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国家利益をいかに普遍化して語るか、それが問題だ

中国の夢~中華から語る「普遍」(2)方法としての中国

中島隆博
東京大学東洋文化研究所 副所長 教授
情報・テキスト
「中国の夢」は実際何を意味しているか。ある者は、中国国家の夢に過ぎないという。またある者は、米中間のヘゲモニー闘争の一部だという。さらにある者は、竹内好にならった「近代化」の方法を示すものだという。東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、「中国の夢」という言葉に込められた多様な側面を解き明かしていく。(全3話中第2話)
時間:12:51
収録日:2016/01/21
追加日:2016/04/07
≪全文≫

●「中国の夢」は誤解を生みやすい


 中国の夢が中華民族を主体とする夢であるとすると、いろいろ「誤解」が生じる可能性があります。これに関して、王義桅(オウギキ)という人が、こんなことを言っています。「中国の夢は、国家としての中国の夢に過ぎないのではないかという誤解があるが、そうではない」。あるいは、「中国の夢は、漢や唐時代の繁栄を回復して、朝貢システムを復活させようとするような復興の夢ではないのか(という誤解もある)」。当然、周辺国からはそういう疑問が出てきますね。それについても「そうではない」と言っています。

 なぜかと言うと、彼は次のような区別をするからです。英語で「中国の夢」を表現しようとすると、いくつかあります。一つは、チャイニーズ・ドリームですね。中国人の夢です。それから、チャイナズ・ドリーム、国家としての中国の夢です。もう一つは、文化的な場所としての中華を生かして、中華の夢。これは、中国語の読みを用いてチョンホア・ドリームと言われます。

 彼に言わせると、中国の夢はこの三つの夢が三位一体となっているものなのだ、ということです。三位一体になっている夢なので、例えばその一部を強調して、国家としての中国の夢に過ぎないのではないかという言い方をする「誤解」もあるかもしれない。あるいは、文化的な中華という、非常に帝国的な夢だという「誤解」もあるかもしれない。しかし、いや、でもそうではないだ。これは渾然一体をなしているのだ。こういうエクスキューズをします。


●夢を語るのは、現状への憂患認識があるからだ


 ですがこれでは、おそらく誤解は解けないと思います。むしろ私は、「誤解」が深まってしまうのではないのかという気がしています。そもそも、どうしてこんなことを言わなければいけないのか。何のために、中国の夢を見ようとするのかということが問題です。

 第1話で読み上げたように、二つの100周年、つまり中国共産党100周年(2021年)と新中国成立100周年(2045年)という二つの100周年までは、少なくとも共産党の統治を継続したい。こういう意図があることは確かだろうと思います。ここに持ってきた、この陳光興という香港の先生は、『中国の夢を脱構築する』というタイトルの本を書いていて、これがなかなかうがった見方をしているところがあって面白い。

 この本によると、やはり今の中国では、中国の現状や社会の現状に対する憂患認識がある。社会を憂うる、これではちょっとまずいのではないかという意識がある。その憂患認識の非常に重要なところに、ゴルバチョフへの反感があるのではないか。ソ連を崩壊に導いてしまったゴルバチョフの二の舞は、やはり避けた方がいいのではないのか。中国の夢の背景には、こういう議論があるのではないかと言っています。ソ連邦のあのような崩壊に向かわせない形で、中国の社会を維持し発展させていく。それをどのようにすればいいのか。それを一生懸命考えているのではないか。こういう議論です。


●結局は「近代化の夢」なのか


 この陳さんは、次のようにも言っています。ゴルバチョフは結局、アメリカ的なディスコース(言説)に引っ張られていった。それによって、ああいった崩壊を導いた。しかし中国の場合は、そのアメリカとディスコースの権利、もしくは覇権、議題を設定する力を争い、それを中国が持つことで、ソ連邦とは違う道を開けるのではないか。その一つの表れが、この「中国の夢」ではないか。こういう言い方をしています。

 つまり問題の焦点は、ディスコースの権利、もしくはディスコースの覇権をめぐる争いだということです。そして実は、彼と立場を異にする学者も同じように言っています。ここに本当のポイントがあるのではないのか。国家の利益のために普遍性をどう語るのか。ある意味でこれは、非常に文化的な問題です。ですがここにこそ政治の核心がある。こういう議論がなされているわけです。

 この陳さんの言葉をもう一度引用すると、ゴルバチョフのように人権などの議題設定権を失い、そして、ソ連の卓越した求心力を失い、国家が分裂、崩壊に導いたのとは異なる道を目指しているだろうということですね。では、それは分かったとして、本当にこの中国の夢とは、新しい意味での中国的な普遍を立てることに成功するのだろうか。これが問題です。しかしこれはなかなか難しい。中国の思惑とは反対に、周囲の人々はむしろ危惧している。それは、中国に都合の良い普遍に過ぎず、周辺にとっては一種の悪夢ではないか。こういう受け止め方も出てくるかと思います。

 先ほど(第1話参照)、2006年に中国の夢を提示していたと紹介した、趙汀陽氏は、こんなことを言っています。近代における中国の夢とは、すなわち「近代化の夢」であっ...
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