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老荘思想は今の時代に人類の指針となる

老荘思想に学ぶ(1)力のメカニズム

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
老荘思想研究者・田口佳史氏が、今の時代に人類の指針となるような教えとしての老荘思想について語る。日本は明治維新以降、西洋近代思想に、そして特に戦後はアメリカの思想や文化にリードされてきたが、今、人々の目は自国の力の見直しに向かっている。それはなぜなのか? 老荘思想が説く力のメカニズムから、時代の流れを俯瞰する。(全5話中第1話)
時間:09:01
収録日:2016/12/05
追加日:2017/05/08
カテゴリー:
≪全文≫

●「自国ファースト」の風潮を100年単位で考える


 本日は、老荘思想についてお話ししたいと思います。まず今、なぜ老荘思想をお話しするのかということから始めていきたいと思います。

 最近、ご承知の通り、ドナルド・トランプさんという人が大統領になるということが、現実のものとなりました。そこでせきを切ったように、非常に「自国ファースト」といいましょうか、そういうことを言う人たちがたくさん出てきました。政治とは、大体そういうものなのですが、それにしても保護主義といった閉鎖的な政治家がトップリーダーになってくるということがとても多いわけですね。

 そういう風潮が、今後どのようになっていくのかということを考えるときに、100年とか150年の単位で考えていくのがちょうど良いと思うのです。ご承知のように、今年は易経の干支から言いますと、「丁酉(ていゆう)」という年です。この60年前、またその60年、60年と数えて180年前は、なんと大塩平八郎の乱の年です。歴史家がこぞって言うところによれば、やはり明治維新はこの大塩の乱からスタートしたといいます。したがって、転換とは30年間かかるというのが大方の見方です。


●近代西洋思想、拡大主義のリードを経て自国見直しへ


 ちょうど今年はそういう転換の年になっているのです。そのように考えてみると、この明治維新、つまり近代化とは、どう考えても西洋近代思想のリードによるものです。非常に近代的な技術による軍事力を誇った西洋列強がわれわれの国に襲ってきて、そのことに後押しされて、この日本も近代国家の方へぐっと進んだわけです。また、戦後の日本を考えてみても、状況からいって西洋型の象徴であるアメリカに、全てリードされるかのようにしていった。つまり西洋近代思想というもののリードによってこの150年間、われわれはやってきたわけです。

 そのアメリカが現在どうなっているかといえば、一時は「世界の警察国家」というぐらいに、全世界の平和を司るような象徴であったものが、どうもここのところそうではないような状態になってきました。つまり警察力の低下とでもいえる状態になってきたのです。やはり、自国をもって、世界を押さえていくという、ある種、拡大主義の限界が出てきたわけです。

 そうさせてはならじという勢力が出てくる一方で、もう一回自国を見直して、自国の力をもっと発揮したり蓄積することが重要なのではないかということです。

 戦後のアメリカを見ていれば、わが国に対する影響も、強弁すれば、軍事力やライフスタイル、そしてアメリカンキャピタリズムに代表されるような資本主義、あるいは経営学。そういうものでアメリカ化が成されてきました。その一つの反動として、今の国内主義になっているのではないかと、私にはどうも思えてならないわけですね。


●老子が説く力のメカニズム-まず反対に動く


 今日お話しする老荘思想の中にも、こういう言葉があります。それは「之を弱めんと將欲せば、必ず固(しば)らく之を強くす」というものです。「この世の中の自然の哲理によれば、何かを弱くさせようとするなら、必ずまず強くして、それから弱めていくのだ」という意味です。それから「之を廃せん」、もうこれを廃止する、あるいは、なくそうと「將欲せば、必ず固らく之を興す」ということです。反対の現象というものがどうしても起こってくるのです。これは後でも出てくる「陰陽」の一つの成せる技であります。

 もっとやさしくお話をすれば、もの、例えばボールを前に投げようというときにどうされますか。最初から前に向かって投げる人はいませんね。つまり簡単に言うと、ぐっと後ろに引きますよね。反対に行くわけです。この世の中の力のメカニズムとは、「こうしよう」と思う、その反対がまずあって、それから目指すところへ行くというのが、老子の説いている力のメカニズムなのです。


●この先に見出す人類の指針-老荘思想


 現在、そういう状況で、世界中がこぞって自国ファーストになっているのも、ある種そういう力のメカニズムが動いていると思うのです。いよいよここからしばらくは、そういう風潮になっていくのでしょうが、それが数年して終わった暁に、西洋近代思想に代わってくる、皆が待ち望んでいた人類の指針のようなものが出てくるように思えてならないのです。その時に非常に参考にした方が良い、あるいは非常に強い影響力を持つであろうと思えるものが、今日お話を申し上げる老荘思想なのです。
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