです。これは非常に良かったです。ラッキーでした。つまり(キリンが)売れなくなったので、相手の話をよく聞いているのです。
「相手のロジック」というのがあるのです。よく「内在的な論理を把握しろ」といいます 。内在的な論理は見えないけれど、これを得意先に尋ねているのです。(すると)わかるのです。「ああ、こういうふうに考えているのか」と。一方で、われわれは、こういうふうにしたい(思いがある)。この接点を見つけて一緒にやっていった。これは社内も同じだったのです。
―― 例えば「製造部だったら、こういうふうに考えるよ」と。
田村 「本社の論理」というのがあるのです。これは、よく尋ねました。すると「あ、そういうふうに考えているのか」(とわかる)。「使命を果たすためには、ということで話をすると、うまくいくな」とか。そういったことが見えてくる。
常に相手の立場に立って考えて、相手の論理をよく理解したうえで話をする 。これが非常に役に立ちました。結局、本社のあらゆるセクションで。セクションごとに目標...