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現代人が学ぶべき老荘思想の基本「水の精神」

老荘思想に学ぶ(2)水の精神

田口佳史
老荘思想研究者
情報・テキスト
老荘思想研究者・田口佳史氏が、老荘思想をひも解き、現代を生きる私たちが学ぶべきことについて語る。今回、取り上げたのは老荘思想の基本となる「水の精神」。大変に身近で、あって当たり前の水。そこにはどんな老子の教えが流れているのだろうか。(全5話中第2話)
時間:17:31
収録日:2016/12/05
追加日:2017/05/22
ジャンル:
≪全文≫

●現代に生きる老荘思想-しなやかな復元力


 最近、西洋社会の特にビジネススクールなどの人が来た時に、話を交わして、彼らが象徴的に主張する一つの言葉があります。それを挙げてみると、大体こういうことになるのです。

 まず「レジリエンス」という言葉です。“Resilience over Strength”(レジリエンス・オーバー・ストレングス)。ストレングスとは、「力」ですから、「もう力の時代は去った。やはりこれからはレジリエンスだ」と言っているわけですね。

 このレジリエンスとは一体何なのかというと、あえて言えば、老荘思想の考え方では「復元力」に当たるものです。後で「柔弱は剛強に勝る」という言葉を解説しますが、「鉄板と柳とどちらが強いのか」というときに、老荘思想では「断然、それは柳の方が強い」ということを言っており、その復元力に当たります。

 大震災や津波など、思ってもみなかったいろいろなことが起こるのが今日の世の中ですが、そのときに重要なのは、「その後、復元するかどうか」ということなのです。そういうしなやかさやしたたかさが非常に重要だということです。腕力や全ての力よりも、もっとしなやかな復元力の方が、生命力を感じるのです。ですから、そういう意味でこのレジリエンスとは、最近、経営の世界などでも非常に使われる言葉になっています。


●プッシュプッシュではなく、引いて全体を見回す


 それからもう一つ彼らが多用するのが、この“Pull over Push”(プル・オーバー・プッシュ)ということです。要するに「プッシュの時代は終わった。もう、押して押して、がんがん押していくという時代ではない。やはりこれからは引く時代だ」と彼らは言うのです。これも老荘思想の考え方で、先ほどから言っているように、何かをしようと思ったら、その目的の反対をまずやって、それで空気を読むというようなことが、非常に重要だと言っているのです。

 戦後すぐの高度成長期は、もうプッシュ一点張りでどんどん押したわけですが、2000年代に入ってからはむしろ、「よく見る」「よく考える」「よく観察する」などといったことが言われます。いわば、ぐーっと引いてみて全体を見回す、ということがとても重要だということです。生き方一つにも、押して押しまくれという時代ではないのではないか、ということを言っているのです。


●理屈より実行、そして自ら考え創発する


 それから“Practice over Theory”(プラクティス・オーバー・セオリー)。理屈の時代はもう去って、やるかやらないか。実行するかどうか。そういう時代だということを彼らはよく言います。つまり「理屈は全部出そろっている。もう十分だ。さあ、実行だ」と。今はそういう時なのではないか、ということです。ところが、世界的に見ても、何か新しい考え方をどんどん形にしていくということが少ない。それは問題ではないか、ということです。現代人の気風の中に、まだプラクティスという実行や行動に対する情熱や熱意が足りないけれど、これからはそういうことが求められる時代ではないのか、ということを言っています。

 もう1つよく挙がるのは、“Emergence over Authority”(エマージェンス・オーバー・オーソリティー)という言葉です。このエマージェンスとは「創発」、要するに「創造」ですね。自分たちが考えて考えて、考えた末、何かをやっていくということです。オーソリティー(権威者)に聞いて「ははあっ」と言って、それをやる時代ではもうないということを、彼らはすごく言うのです。


●老荘思想の基本-「水」の重視


 いま挙げました4つの言葉に共通して流れているものが、実は老荘思想の基本なのです。それは何かというと、物事との対立の仕方が自分本位、自分勝手でないということです。相手をよく観察して、相手がどういう気持ちでいるのか、どういう特性があるのかなど、そういうものをよく見て、われわれはやっていく必要があると説いているのです。

 その代表的な例を一つご紹介しておきたいと思います。老荘思想といえば、「水」を非常に重視します。一番有名な言葉で皆さんよくご存じなのが、「上善(じょうぜん)は水の若(ごと)し」という言葉です。実はこの有名な「上善水の若し」という言葉の次に「水善く萬物を利して爭はず」という言葉が付いています。私は今までこの歳まで生きてきて、これが非常に重要だと思うのです。


●水は触れ合うもの全てから吸収して豊かになる


 中国古典のこのような言葉の非常に味わい深い点は、「どのように読んでも結構」という自由闊達なところがあることです。あまりひどく自分勝手に読んではいけませんが、この「水善く萬物を利して爭はず」も、私は若い頃にこれを読んだのと、現在の心境になって読んでいるのとでは、ずいぶん意味が変わってきたと思うので...
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