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『街道をゆく』で旅を続ける司馬遼太郎の夢

司馬遼太郎のビジョン~日本の姿とは?(6)ウラル・アルタイ語族と司馬史観

片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家
概要・テキスト
司馬遼太郎
出典:Wikimedia Commons
司馬遼太郎の大陸ロマンには「ウラル・アルタイ語族」という当時の学説があった。東欧や北欧にまで点在する「自由民的な精神の同胞」を信じ、中国的な定住志向に安住しがちな日本人に、「自由な飛躍」こそ日本の真の姿という夢を与えたのである。それこそが「司馬史観」で、日本人像の「夢」を蒔いた司馬遼太郎が行き着いたのが、『街道をゆく』で旅を続けることだった。(2023年3月16日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「いまこそ読まれるべき司馬遼太郎~その過去、現在、未来」より、全6話中第6話)
時間:11:32
収録日:2023/03/16
追加日:2023/06/25
≪全文≫

●言語学への興味~「日本語はウラル・アルタイ語族に属する言語だ」


 このモンゴルへの憧れというのは、司馬遼太郎さんがモンゴル語を専攻した戦争中の語学教育に決定的に影響を受けていました。「日本語はウラル・アルタイ語族に属する言語だ」というもので、朝鮮語、満州語、モンゴル語、シベリアの諸言語、さらに飛び越えてハンガリー語やフィンランドのフィン語などがウラル・アルタイ語族です。

 これらには文法的な共通点、音に関する法則の共通点があって、もとをたどれば同じ言葉をしゃべっていた民族が、フィンランドから日本まで分かれて住んでいるということです。これは、西洋で育った近代言語学における世界の言語の分類によるもので、日本語もフィンランドのフィン語も全て兄弟言語であるという説でした。

 今日では、この説が正しいという説得力は乏しくなっています。そこまではっきり同じ言葉をしゃべっていたものが分かれて、こうなったのかどうか。世の中の見方、言語学の見方は変わってきていると思います。しかし、司馬遼太郎さんの時代においては、ウラル・アルタイ語族は、ウラル語族とアルタイ語族に分かれていたようだということはあるものの、共通のものをずっと話していたといわれていました。

 このシリーズで土佐弁へのこだわりについても話したように、司馬遼太郎さんには言語学への興味が非常に強くありました。そのため、言葉で全部説明しようとするところもありますが、司馬遼太郎さんの場合、「ウラル・アルタイ語族は同じ仲間だ」、だから「モンゴル人と日本人、また朝鮮人も、同じ仲間であり、もとをたどれば遊牧(騎馬)民族として、自由民としての精神を持っている」と。つまり、日本人の根源にはそういう人たちがいるから、農民的な日本人像は本当の日本の姿ではなく、自由人的な姿が日本のスタンダードになり得る。司馬遼太郎さんはそういう信念を持って、そこから世界を説明しようとする。だから、司馬遼太郎さんはすぐにフィンランドやハンガリーについても言及していました。


●文明圏の中で捉える「大きな日本」


 だから、日本人は朝鮮語を勉強しなくてはいけないと。『日本の朝鮮文化』という座談会の中で、司馬遼太郎さんがしゃべっているところを引用してみました。

 〈昔からぼくは、日朝同祖説を何となく確...
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