10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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カエサルの寛容―「敵を許す」ローマ人の精神性

古代ローマ人に学ぶ(5)カエサルの寛容を現代に生かす

本村凌二
早稲田大学国際教養学部特任教授/東京大学名誉教授/博士(文学)
情報・テキスト
「カエサルの死」(ヴィンチェンツォ・カムッチーニ)
ローマの「自由と寛容」のうち、「カエサルの寛容」と呼ばれる精神はローマ人の精神性をよく表す。内乱の一世紀に生まれ、内外の戦闘・政争に勝ち続けたカエサルは、どのようなリーダーだったのか。古代ローマ史を専門とする早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏に伺った。(全5話中第5話)
時間:11:29
収録日:2016/10/20
追加日:2017/02/10
「カエサルの死」(ヴィンチェンツォ・カムッチーニ)
ローマの「自由と寛容」のうち、「カエサルの寛容」と呼ばれる精神はローマ人の精神性をよく表す。内乱の一世紀に生まれ、内外の戦闘・政争に勝ち続けたカエサルは、どのようなリーダーだったのか。古代ローマ史を専門とする早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏に伺った。(全5話中第5話)
時間:11:29
収録日:2016/10/20
追加日:2017/02/10
≪全文≫

●内乱の世紀に発揮された「カエサルの寛容」


 ローマの寛容さ(クレメンティア、clementia)は、「カエサルの寛容(Clementia Caesaris)」という言葉でよく表されるように、カエサルによって特に象徴されます。

 カエサルの時代、敵には2種類ありました。一つは『ガリア戦記』に象徴される外敵です。ガリアは現在のフランスで、ローマ軍はそこまで遠征を行い、8年ほどの期間を費やして戦った挙句、征服を遂げています。もちろんカエサルは、戦地ではかなり残虐なことも行っていますが、敵側が恭順の意を示したり、「これ以上は抵抗しない」と降伏してきたりすると、意外なほど残虐な行為には出なかったのです。

 それは、国内においても同じでした。カエサルの時代は「内乱の一世紀」と呼ばれるぐらいで、ローマ中が民衆派と閥族派に分かれて戦いました。共和政500年の最後の約100年間、内部における権力闘争はそれほど激しくなったのです。皆さんもよくご存じのように、民衆派の代表であるカエサルが最後に敵対したのが、ポンペイウスら閥族派という貴族派の代表でした。

 ローマ市民同士である彼らの間に、血を見る争いへと発展する事態が何度も勃発する中、カエサルは敵対する閥族派に対しても、よく「カエサルの寛容」を発揮しました。こうした戦いに勝った彼は敗者に対する措置として、かなりの割合で許しを与えています。それどころか、戦った相手を非常に高い官職に就かせることもあり、自分が打ち破った相手への処罰や処刑はほとんど行っていませんでした。


●「Et tu Brute(ブルトゥス、お前もか)」が出てきた理由


 その典型がブルトゥス(ブルータス)という男です。彼はカエサルの愛人の子どもだったといわれます。一説には直接的にカエサルの子だったとする人もいますが、カエサルとブルトゥスの年齢差は15~6歳ですから、年齢的に考えて無理ではないかと思います。ともあれ、愛人の息子であったのは確かなことで、カエサルは幼い頃から彼をよく知っていたのです。

 ところが、ブルトゥスはカエサルの立場を支持せず、彼を「独裁者になる危険を持つ人物」と見る側に立ちます。これはポンペイウス派の考えで、共和政の伝統を守ろうとしたということです。ただ、共和政はカエサル側から見ると、500年間続いてきたけれども、「もはや大帝国になった国家を治めきれない」システムだったのです。つまり、新しいシステムをつくらないと、帝国的な規模になっている今の時代には対処できないというのが、カエサル派の考え方でした。

 両者は対立し、戦います。カエサルはブルトゥスを幼い頃から知っており、自分の愛人の息子でもあるところから、来れば可愛がり大事にしていました。ですので、何度か彼を敵に回して戦った後も、カエサルはもちろんブルトゥスを許しました。そうした中で、あの有名な最後のセリフ「Et tu Brute(ブルトゥス、お前もか)」が生まれるのですが、カエサルからすれば、「俺はお前を何度も許してやったのに、なぜお前が…」とブルトゥスが自分を暗殺する首謀者になっていることが、そのセリフが出てくる背景になるのです。


●戦前の日本軍部がローマ史を勉強していたら


 このように、カエサルは繰り返し「敵を許す」精神を発揮しました。それはカエサルに象徴されますが、ローマ人そのものが持っている気質によるものです。もちろん戦争や戦いの最初の局面、軍事的制圧を行う段階においては残虐な行為もあったに違いません。しかし、一旦力でねじ伏せた後において...
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