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盲目の老人アッピウスの気概…必要な老いへの備えと想像力

キケロ『老年について』を読む(4)老いは徐々にやってくる

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
『老年について』(キケロー著、中務哲郎翻訳、岩波文庫)
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アッピア街道などを作ったアッピウス・クラウディウスは、老いて盲目になっても元老院でしっかりと演説して、亡くなるまで周りの連中に対して気概ある態度を見せた。これは希有な例だが、大事なのは日頃からの努力で、自分が60代70代になったときに何が起こるか、想像力を持つことも必要である。ボーヴォワールは「老いは不意打ちである」と述べたが、カトーにいわせれば、老いは突然ではなく「徐々にやってくる」。それなりの備えをすればいいのに、それをしないから不意に来たように思うのである。(全9話中第4話)
時間:10:30
収録日:2023/06/12
追加日:2024/01/27
≪全文≫

●老いて盲目になっても気概ある態度を見せたアッピウス


―― 今の箇所には「飲食は体力を圧し潰すほどではなく、体力が回復されるだけを摂るべきである」という言葉もあります。ローマの宴会は「食べて、吐いて」といったイメージがあります。わざわざ書いているのはローマの飲食が相当ヘビーだったからでしょうか。

本村 そういう場面もあるでしょうが、それはすごく豊かな人が、たまの宴会でやっていることです。ご馳走がいっぱい出てきて、食べきれないから吐き出して、また食べたということです。でも庶民レベルでそんな余裕はありません。

 また、吐き出すためにそこに行くというのも、長続きするはずがない。たまにそういう場面があるから強調されるだけで、日常的にそんなことまでやってなかったと思います。

―― 少し特別な場、誇張された場ということですね。

本村 年に何回か、お金持ちがやっていたかもしれないですね。

―― また、老年の方の家族とのあり方として、印象深い事例がカトーの言葉として挙げられています。

 「四人の頑健な息子、五人の娘、あれほどの大家族、あれほどの庇護民を、アッピウスは老いて盲目であったにもかかわらず統率していた。(中略)家族に対しては、影響力どころか絶対命令権を保持していた。奴隷たちは怖れ、子供たちは敬い、皆が親愛していた。彼の家では先祖の遺風と規律がしっかりと生きていた。

 われとわが身を守り、己れの権利を保ち、誰にも隷属せず、息を引きとる瞬間まで一族を統べ治めてこそ、老年は尊敬に値する。」

 ということで、これは現代の老人には難しいと思いながら読みました。今もイタリアは大家族といわれますが、当時のローマは、大家族の中で家長といいますか一番年上の方が重んじられたのでしょうか。

本村 今はむしろマンマ、つまりお母さんのほうが力を持っている印象があります。

 アッピウス・クラウディウスは、アッピア街道やアッピア水道を造った人で、先見の明があり、いろんなことをやりました。

 老年になってもローマ人がギリシア人との戦争で少し尻込みしているときに、気概ある態度を見せています。

 「おまえたちはかつて、アレキサンダーがわれわれのと...
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