編集長が語る!講義の見どころ
現在の「日本企業論」の根本的なおかしさとは(楠木建先生)【テンミニッツTV】

2021/05/11

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
このところ、家電量販店やスマホショップなどに行くと、日本企業の製品が少なくなっているように感じることが多くなりました。半導体なども、かつては日本の独壇場でしたが、2020年の半導体メーカー別売上ランキングでは、ようやく10位に1社入るくらいです。

日本人の経営力が落ちてしまったのではないか――気を吐くアメリカや台湾、中国などの企業のあり方を見ると、ついついそう思いたくなってしまいます。

しかし、そのような「日本企業論」は正しいのか? この点について、楠木建先生(一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授)が、とても興味深い講義をしてくださいました。

◆楠木建:野獣の経営、家畜の経営(全2話)
(1)経営センスが育つ土壌
ファーストリテイリングで経営者が育つ理由
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3745&referer=push_mm_rcm1

楠木先生のお話のポイントは、多くの人が陥りがちな「浮ついた考え方」に、鋭くメスを入れてくださるところにあります。渦中に巻き込まれて前後左右の感覚を失った人では持ちえない俯瞰的視点から、本質をズバリとえぐり出す講義は、まことに絶品です。

たとえば楠木先生は、「日本企業」と十把一絡げに論じることの「おかしさ」を、小学校のクラスを例に出して指摘されます。

《小学校のクラスを見ると、それぞれ個性がある小学生たちといっても、普通の子どもなので、同じような感じです。しかし、そこから40年たって、同窓会で会ってみると、それぞれにいろいろな人生があり、ずいぶんバリエーションが広がっていると思うのです。

 それと似たことが成熟にもあって、高度成長期までの日本は、「日本企業」という集合名詞の効き目が、いまよりもあったと思うのです。共通の強みなり弱みなりを持っていたので、「日本的経営」という言い方が、まだ成立していました。

 ただ、それから40年たって、良くも悪くも十分に成熟して、「日本企業」とか「日本的経営」のバリエーションはものすごく広がっています。製鉄メーカーや自動車メーカー、電機メーカー、総合商社など、経済成長期のメインプレーヤーを念頭に置いて日本企業という人もいれば、メルカリなど、その後に出てきたものを日本企業という人もいるわけです。これを一緒にして「日本企業」ということには、相当無理があります》

「小学校時代の同級生と、40年後の同窓会の違い」――まさに、楠木先生のご指摘のとおりでしょう。

しかも、柳井正さん(株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)の事例を引きながら、「経営センス」についての次のように指摘されるのも、まさに「おっしゃるとおり」です。

《直接育てる方法がないのがセンスですから、自分で自分のセンスを磨いて、自分で育つしかない。そして、センスが育つ土壌が豊かにあるかどうかは会社によって違うのです》

戦後の日本は、世界各地にバンバン人を送って、それぞれの土地で新しく事業を立ち上げて経営をしていかなければならなかった環境下でした。しかも、日本よりも海外のほうが生活面で魅力的なことも多く、若い人も積極的に海外に行きたがった。どんどん経営者人材が必要で、それに応えたいと思っている人もたくさんおり、しかも若いうちから様々な経験を積むこともできた。だからこそ、黙っていても人が育っていったのです。

現代の中国は、それに近い環境です。しかし、いまの日本は、ファーストリテイリングのような一部の企業を除けば、決してそのような状況ではありません。「時代背景、環境によって、天然の土壌が豊かだったということなので、これからは、企業の経営者が、センスが育つ土壌を自ら耕して、肥料をぶち込まないといけない。昔のように、天然物というわけにはいかないと思うのです」と楠木先生はおっしゃいます。

だからといって、中国を礼賛して、中国のマネをすれば良いというものではありません。日本は、中国などとは違い、すでに成熟しきった国だからです。「成熟した国だからできること、商売としてもできることはたくさんあると思うのです。もう少し、成熟していることをポジティブに考えるべきだと思います」というのが、楠木先生のメッセージです。

時流に軽々に流されて失敗しないための思考軸がしっかりと学べる講義です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆楠木建:野獣の経営、家畜の経営(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3745&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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「異見に耳を傾ける態度を取るのがリーダーの責任」

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3960&referer=push_mm_hitokoto

戦国に学ぶ組織存続の分かれ目は「異見」を聞けるかどうか
小和田哲男(静岡大学名誉教授/文学博士)

リーダーの役割は、聞く耳を持つこと。異見に耳を傾ける態度を取るのがリーダーの責任でしょうね。いかにそのように持っていくかは、補佐役の役割ということもありますけれどもね。


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今週の人気講義
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『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎(社会学者)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4001&referer=push_mm_rank

2021年4月16日の日米共同声明、その真意を読み解く
小原雅博(東京大学大学院 法学政治学研究科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4029&referer=push_mm_rank

末法直前に法華一乗思想と浄土信仰を両立した源信の教え
頼住光子(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)
※補足:頼住先生の「頼」は、実際には旧字体です
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3933&referer=push_mm_rank

レヴィ=ストロースの「ブリコルール」と「教養がある人」
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)
五十嵐沙千子(筑波大学人文社会科学研究科准教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3987&referer=push_mm_rank

カルロス・ゴーン氏が来る以前の日産の最大の問題とは?
西川廣人(日産自動車株式会社 元代表執行役社長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4019&referer=push_mm_rank


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編集後記
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編集部の加藤です。皆さん、今回のメルマガ、いかがだったでしょうか。

今回は、今月のプレゼント本を紹介いたします。

橋爪大三郎先生の著書
『人間にとって教養とはなにか』(SB新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4815607508/

今週の人気講義でも挙げたように、現在、橋爪先生のシリーズ講義<今こそ問うべき「人間にとっての教養」>が大好評配信中ですが、今月のプレゼント本はその講義のもとになっている本で、特集<人生を豊かにする「教養」の本質と可能性>のテーマでもある「教養」の本質と可能性について教えてくれる貴重な本です。
そして、今回は橋爪先生直筆のサイン入りです。

ご応募がまだという方は以下よりぜひ。
https://10mtv.jp/
※「あなたにおすすめ」のところの「今月のプレゼント」でご確認ください。