10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
このエントリーをはてなブックマークに追加

治水だけでなく農耕地整備や名産品選定も―禹の絶大な功績

儒家思想におけるリーダーシップ(4)禹の問題解決能力

田口佳史
老荘思想研究者
情報・テキスト
リーダーが備えるべき「問題解決能力」は、古代中国の国王に学ぶべし。老荘思想研究者・田口佳史氏によれば、『書経』に書かれた古代中国の夏王朝の王・禹が行った治水事業には、現代のリーダーシップ論に通じる「問題解決能力」の一端が描かれているという。紀元前2000年の昔から語り継がれた、東洋的リーダーの真髄に触れる。(第4話目)
時間:10:42
収録日:2015/02/27
追加日:2015/08/27
≪全文≫

●禹は九州を回り山と川両方を治めていった


 『書経』の中に「禹貢(うこう)」という欄があり、禹がどうやって洪水を治めていったか、その詳細が記された部分があります。「九州」という言葉は日本でも使いますが、中国にも九州という言葉があります。冀州、兗州、青州、徐州、揚州、荊州、豫州、梁州、雍州を九州、要するに中国だと言っています。ちょうど禹の頃も、ほぼ現在の中国と同じような広大無辺な地域で、ここでいろいろな河川がたびたび氾濫し、洪水が起こっていたのです。なんと禹は、九州全土を回って見事にこれらを治めました。しかし、文章を読んでみますと、ただ洪水を治めただけではないことが分かります。

 まず冒頭に「禹土を敷(し)き山を随(こぼ)ち木を刊(き)り、高山大川を奠(さだ)む」とあります。これは名文です。禹が土地をしっかり平安にしました。すなわち、山を削り、木を切って平地にし、農耕地にしたという意味ですね。「高山」と「大川」ですが、この言葉には、山の神と川の神という意味が込められています。つまり、山の神と川の神との共同作業によって川が治められたのです。川を治めるには、同時に山を治めなければならないので、山と川と両方を治めていったということです。


●平地を農耕地に変え、土壌検査も行った


 第1節「冀州」から始まり、禹は九つの州を回っていろいろなことをします。まず冀州ですが、「既に壺口(ここう)を載(おさ)め、梁及び岐を治む」。これは、「壺口」という川を治め、「梁」及び「岐」も川ですが、これらを治めたということです。

 「既に太原(たいげん)を修めて、岳の陽に至る」。今でも太原という街がありますが、そこを治めて、岳の陽という所に向かい、治山治水を繰り返していきます。ですから、この文章からいえば、方法は一気呵成ではなく、川を一つ一つ整備していきます。さらに、川を整備するだけではなく、平地をなるべくうまく使い、農耕地になるようにします。農耕には水が何といっても重要ですから、ただ川を治めるだけでなく、農耕作業用の水路を非常にうまく張り巡らせて、周囲を肥沃な土地にどんどん変えていったことが、この部分に見られます。

 「覃懐(たんかい)は底(つい)に績し、衡漳(こうしょう)に至る」。これは場所や川の名前のことですが、そういうものを一つ一つ肥沃な価値ある土地に変えていったことを表しています。

 非常に興味深いのは、その次の「厥(そ)の土は惟(こ)れ白壌(はくじょう)なり」です。これは土壌のことを言っており、この地域は白っぽい土質だということです。つまり、土壌の検査も合わせてやっていくわけです。なぜ土壌の検査が治山治水に重要なのか。それは、川をただ治めるだけでは意味がなく、そこを価値ある土地に直せるかどうかが、治山治水で最も重要だからです。農作物にしてもいろいろなものがあるので、それに向いた土質を徹底的に調べて歩かないと、どんな農作物の名産地にできるのか分かりません。つまり、白い土壌には、どんな農作物を植えたらいいかということまで表しているわけです。


●土地の格付けから名産品の選定まで行った


 その次に、非常に興味深い文言があります。「厥の賦(ふ)は惟れ上の上にして、錯(まじ)はる」。厥の賦は、土地としての価値のことです。農耕作業をする土地としては上の上だと言っているのです。土地を検査して、そのバリュー(価値)を明確に算定し格付けをしているのです。九つのランクに分けてあり、上の上から、上の中、上の下、中の上、中の中、中の下、下の上、下の中、下の下の九つになります。このようにランク付けをして、その土質による土地の価値を調べていきます。こういうものを植えるとこれだけできるからこの土地は非常に価値があるとか、ここでの農業はなかなか難しいからそれほどでもないなど、土地の価値付けをして歩くことまで、治山治水の中で行っているのです。

 さらに驚くべきは、次の「厥の田は惟れ中の中なり」です。田畑から生み出される農作物を予測すると、大体どれくらいのものができ、税金としてこの地域からどのくらい徴収することができるかということを示しているのです。税金の徴収という観点でも、その土地、その田んぼを査定しているのです。ですから、ここでは中の中だと言っているわけです。ただ単に土地を治め、川を治めるだけでないのです。

 さらに、「恆・衛は既に従ひ、大陸は既に作(な)り」。簡単に言うと、とても肥沃で大きな土地ができたということです。これは、それまではそういう土地ではなく、非常に水はけが悪く、水が大量に必要なところであったのですが、洪水を治めると同時に、水が必要なところにはどんどん供給できるような河川をつくることで、大きな農耕地ができるということです。さらに「...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。