編集長が語る!講義の見どころ
地獄の責苦を生々しく描き、「念仏」を説いた名僧・源信【テンミニッツTV】

2021/05/04

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
本日は大好評をいただいている、頼住光子先生(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)の「【入門】日本仏教の名僧・名著」の講義シリーズより、「源信」編を紹介します。

源信(942~1017年)は、天台宗の僧侶でしたが、日本仏教において浄土信仰を確立した人です。恵心僧都という尊称でも知られます。

この講義シリーズでは、名僧の原文を頼住先生の解説で読み解いていきますが、今回の注目ポイントは源信が記した阿鼻叫喚の「地獄描写」です。原文で読んでも、その恐ろしさが肌身に伝わってきます。お寺などで「地獄絵図」をご覧になった方も多いと思いますが、思わずそれを思い出してしまうほどの生々しさ。源信のこの地獄描写が、浄土信仰への思いを、大いにかきたてたことは想像に難くありません。

浄土信仰といえば、「念仏をすれば浄土に往生できる」という教えで知られますが、なぜそのような信仰が盛んになったのか、また源信は何を唱えたのかを、頼住先生はとてもわかりやすく教えてくださいます。源信の後に浄土宗や浄土真宗を立てていった法然や親鸞の教えを知るうえでも、源信が何を考えたのかを知ることは重要です。

◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~源信編(全2話)
(1)末法思想と浄土信仰
末法直前に法華一乗思想と浄土信仰を両立した源信の教え
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3933&referer=push_mm_rcm1

なぜ、源信の「浄土信仰」が大きな影響を与えることになったのか。それを考えるときに重要なのが「末法思想」だと頼住先生は教えてくださいます。日本では1052(永承7)年から「末法」に入るといわれていました。「末法」というのは仏教で唱えられていた時代区分で、末法になると、仏の教えは残ってはいるけれども、修行することも悟りを開くこともできないと考えられていました。

冒頭に掲げた源信の生没年(942~1017年)を見れば明らかなように、源信が生きていたのは「末法の直前期」ということになります。修行も悟りを開くこともできないときにどうするか? その問題意識が大きくあったというのです。

ここで、「阿弥陀仏にすがって念仏することで、浄土に往生し、浄土で修行をして悟りを開こう」という教えが、説得力を持つようになります。なぜ、そのような考えが浮かび上がってくるのでしょうか。その理由は、阿弥陀仏が「成仏」した経緯にありました。

元になったのは「無量寿経」に書かれた法蔵神話です。大昔、ある王様が発心して出家し「法蔵比丘」という僧侶になりました。法蔵比丘は一生懸命に修行をして阿弥陀仏に成仏するわけですが、修行をするにあたって48の誓いを立てていました。そのなかに「生きとし生けるものが念仏をして浄土に往生できるまで、自分は成仏しません」というものがあったのです。

そのような誓いを立てた法蔵比丘が阿弥陀仏として成仏したのだから、阿弥陀仏にすがって念仏をすれば、一切衆生が浄土に往生できるのは間違いない。とりわけ末法の世になったら、もう修行も悟りもできないから、念仏をするほかない……。その浄土教の教えが、望みの綱になったのでした。

源信は、このような浄土教の教えを『往生要集』という有名な書にまとめました。この『往生要集』で源信は、地獄などの様子を描き出し、浄土に往生するためには具体的にどのように念仏をすればよいかという方法論を説きました。

『往生要集』の地獄描写は、いろいろなお経に書かれているものを源信が集めてきたものだといいます。仏教では、「六道輪廻」が説かれました。この世界には六つの世界があって、生きとし生けるものはそこを輪廻していく。一番上が「天」。その下が「人間(じんかん)」すなわち人間の世界。次に「修羅」「畜生」「餓鬼」「地獄」と続きます。

六道のそれぞれのあり方(とりわけ地獄の姿)について印象的な描写を集めて示してみせた源信の編集能力の高さを、頼住先生は強調されますが、この講義で学ぶと、そのことにつくづく納得させられます。

また、源信が説いたさまざまな念仏のスタイルも、頼住先生はご解説くださいます。元々の念仏のスタイルは、現在のわれわれが思い浮かべるものとは違う部分も多いものでした。では本来、念仏とはどのようなものだったのか。そのことについても、本講義で存分に学べます。

源信は平安時代中期の名僧ですが、その後の日本仏教の流れに、まことに大きな影響を与えたキーマンだったことがよくわかる講義です。

(※アドレス再掲)
◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~源信編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3933&referer=push_mm_rcm2

※本文の補足:頼住先生の「頼」は、実際には旧字体です


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☆今週のひと言メッセージ
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「本に断られることはない」

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4001&referer=push_mm_hitokoto

『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)

人に、「あなたの考えを聞かせてください」と言うと、場合によっては断られてしまうかもしれません。しかし、本に断られることはありません。
(中略)
どれを読んでも断られず、しかも一番大事なことを教えてくれるというのは、とても効率が良いのです。これを使わない手はないなと。


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編集後記
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編集部の加藤です。皆さん、今回のメルマガ、いかがだったでしょうか。

現在GW中ですが、緊急事態宣言が出されているところもありますので、このメルマガをご自宅でご覧になっている方も少なくないのではないでしょうか。
こんなときには、積んでおいた本をじっくりと読むのもいいと思います。それとともに今回おススメしたいのは、先週金曜日(4/30)から始まった以下の新しい特集です。

◆<人生を豊かにする「教養」の本質と可能性>特集
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=112&referer=push_mm_edt

この特集には、今週のひと言メッセージで取り上げた橋爪大三郎先生の教養と本の関係についての講義あり、前回のメルマガでご紹介した 津崎良典先生と五十嵐沙千子先生(お二人とも筑波大学人文社会系准教授)による「教養とは何か」を語り尽くす講義あり、出口治明先生(立命館アジア太平洋大学<APU>学長)が語る「教養と日本の未来」講義ありと、いろいろな分野の方がそれぞれの視点で「教養」について迫っている特集です。ぜひご視聴ください。