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「ワンオペ」発覚後のすき家のコンプライアンス対応

「ものがたり」のあるコンプライアンス(6)労働問題

國廣正
弁護士・国広総合法律事務所パートナー
情報・テキスト
国広総合法律事務所パートナーで弁護士の國廣正氏が、労働問題発覚後のすき家の対応を取り上げ、コンプライアンスの成功例として解説する。問題発覚後、第三者委員会は過酷労働の事実と原因を徹底的に究明した。すき家はそれを真剣に受け止め、体質改善を果たすことに成功する。企業が本当に回復するためには、第三者委員会のこうした徹底調査が欠かせない。(全7話中第6話)
時間:09:43
収録日:2017/08/24
追加日:2017/10/17
≪全文≫

●第三者委員会の衣をまとって、ごまかす人たち


 3番目の成功例は、牛丼のすき家です。2014年ごろ、いわゆるワンオペ(ワンオペレーション)といった過酷労働の問題で、すき家がたくさん閉店をするという事件がありました。私は第三者委員会の委員の1人として調査報告書を書き、記者会見にも出席することになりました。

 すき家は、1年365日24時間営業であるということを売りにしてきました。出店のペースはどんどん早くなり、ついには吉野家はもちろんのこと、マクドナルドよりも出店が多くなるという状況でした。つまり、外食産業日本一になったのです。ところが、人が足りず、ワンオペ、つまり1人で店の全ての業務を行うという店舗が多くなりました。あるいは、24時間連続勤務を「1回転」と呼びますが、中には2回転する店員も出てきて、大変問題視されたわけです。そこで、ゼンショーのCEOであり創業者である小川賢太郎氏に依頼されて、久保利英明弁護士が委員長になり、私たちは第三者委員会で徹底調査することになりました。

 第三者委員会というと、不祥事が起きた企業で徹底して事案を究明することが目的です。言ってみれば、外科手術をして回復させるのが、本来のあり方です。ところが最近は、そういう正しい意味での第三者委員会もある反面、第三者委員会の衣をまとって、ごまかすようなところも出てくるようになりました。


●東芝の第三者委員会には第三者性が全くなかった


 すき家の話からはずれますが、良くない第三者委員会の典型例は、東芝の第三者委員会です。東芝は2015年、不正会計を行っていたことが大問題になり、SESC(証券取引等監視委員会)の検査・調査を受けました。第三者委員会が設けられ、第三者委員会報告書も書かれて、結局3人の社長の首が飛ぶことになりました。一見、第三者委員会で徹底した外科手術がなされたかのように見えますが、私たちはまやかしだと思いました。

 というのも、膨大な量の調査報告書が出されましたが、その最初には「われわれは東芝から依頼された事項のみを調べます」といった内容のことが書かれているからです。つまり、原子力発電については依頼されていないから調べないと、冒頭に断ってあるようなものです。しかし、一番問題なのは原子力です。常識的に考えれば、第三者委員会が第三者として、つまり客観的な立場から、不正や会計上の問題を調べようとするのであれば、いの一番に原子力を見なければならないはずです。つまり、この委員会には第三者性が全くありませんでした。いわれたことしか調査しなかった、原子力だけは見てくれるなといわれたから見なかった。このようなことが最初に書いてあるのです。そして、これこそ目くらましだと思いますが、3人の社長の首を飛ばして、自分たちはこんなにしっかりと仕事をしたと見せかけたのです。

 しかし、その結果がどうなったかは、今の東芝を見れば分かります。原発事業の問題が引き金となって、東芝自体がばらばらになる寸前です。第三者委員会を設置するのであれば、本当に一番見てほしくないものを委員会に見せて、そして外科手術をして、企業として再生するということが本筋であるべきでしょう。それに失敗して、会社自体がなくなりそうになっているのが東芝なのです。


●すき家は正しい第三者委員会を設置した


 話をすき家の問題に戻しましょう。すき家は、まさにそういう意味で正しい第三者委員会を設置しました。私たちは徹底して調べると、いかにひどい状態だったかということが全部分かってきたのです。

 例えば、2回転問題やワンオペの問題です。全社員からアンケートを採りましたし、ヒアリングも数十人に実施しました。そうすると、とんでもない事実が無数にあらわになったのです。例えば、2回転するということは48時間連続勤務です。当然、2回転した後はふらふらになるでしょう。地方のすき家の場合、車で通勤している人が居眠り運転で電信柱にぶつかったり、あるいは川に飛び込んだという事例が出てきていたのです。しかも、これらはすでに上に報告されていたはずなのに、それが握りつぶされていたということも分かりました。第三者委員会報告書では、そうした事実を全て洗いざらい出したのです。

 すき家の幹部にとっては、やってほしくないことだったに違いありませんが、私たちはそれを行いました。事実を洗いざらい出さないと、本当の意味での再生は不可能だからです。実際、CEOの小川氏もこれを望みました。

 調査報告書が公表された後、ネットではそれが大炎上しました。ただし炎上といっても、良い意味での炎上です。この報告書はとても面白いということで、ネット上では、現代の「蟹工船」だと表現する人たちもいました。すき家は、徹底的に事実を書いた私たちの調査報告書を受けて、直ちに200店舗を閉鎖...
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