10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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角や牙は雄間競争のため、派手な色は雌の選り好みで発展?

性淘汰の理論(1)ダーウィンによる二つのシナリオ

長谷川眞理子
総合研究大学院大学 理事/先導科学研究科 教授
情報・テキスト
チャールズ・ダーウィン
雄と雌はなぜ違っているのだろう。100年以上前にこのことを考えたのはダーウィンだった。生物の進化を説明した「自然淘汰」説だけでは説明しきれないほど、雄と雌には差が存在する。まず、その実態とダーウィンの考えた二つのシナリオを結び付けて考えてみよう。(全3話中第1話)
時間:08:54
収録日:2016/02/01
追加日:2016/06/20
チャールズ・ダーウィン
雄と雌はなぜ違っているのだろう。100年以上前にこのことを考えたのはダーウィンだった。生物の進化を説明した「自然淘汰」説だけでは説明しきれないほど、雄と雌には差が存在する。まず、その実態とダーウィンの考えた二つのシナリオを結び付けて考えてみよう。(全3話中第1話)
時間:08:54
収録日:2016/02/01
追加日:2016/06/20
≪全文≫

●生物は雄と雌であまりにも違いが多い


 長谷川眞理子です。今日は、「雄と雌はなぜ違うのか」という理論に基づいた生物学の話をしてみたいと思います。

 生物はどう進化するのかについて、チャールズ・ロバート・ダーウィンが提唱した一つのシナリオに「自然淘汰(ナチュラル・セレクション)」というものがあります。しかし、その後、雄と雌の違いについては少し別のことを考えなければいけないのではないかと考え、新しく「性淘汰(セクシャル・セレクション)」という理論を提出しました。そこでは、雄と雌の違いが生じる原因について考察しています。今回は、そのお話です。

 生物は、同じ種に属していても、雄と雌ではずいぶん違うところがあります。からだの大きさ、角や牙や飾り羽の有無、色がきれいだったり、あまりきれいでなかったりというように、目に見える形の上で大分違うところがあります。

 目に見えないところ、あまりすぐ分からないことでも、例えば、成長の速度に違いがあり、雄の方が早く成長したり、雌の方が早く成長したりします。それから、寿命です。一番完璧に元気に生きたとしても、どのくらい寿命が続くのかについては雄と雌によって異なることがあります。すなわち、死亡率、生存率ということになりますが、死にやすさ、生き残りやすさというものも、雄と雌によって違いがあります。また、代謝の速度ですが、どれぐらいごはんを分解して熱を出すかも違いますし、多くの行動が違います。

 行動といっても、戦うということや子どもの世話ばかりでなく、渡り鳥における渡りの時期が早めか遅めかとか、生まれた子どもが出生場所からどのぐらい遠くまで出ていくのかなどについても全て、雄と雌で違いがあるのです。


●なぜ生物の性差には多くのパターンがあるのか


 生活の全ての面にわたって性差は多様に存在するのですが、それが非常に顕著に分かることもあれば、スズメのようにどちらが雄か雌かよく分からないほど似通ったものもあります。つまり、性差は存在するものの、たいへん顕著なものとそうでもないものといった具合に、範囲はとても多岐にわたっています。

 また、あまりよく知られていないことかもしれませんが、「派手」や「けんか好き」のように、一般に雄らしいと思われている形質や行動が逆転して雌に当てはまり、雄はおとなしく地味という種類もあるのです。

 なぜそのようにさまざまな性差のパターンがあるのか。それが知りたいし、それを説明しなくてはならないということで、ダーウィンは考えたわけです。

 ともかく形も行動も違いますし、成長速度や出生地からの分散、寿命などはライフヒストリー(生活史)のパターンなので「生活史戦略」というのですが、そういうものも全て異なります。

 ダーウィンは、自然淘汰については主に物理的な環境への適応を考えていました。例えば、暑さ寒さ、水の有無など、条件の異なる場所にどうやって適応するかということを考えたわけです。ですから、雄と雌が同じ場所に住み、同じ気候の環境条件にさらされているにもかかわらず、これほど違うものができるということは、自然淘汰の理論だけでは説明できないのではないかと考えたのです。


●ダーウィンの理論1:繁殖競争は雄同士の方が雌同士よりも厳しい


 自然淘汰の理論を考えていたときにそこに気が付いたダーウィンは、もう少し別のことを考えなければならないと思いました。そこで注目したのは、配偶相手を見つけて子どもを残...
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