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法曹界の『人間観』は間違い?脳の働きから考える「善悪」

ヒトはなぜ罪を犯すのか(1)「善と悪の生物学」として

長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長
概要・テキスト
“ヒトの罪とは何か”――この問題について、法学や哲学的アプローチでなく、進化生物学・進化心理学的視点から考察するのが今回の講義の趣旨である。ヒトが社会的動物として集団生活を送る中で個人間に利害対立が生じ、これを調整するために文化的・社会的規範が発達してきた。まずは善と悪に関するヒトの脳神経基盤から見ていきたい。(全3話中第1話)
時間:08:32
収録日:2023/12/11
追加日:2024/02/25
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●“ヒトの罪とは何か”を考える「善と悪の生物学」


 長谷川眞理子です。今日は「ヒトはなぜ罪を犯すのか」というお題をいただいたので、私の(専門である)進化生物学・進化心理学などの関係から、話をしてみたいと思います。

“ヒトの罪とは何か”を難しく語る法学や哲学の話ではなく、私が考えるところは、「善と悪の生物学」とでもいうようなことではないかと思います。

 それを考える上で、ヒトの生物学的な心理的・認知的な基盤である情動や感情、理性といわれる認知の部分がどう進化してきたか、という脳の働きの部分ですが、それがどのようにいいこと・悪いことを感じさせるか。それと、そういうものが進化した舞台であるヒトの社会、という生物の話があります。

 それで終わらないのがヒトであり、ヒトというものには社会があって、その社会の中に文化がある。文化はみんなで共有されていて、そこに規範があり、慣習や掟、さらに国民国家になると法律という形で、みんなに浸透していきます。

 そのようなヒトの社会が文化を持ち、文化がそれぞれに何がいいことで(何が)悪いことなのかということを決めている(のか、)また、そういうものがどうしてできてきたのかという話もあります。

 そして、現代の社会のように法律や警察などができて、きちんとした裁判もあるような社会と、それ以前の、そういうものが出来上がってくる過程ではどうだったか、という話を区別して話さなければいけないのだと思います。

 私は主に生物学的な話と、ヒトの社会が文化としていろいろな慣習、掟を持ってきた、そのあたりの話をしたいと思います。


●利害対立に対する行動の原動力「情動」と「快と不快」、それに伴う「葛藤」


 善悪に関するヒトの脳神経の基盤は何だろうか。ヒトは集団で社会を作って暮らしていて、みんなでいろいろ協力したり、同じ目的にみんなで励んだりしないといけないので、集団で暮らすことがとても大事です。

 ところが、集団内の個々のメンバーの間には、必ずや利害対立が存在します。これをやった場合、私はいいけれど相手はよくない。あるいは、あれをされると私は困る。そのように、必ず集団内の個々のメンバーの間に利害の対立と葛藤があります。そして、この集団と向こうの集団というように、集...
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